新人技術者のためのロジカル・シンキング入門(10) ―― 「工学の知」を実務に生かす
最終回は,本連載のタイトルとなっている「ロジカル・シンキング」という物の考え方について解説する.ロジカル・シンキングは,エンジニアに不可欠な物の考え方そのものである. (編集部)
技術解説・連載「新人技術者のためのロジカル・シンキング入門」 記事一覧
第1回 いかにしてバグの原因を突き止めるか
第2回 プログラミングにおける良いデータ構造
第3回 「必要とされる設計書」の作り方
第4回 直したバグがゾンビのごとく復活する
第5回 ソース・コード規約の作り方
第6回 ハードウェア基礎の基礎
第7回 「ひたすら流すだけのテスト」にさよなら
第8回 CPUの演算量をひたすら削る
第9回 メモリ転送速度の最適化設計
第10回 「工学の知」を実務に生かす
●お知らせ
本連載記事を元に加筆・再編集した書籍『組み込みエンジニアのためのロジカル・シンキング入門』が好評発売中!
Gさんは,あるソフトウェア会社の課長です.彼は,現場一線のエンジニアだったころは「火消し役」として,あちこちの開発チームから重宝されていました.徹夜で何千ステップものプログラムを仕上げ,しかもバグがほとんどないという彼の技術力は,いろいろな人から頼りにされていたのです.
「現役」時代はその腕力にものを言わせてトントン拍子に出世したGさんでしたが,晴れて管理職となった今では,実際にプログラムを作成することはなくなりました.今ではもっぱら,足を棒にして営業に回る毎日です.
今日は,忙しい営業活動の合間をぬって,組み込みシステム関連の展示会に来ているところです.いろいろと展示を見てまわったGさんはその日の終わりに,ある講演会に参加しました.そこでは,名の知られたITコンサルタントが「ユビキタス社会における今後の戦略」について熱弁を振るっていました.
講演を聴き終わったGさんは不満げです.現場たたき上げのGさんは,この手の議論に日ごろから懐疑的だったからです.要するに,経営戦略論につきものの「ロジカル・シンキング」などといった問題解決のテクニックの類を耳にすると,Gさんのおへそは大いに茶を沸かすのです.
「あいつの話はどうもまゆつばものだなあ....おれが足で集めた情報と照らし合わせると,いろいろなほころびが見える.プレゼンそのものはうまいが中身がない.やはりあの手のロジカル・シンキングとやらはくせ者だ....おっと,今日の接待は何時からだっけ?」
今日は大切なお客さまを接待する日です.Gさんは足早に予約してある飲食店に向かうのでした.
● システム開発における「ロジカル・シンキング」
最終回となる今回は,今までロジカル・シンキングとして紹介してきた物の考え方を,いわば総論的に紹介します.また,MECE(ミーシーと発音)と呼ばれるロジカル・シンキングのキー・コンセプトや,ロジカル・シンキングというアプローチ自体が持っている限界についても解説します.
【1】「いきなり解決策に飛びつかない」がポイント
【2】MECEというキー・コンセプト
【3】工学的な物の考え方とは何か