初めての技術系コミュニティ活動(2) ―― コミュニティで実践的スキルを身に付ける
●自ら発信することで,スキルが磨かれる
PFPワークショップでの議論が,自律的なプロジェクト改善に非常に有意義な効果をもたらすと考えた筆者は,社内でPFの勉強会を開催しました.この勉強会は,PFPと同じようにワークショップ形式で行いました.PFのフレームワークを基に,参加者がプロジェクトの課題に向き合うことで,改善の行動を生み出すきっかけになりました.社内の勉強会では,社外には出すことのできないより踏み込んだ課題検討や,本音を交換することもできます.勉強会の後,社内でもPFのプラクティスを取り入れるチームが増えてきました.今では,コミュニケーション促進やモチベーション・マネージメントの手法の一つとして,社内でも実績が認められています.
この勉強会も,立ち上げたばかりのPFPにとっては興味深い事例の一つになります.後日,この勉強会の成果についてPFPのスタッフの方と話していたところ,「ぜひPFPで紹介してほしい」という依頼を受けました.もちろん,社外での発表は初めてでしたが,会社からの許可(勉強会事例に限れば問題ないという判断)も得られたので,思い切って発表してみることにしました.
勉強会事例の発表と併せて,PFをプロジェクトに導入するための「きっかけ作り」について考えるワークショップを実施しました.ワークショップに参加した方からは,後日,ワークショップの成果を自分の会社に持ち帰って実践し,改善活動を進めるきっかけになったという報告も頂きました.
PFPで発表したのを機に,コミュニティのスタッフとして活動するようになりました.運営に回ることで,より実践的な多くの情報に触れるようになり,PFに対する考えが深まります.コミュニティ・メンバの皆さんから出てきた課題をピックアップしてワークショップで取り組むテーマを検討することで,ソフトウェア業界全体の動向をつかむことができます.コミュニティの情報交換用Wikiページを立ち上げたり,コンテンツを作ったりして,ワークショップに参加できなかった人にも成果を共有してもらえるようにもしました.コミュニティ運営で身に付けたファシリテーション・スキルが,そのまま日ごろの仕事に生きていることも実感できるようになりました.
現在ではソフトウェア業界内でもPFに関心を持つ方が増え,いくつかの技術系雑誌やWebサイトから執筆依頼などを頂くようになりました(稿末の参考文献を参照).より多くの現場でPFの考え方を活用してもらえるように,活動の範囲を広げています.
●コミュニティに参加しよう
「Project Facilitation Project(PFP)」は,数名の有志メンバで企画され,メーリング・リストを立ち上げて活動を開始したのが2005年11月です.今では,メーリング・リスト参加者は550名を数えます.関東・関西を中心に約30回のワークショップが行われ,北海道や名古屋,九州でのワークショップも企画されています.これからPFを勉強してみたいという皆さんのための書籍やWebの情報も充実してきました.このように,同じ目的意識を持つエンジニアがお互いの課題や事例を共有することで新たな価値を生み出し,業界全体の改善に貢献できるようになっています.
このような技術系コミュニティ活動は,PFに限らず,オープン・ソース・プロジェクトや各種プログラミング言語など,ソフトウェア業界の発展を考える上で重要な役割を果たしていくと思います.皆さんも開発現場で取り入れたいと思っている技術や,課題に思っていることがあれば,技術系コミュニティに飛び込んでみてください!
参考文献
(1)新岡 優子,前川 直也,西河 誠,小田 美奈子,上田 雅美:システム開発現場のファシリテーション ――メンバーを活かす最強のチームづくり,技術評論社,2008年1月.
(2)チームを成長させる魔法の杖 ファシリテーション,エンジニアマインド Vol.4,技術評論社,2007年5月.
(3)西河 誠;プロジェクトファシリテーションをはじめよう!(第1回),EM ZERO Vol.0,マナスリンク,2008年7月.
(4)Project Facilitation Project(PFP)のWikiページ
http://ProjectFacilitationProject.go2.jp/wiki/
(過去のワークショップ資料や,各種プロジェクトへのPF導入事例が掲載されている)
◆筆者プロフィール◆
西河 誠(にしかわ・まこと).組み込みソフトウェア・エンジニア.各種マイコン制御ソフトウェアやオペレーティング・システムの設計・開発に携わる.Project Facilitation Project(PFP)関西のメンバ.