組み込みにインターネットが爆発的に普及,2015年に150億台へ ―― IDF(Intel Developer Forum) 2008
Intel社は,2008年8月19日~21日,米国カリフォルニア州San Francisco市内の会議場Moscone Center Westにて,開発者向け会議「IDF(Intel Developer Forum) 2008」を開催した(写真1).IDFでは,Intel社の最新および開発中の半導体チップの技術情報,同社が考えるエレクトロニクスの未来像,同社の研究開発活動などが紹介された.本レポートでは組み込み分野に関連するトピックスをお届けする.
[写真1] IDF(Intel Developer Forum)の会場
Moscone Center West(米国カリフォルニア州San Francisco)にて開催された.
同社のDigital Enterprise Group担当シニアバイス・プレジデント(上級副社長)を務めるPat Gelsinger氏は,基調講演で「インターネットの第4の波は組み込み機器によって起こる」との展望を示した(写真2).
[写真2] 米Intel社のDigital Enterprise Group担当シニアバイス・プレジデント(上級副社長)を務めるPat Gelsinger氏
現在,インターネットは携帯電話機の普及という第3の波を迎えている.インターネット接続機能を備えた携帯電話機があまねく普及することで,誰でも,いつでも,どこでも,インターネットにアクセスできるようになった.そして次に起こる第4の波では,組み込み機器にインターネット接続機能が浸透していく.インターネット接続機能を備えた組み込み機器の数は,2015年には150億台に達するとの見通しを述べていた(写真3).
[写真3] 将来のインターネットの姿(第4の波)
現在はインターネット接続機能を備えた携帯電話機の普及によって,誰もがいつでもどこでもインターネットを利用できるようになった(第3の波,図中の左から3番目の丸印に相当).将来は,インターネット接続機能を備えた組み込み機器が爆発的に増大する(第4の波,図中の左から4番目の丸印に相当).
もちろん,インターネット接続機能を備えた組み込み機器が普及するためには,さまざまな課題がある.信頼性の維持,長期間にわたる半導体チップの供給,柔軟性のあるソフトウェア(スケーラビリティ),低い消費電力と低い開発・製造コスト,個人情報の秘匿と機密データの安全確保(セキュリティ),インターネット・アドレスの確保,オープンなネットワーク標準,といった課題をGelsinger氏は挙げていた(写真4).その解決に役立つのがIntel社のマイクロアーキテクチャ,Atomプロセッサ,暗号化技術,無線通信技術などの製品群だと述べていた.
[写真4] 2015年に150億台を達成するための課題と解決策
●組み込み分野で30年以上の実績
続いてGelsinger氏は,Intel社は組み込み分野で30年以上の実績を有すると強調した(写真5).同社が組み込み分野に半導体チップを提供し始めたのは1976年のことである.組み込み技術の国際会議として知られるEmbedded System Conferenceの第1回では,Intel社の元CEOであるAndrew S. Grove氏が基調講演を担ったくらいだ.またi386プロセッサの供給をIntel社が停止したのは2007年のことだと,Gelsinger氏は組み込み機器向けに半導体を長期供給してきた実績の一端を述べた.同社がi386プロセッサの出荷を開始したのは1985年のことなので,実に22年間にわたる長期供給を実現したことになる.
[写真5] Intel社が組み込み分野に取り組んできた歴史
また2006年に組み込み分野での事業が30周年を迎えたことを記念し,オートバイのコンセプト・モデルを特製したことにふれた(写真6).このオートバイは2007年から様々な展示会で披露されており,今回のIDFでも展示会で組み込み関連のブースに設置されていた(オートバイの概要は組み込みネットのレポートに既報).
[写真6] 組み込み分野での事業活動30周年を記念したカスタム・オートバイ「Intel Chopper」
このように,インターネット接続機能を備えた組み込み機器には,新しい半導体製品が必要である.そこでIntel社は2008年4月に,アーキテクチャを一新したマイクロプロセッサ「Atom」を市場に投入した.Atomプロセッサは消費電力が最大でも2W程度と低く,チップセットと合計しても5W以下の消費電力で済む.放熱用のファンを必要とせずに,機器を設計できる.現在までに,Atomを採用した約700機種の組み込み機器が設計されたという.
さらに,x86アーキテクチャのCPUコアとチップセットをワンチップにまとめたシステムLSI(SOC:System on a Chip)「EP80579」を2008年7月に発売した(写真7).ネットワーク機器やストレージ機器などの組み込み機器を想定して開発したチップである.2008年第3四半期に量産を始める予定だ.
[写真7] 「EP80579」のチップ(ダイ)写真
開発コードでは「Tolapai」と呼ばれていたチップである.
またGelsinger氏は,Atomプロセッサとチップセットを組み合わせたプラットホーム「Menlow」の次期製品「Menlow XL(開発コード名)」を2009年第1四半期に,「EP80579」の次期システムLSI「San Onofre(開発コード名)」を2009年上半期に市場に投入すると述べた.いずれも詳細は不明だが,「Menlow XL」は「Menlow」の使用温度範囲を広げたプラットホームになるとみられる.
●デジタル・テレビ受像機を狙ったシステムLSI
Intel社はEP80579のほかにも,x86アーキテクチャのCPUコアとチップセットをワンチップにまとめたシステムLSIをいくつか開発中である.今回のIDFでは,デジタル家電用のシステムLSI「CE3100」が公表された(写真8).同社のDigtal Home Group担当シニア・バイス・プレジデント(上級副社長)兼ゼネラル・マネジャーを務めるEric Kim氏が,基調講演のなかで明らかにした.
CE3100はオーディオ/ビデオの復号化回路,グラフィックス処理回路,ディスプレイ出力回路を内蔵している.特にインターネット接続可能なデジタル・テレビ受像機を想定して開発された.韓国Samsung Electronics社と東芝が,CE3100の採用を決めている.
[写真8] 「CE3100」のチップ(ダイ)写真
開発コードでは「Canmore(キャンモア)」と呼ばれていたチップである.出荷開始時期は2008年9月の予定.
●大量のAtomボードとSOCボードを展示
こういった動きを受け,IDF 2008に併設の展示会ではAtomプロセッサを搭載したボードと,EP80579を搭載したボードが大量に展示されていた.以下は展示されていたボードの写真である.
[写真9] Atomプロセッサ搭載ボードの展示例(クリックすると拡大)
[写真10] EP80579搭載ボードの展示例(クリックすると拡大)
ふくだ・あきら
テクニカル・ライタ/アナリスト