ユーザの感情を認識する家電製品が登場!? ユニークなLSI技術に注目集まる ―― ET(Embedded Technology)2008

組み込みネット編集部,北村 俊之

tag: 組み込み 半導体

レポート 2008年11月26日

 2008年11月19日~21日,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて,組み込み技術に関する展示会「ET(Embedded Technology) 2008」が開催された.3日間の来場者数は26,892名で,昨年(2007年)と比べて若干,増加した.景気減速の影響を受けつつも,昨年並みの集客を維持した.

 展示会場では,感情認識アルゴリズムを実装した組み込みマイコンや,ダイナミック・リコンフィギャラブル回路を備えたメディアプロセッサなど,技術的にユニークなLSIが注目を集めていた.

●32ビット組み込みマイコンが音声から感情を認識

 セイコーエプソンは,32ビットCPU「C33シリーズ」上で動作する感情認識ソフトウェアのデモンストレーションを行った(写真1).声の周波数の時間軸変化をリズムとしてとらえることで,喜,怒,哀,平常,笑,興奮といった6種類の状態を認識する.言語を問わないため,言葉の辞書を搭載する必要がない.音声感情測定の技術研究会社であるAGIが4年前に商品化し,パソコンのCPU上で動作しているソフトウェアを,数十MHzで動作する32ビット組み込みマイコンで処理できるように最適化した.今後は専用チップを開発して提供していきたいという.

 例えばエアコンに本機能を搭載すれば,利用者が「暑い」といったとき,ものすごく暑くて怒りを含んでいるのか,なんとなくつぶやいただけなのかを判断できる.怒りを含んでいると判断すれば急速冷房を行うなど,利用者の気持ちに沿ったエアコンの制御が可能となる.

 2009年から2010年においての商品化を目指して,市場調査を行っている.

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[写真1] 感情認識ソフトウェアを搭載した32ビットCPU「C33シリーズ」

 また同社は,微小アナログ電圧を出力するセンサの後段に接続するセンサ・アシストIC「S1A90001」を展示した(写真2).センサからの微小信号を増幅した後,A-D変換する.本センサは,ゲインやオフセット電圧,フィルタ帯域を調整できる計測回路を3チャネル,10ビット逐次比較型A-Dコンバータを1チャネル,センサ駆動用12ビットD-Aコンバータを3チャネル,フィルタ設定やゲイン設定情報を保持する256ビットEEPROM,外部接続用SRAMインターフェースなどを搭載する.

 展示会場では,温度センサや圧力センサ,衝撃センサ,脈拍センサ,加速度センサ,ジャイロ・センサなどと接続し,その情報をパソコンに表示してみせた.量産開始は2009年第2四半期から.

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[写真2] センサ・アシストIC「S1A90001」の外観

●ダイナミック・リコンフィギャラブル技術を使ったメディアプロセッサ

 NECエレクトロニクスは,ストリーム・データ処理を効率よく行えるメディアプロセッサ「XBridge」を展示した.本プロセッサは同社とNEC 中央研究所が共同開発したLSIである.MIPS 4KEcコアのほか,コプロセッサとしてダイナミック・リコンフィギャラブル回路「STP Engine」を搭載する.例えば画像の縮小などに利用されるBicubicアルゴリズムを実行したところ,汎用CPUのみで処理した場合と比べて,スループットが約15倍に,消費電力が約1/50になったという.

 ダイナミック・リコンフィギャラブル回路はFPGAに似たアーキテクチャをとる機能ブロックで,チップの動作中に動的に回路構成を切り替えながら複雑な演算処理を実現する.STP Engineでは,プログラマブル演算器アレイ(256個の8ビット演算器,96個の4Kビット・デュアルポート・メモリ,16個の64Kビット・シングル・ポート・メモリなど)とDMAコントローラを内蔵している.プログラマブル演算器アレイは,8ビットALUの周囲をメモリや乗算器が取り囲む構成になっている.これにより,積和演算を伴うフィルタ処理やマルチメディア処理を効率よく実現できる.また,これらの演算器を並列に並べて動作させることで,性能を引き上げられる.

 STP Engineの演算器アレイを制御するプログラムはC言語で記述する.STP Engineの開発環境の内部では,Cコードに対してビヘイビア合成,論理合成,配置・配線を実施してハードウェアを生成しているが,ユーザはこうした処理を意識する必要はない.

 また,266MHz動作の64ビット・オンチップバス,DDR2 SDRAMインターフェース,PCI Expressインターフェース(1レーン,2チャネル),Ethernet MAC(10M/100Mbps),PCIバス・インターフェース(32ビット,33MHz),NOR型フラッシュROMインターフェース(16ビット),汎用データ・インターフェース(8ビット,4チャネル,50MHz)を備える.パッケージは27mm×27mmの960ピンFCBGA.MIPS 4KEc上で動作するOSとして,VxWorksとLinuxに対応する.

 既にサンプル出荷を開始している.量産出荷は2009年中の予定.また,同社はSTP Engineを内蔵したビデオ処理用ASICがソニーの業務用ディジタル・ビデオ・カメラ「PMW-EX1」,「PMW-EX3」,「PMW-EX30」に組み込まれていることも明らかにした(写真3)

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[写真3] NECのダイナミック・リコンフィギャラブル技術がソニーの業務用カメラに

 また同社は,高機能化と低消費電力化を追求した携帯型マルチメディア機器向けLSI「EMMA Mobile 1」も展示した.本LSIは,500MHz動作のCPUコア「ARM1176JZF-S」と500MHz動作のDSP「K701」,画像処理アクセラレータ回路などを集積しており,多様なコンテンツの再生や大画面LCDへの対応を実現している.ビデオ再生については,H.264/MPEG-4/VC-1のD1@30fpsに対応する.また,カメラ,OFDM,USB,SPI,UART,PCM,IICなどの各種インターフェースを内蔵している.今後,CODECソフトウェアなどを提供する予定.リファレンス・ボードなどの開発環境は,パートナとの協業でそろえていくという.

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[写真4] NECエレクトロニクスの「EMMA Mobile1」

●SD/SDHC-ATAブリッジLSIを展示

 富士通マイクロエレクトロニクスは,SD/SDHC-ATAブリッジLSI「MSC1007」を展示した(写真5).本LSIの内蔵SDコントローラは,高速SDメモリおよび4Gバイト以上のSDHメモリの両方をサポートしている.またスループット向上のために,IDEの拡張仕様のUltra ATAで導入されたIDEインターフェイスの転送方式であるUltra DMAモード3をサポートしている.IDEインターフェースはATA-6仕様に準拠しているため,HDDからの移行が容易であり,消費電流が少ない,SDHCメモリ・カードを容易に実装できることなどから,SDカード搭載ビデオ・カメラやSD対応のビデオ・レコーダ,テレビなどに利用できる.

 展示会場では,本LSIを使用したSSD(Solid State Drive)と2.5インチ型ハード・ディスク装置の消費電力を比較するデモンストレーションを行っていた.

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[写真5] 富士通マイクロエレクトロニクスの「MSC1007」

●ソフトウェアの入れ替えで対応CPUを変更できるJTAGエミュレータ

 ソフィアシステムズは,ソフトウェアの追加購入によって新たなCPUに対応できるJTAGエミュレータ「EJ-SCATT」を展示した(写真6).本JTAGエミュレータはハードウェア本体とソフトウェア・ライセンスが別売になっている.

 本体から直接ターゲット上のフラッシュROMにプログラム・データを書き込むことができる.すなわち,パソコンに接続することなく,スタンドアロン型のフラッシュROMライタとして使用できる.JTAG機能の高性能化を図ることで,1Mバイト/sの大容量データの転送を可能にした.また,作業を簡素化できるように,シンボルとオブジェクトを同時にダウンロードする構造を採用した.

 現在の対応CPUはARMシリーズ,PXAシリーズ,SHシリーズなど,対応OSはWindows CE,Linux,TOPPERS,VxWorksなどとなっている.

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[写真6] ソフィアシステムズの「EJ-SCATT」

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