Hamanaプロジェクトを支える「職人技」 ―― 模型ロケットの機体を製作する松本 哲明氏を取材

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2008年8月 5日

 「Surveyor/Hamana Project」――それは,模型ロケットに搭載できる観測機器を開発するプロジェクトである.本プロジェクトは環境調査というテーマの下,ソフトウェア開発に留まらない「組み込みシステム全体」を開発できる機会として,技術者教育などに活用されている.2008年に実施する5回目のプロジェクト「Hamana-5」には,ヴィッツ,東海ソフト,ワイ・デー・ケーなどの企業チームや,東海大学 専門職大学院 組込み技術研究科の学生チームなどが参加し,10月に実施される最終打ち上げを目指して今まさに開発を進めているところだ.

 多くの教育プロジェクトの例に漏れず,本プロジェクトもボランティアのスタッフたち(Hamana実行委員会)によって企画・運営されている.打ち上げ場所の確保や模型ロケットの調達,模型ロケットに搭載できる基板やマイコンなどのキット(ペイロード・キット)提供,保険の手配など,さまざまな作業を彼らが担ってくれている.そんな作業の一つが,観測機器を搭載する模型ロケットの機体製作だ.今回は,機体の設計から製作までを一手に引き受けているHamana実行委員会の松本 哲明氏(ワイ・デー・ケー)を取材した(写真1)

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[写真1] 模型ロケットの機体製作を担当する松本 哲明氏
このちゃぶ台が松本氏の工房である.

●ロケットは"木工細工"だった

 模型ロケットは市販のもの(米国Estes Industries and COX社製など)もあるのだが,海外から購入するのは手間がかかるのと,ペイロード・キットの基板を直径5cmの円形としたい,という要求があったため,オリジナルの機体を製作することになった.松本氏は退社後の時間や週末を利用して,2008年4月初旬からロケット製作に取り組んでいる.

 機体はすべて,バルサ材(木材)で作られている.円筒形の胴体部分は,バルサ材を熱湯に漬けて柔らかくしてからアクリル製のパイプに巻き付け,乾かして作った.乾かしたらバルサ材が1.5mmほど縮んでしまったため,1.5mm幅の板を継ぎ足したというが,完成した機体はそのような危うさをみじんも感じさせない(写真2)

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[写真2] 零号機と初号機
左が最初に製作した「零号機」.木目が見えるようにクリア・ラッカーを塗ってある.フェアリングの形はH2ロケットをまねて三角形にしてみた.右が2番目に製作した「初号機」.蛍光オレンジと白色で塗装した.フェアリングの形は零号機より丸い.

 機体に使用する部品の大半は,知人に依頼してレーザ加工で切り出したという.ただし,ロケットの先端部分(フェアリング)についてはさまざまな形を試してみるため,松本氏が手作業で切り出している(写真3)

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[写真3] 初号機のフェアリングの内部
フェアリングの骨組みを作ってから,板状のバルサ材を貼り付けて完成する.

●好きこそものの上手なれ

 機体の細部を見れば見るほど,とても素人が作ったものとは思えない.なぜ,こんなに精巧な機体を作れるのか伺ったところ,「昔から工作は得意だったから...」との返事が笑顔と共に返ってきた.また,趣味で模型飛行機などもあれこれと製作した経験があるという(写真4)

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[写真4] 羽根の部分
レーザ加工で切り出したバルサ材をていねいにサンド・ペーパで磨くと,こんなに美しくなる.

 松本氏が製作した機体は,Hamana実行委員会のデモンストレーション打ち上げや,ペイロード開発部門の参加チームの打ち上げに使用する.今のところ零号機と初号機の2台が完成しているが,これから,展示用のロケットを1機,8月下旬に秋田県能代市で開催される「能代宇宙イベント'08」で打ち上げるためのロケットを1機,そのほか2機程度を製作する予定だという.1機を仕上げるための作業時間は,1日に1時間程度の時間が取れたとして,おおよそ1週間ほどで完成するそうだ.

 展示用のロケットに関しては,重量を気にせず「見た目重視」で製作するという.今のところ,バルサ材の上に布状のグラス・ファイバを貼り付け,さらにエポキシ樹脂で塗り固める"グラス張り"を予定している(写真5).この工程でも塗ったり乾かしたり塗り重ねたりと,意外と工数がかかるようだ.松本氏は,それらの一見面倒な作業を,いかにも楽しそうに説明してくれた.

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[写真5] グラス・ファイバ
ガラス繊維でできた布.手触りはすべすべしている.

 2008年9月4~5日に開催されるサマー・ワークショップ「組込みシステム技術に関するサマーワークショップ(SWEST)」の中でも,Hamana-5に関する発表やデモンストレーション打ち上げなどが行われる予定.この場で,零号機や初号機,そして展示用ロケットの完成品を目にすることができそうだ.

関連リンク
Surveyor/Hamana Projectの公式Webサイト
Hamana-5実行委員会日記
Hamana Project最新情報
・組み込みネット 写真館:Hamana-4 最終打ち上げ
・組み込めないネット プロジェクトK:飛び立て,Hamana-1

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