「組み込み技術者教育」の理想と現実(2) ―― 組み込みエンジニアへの技術習得支援が焦眉の急

近森 満

tag: 組み込み

コラム 2008年10月17日

 筆者はかつて,大手電機メーカで製品開発や市場開拓の業務に携わっていました.その後,IT人材育成支援の仕事に転じ,現在は組み込み業界の技術者育成支援のため,組込みシステム技術協会(JASA)の下で「組込みソフトウェア技術者試験」の普及推進活動に取り組んでいます.

●電子・情報系職種の人気が低迷

 若者の間で理工系離れが進んでいると言われて久しいのですが,昨今では,さらに電子・情報系のエンジニアを志す若者が減ってきています.大学や各種専門学校の電子・情報系学部への応募者数が減ってきているのはもちろんのこと,電子・情報系学部を持っている学校そのものが減少しています.企業の人気ランキングでも,電子・情報系の会社が上位に入るケースが少なくなってきています.その一方で,組み込み業界の人材難の問題は深刻です.

 経済産業省が発表した「2006年版 組込みソフトウェア産業実態調査報告書」によると,20万人のエンジニアが組み込み技術関連の業務に従事しており,必要な人材が94,000人不足しているという数字がでています注1.足りない分はオフショア開発(海外への開発拠点のシフト,および海外企業への開発業務委託)に頼らざるをえないのでしょうが,それとは別に,国内の人材育成のてこ入れも必要だと思います.

 注1https://sec.ipa.go.jp/download/200606es.phpを参照.

 ただし,このような問題は今に始まったことではなく,筆者の知る限り,20年近く前から「マイコン・エンジニアの不足」は電子業界の課題の一つになっていたと思います.

●個人の自己研さんに頼っている知識習得

 それでは,企業における組み込み技術者育成に対する取り組みは,どのような状況になっているのでしょう.

 筆者は,人材育成の観点で,多くの企業経営者や教育担当者から話を聞く機会がありますが,多くの方が以下の三つのポイントを指摘します.


  • 組み込み技術には幅広い知識が必要

  • 技術流動があり,スキル習得が容易ではない

  • コミュニケーション能力が重要


 どれも大きな問題ですが,共通項があります.それは「知識の必要性」という点です.コミュニケーションも技術(知識とスキル)の上に成り立っています.また,技術は変化(発展)していくことが当たり前なので,継続的に習得する必要があります.組み込みシステム開発では,扱う製品や部品,アーキテクチャなどによってさまざまな技術が必要となるので,幅広い知識が要求されます.

 エンジニアのこうした知識習得の問題を企業側がどう考えているのかというと,残念ながら,個人の自己研さんに任せているケースが多いように見受けられます(会社の規模や方針にもよるが...).

 現場で必要となる知識の習得は急務ですが,半導体デバイス一つをとっても,理解するのに分厚いマニュアルを読み下す必要があります.また,実務体験から得られる知識とは別に,座学の研修会などから得られる知識もあるはずです.

 昨今の組み込みシステムは大規模化する傾向にあり,昔のようにハードウェア・エンジニアが片手間でソフトウェアを作って組み込めばよい,という時代ではありません.規模の大きいソフトウェアであればプロジェクトを組み,チームをいくつも編成します.納期の短縮が要求されることも多く,技術者は休む暇もありません.開発に必要となる知識やスキルが,プロジェクトを開始する段階で分かっているのであれば,エンジニアへの技術習得支援は計画的に行っていくべきでしょう.

●世界に誇れる"解決手法"を作りたい

 すべての企業がそうとはいえないと思いますが,一般に,現場の技術者が足りなくなると,パートナ企業や人材派遣会社などに頼らざるをえなくなります.人材難ですから,集まるエンジニアの知識レベルもスキル・レベルもばらばらです.プロジェクトが立ち上がるたびに,集まったエンジニアに対して2週間~1カ月程度の再教育を施し,それから現場に投入し,プロジェクトが完了すれば解散するという循環が出来上がりつつあります.そのようなとき,技術者の持っている知識やスキルを測定したい,適材適所で人材を配置したい,という要求が出てきます.

 現在,そのための「組込みスキル標準」注2や,「組込み技術者試験制度(ETEC)」注3などが存在します.世界に誇る日本の組み込み技術において,その担い手をどう育成するか.その解決手法も世界に誇れるものにしていきたいと,筆者は考えています.

 注2https://sec.ipa.go.jp/download/200504eb.phpを参照.
 注3http://etec.jasa.or.jp/を参照.


ちかもり・みつる
(株)サートプロ / 社団法人 組込みシステム技術協会 ETEC運営事務局
(本コラムはInterface 2007年2月号に掲載されました)

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