新人技術者のためのロジカル・シンキング入門(10) ―― 「工学の知」を実務に生かす

冴木 元

tag: 組み込み

技術解説 2008年11月27日

【3】工学的な物の考え方とは何か

● 理論と実務の埋めがたい隔たり

 工学という学問の世界を眺めてみると,機械工学や電気工学などの個々の工学分野はありますが,「エンジニアの考え方」を一般的に研究するような「一般工学」のような学問分野は存在しないことに気付きます.もちろん,そのようなものを作ろうとする試みは数多くあるのですが,そのようなことを試みる人たちは皆,何らかの工学分野に精通した上で自分の経験を一般化して述べています.「工学的な考え方そのもの」は,それだけでは研究対象になりにくいのです.

 ここで筆者が強調したいのは,「ロジカル・シンキング」は,工学的な物の考え方を経営課題の解決に応用することで,学問の形態をとらないにも関わらず「工学的な物の考え方一般」を定式化しえた,奇妙な成功例だったのではないかということです.

● 工学とは何か:理論と実務の対立を超えるための問い

 ソフトウェアの世界においても,理論と実務の対立は存在します.特にソフトウェア工学は,その歴史の短さを考えればまだ揺らん期にあると言わざるを得ません.

 理論と実務の対立がある中で,それを乗り越えるために必要なものは何でしょうか.その問いに答えるためには,個々の知識よりも,それに先立つ「工学的な物の考え方とは何か」という根本的な問題を見つめ直すことが何よりも不可欠であると筆者は考えます(図8).この視点が欠落していると,実務家の提供する文章は,単なる使い捨てのノウハウ集に終わってしまうからです.

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図8 表面にとらわれず,根本的な問題を見つめ直そう

 では,「工学的な物の考え方とは何か」という立場から組み込みソフトウェア開発を眺め直すとどうなるのでしょうか.それに対する筆者なりの回答がこの連載であり,ロジカル・シンキングはそのためのツール(道具)だったのですが,この試みがどの程度成功したのかは,読者の判断を仰ぐほかありません.

 連載を続ける中で,「記事が役に立った」というありがたい感想をいただくこともありました.そのような読者の方は,筆者が紹介したノウハウの背後にある「物の考え方」にまで理解を及ぼしていただきたいと思います.実務家である読者の方々は,ソフトウェアの教科書には絶対出てこないような課題にぶつかることがしばしばあると思います.前例のないものであっても,解決すべき問題は多くあります.そのようなときに,この記事が役に立つことがあれば幸いです.



参考・引用*文献
(1)冴木 元;「ひたすら流すだけ」にさようなら,Design Wave Magazine,2007年1月号,pp.119-124,CQ出版社.
(2)畑村洋太郎;失敗学のすすめ,p.67,講談社,2000年11月.
(3)大前研一,斉藤顕一;実践!問題解決法,p.19,小学館,2003年6月.


さえき・はじめ
<筆者プロフィール>
冴木 元.システム・エンジニア.10回続いたこの連載も今回で終了となります.この回で連載を止めるのは雑誌との「お約束」で,別に,筆者が原稿を落として継続困難になったからでも,ネタ切れを起こしてギブアップしたからでもありません.またお目にかかる機会もあるかと思いますので,その時は再びご愛顧願いたいと思います.今まで読んでいただいた方々,どうもありがとうございました.

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