チーム「ADoniS」が競技部門とモデル部門で2冠 ―― ETロボコン 2008 東海地区大会
2008年7月12~13日,静岡文化芸術大学(静岡県浜松市)にて,「ETロボコン2008 東海地区大会」が開催された(写真1).47チームが参戦し,ロボットの走行タイムを競う「競技部門」と設計モデルの良しあしを競う「モデル部門」で火花を散らした.競技コース上に設けられた「ツイン・ループ」などの難所を攻略するチームが多く,成功するたびに拍手がわき起こって盛り上がった.中でも,優勝したチーム「ADoniS(アドヴィックス)」が「ドルフィン・ジャンプ」,「ツイン・ループ」,「ゴール後停止」といった"技"を連続して完璧に決めた際には,しばらく拍手が鳴りやまなかった.
[写真1] ETロボコン2008 東海地区大会の様子
静岡文化芸術大学(静岡県浜松市)にて開催された.
ETロボコンは,LEGO MINDSTORMSで作成したロボットの走行タイムとUML(Unified Modeling Language)などの設計モデルを競う競技会である.昨年までは,各地で地区予選を行って,勝ち抜いたチームによる全国規模の選手権大会を開催していた.2008年は地区予選を地区大会に格上げし,7月から9月にかけて,東北地区,関東地区,東海地区,関西地区,九州地区の5地区で開催する.その中で最初に開催されたのが,この東海地区大会である.
●新しくなった競技コース
ETロボコンの競技コースは,ここ2年ほど同じものを使用していたが,2008年は難所の形状が変更された(図1).具体的には,なだらかな曲線状だった「ショートカット」がうねりの強い「新ショートカット」になり,二つの鋭角を走行する「Zクランク」が,左右に周回する「ツイン・ループ」になった.
[図1] ETロボコンの競技コース
出典:ETロボコン2008 競技規約 1.2.0版.
競技コース上の所定のポイント(中間ゲート,ゴール・ゲート)を通過したり,難所を通過したり,「ゴール後停止(ゴールイン後に停止した位置が,ゴール・ゲート以降50cm以内だった場合)」を成功させると,ボーナス・タイムが与えられる(写真2).競技の勝敗は,実際の走行タイムからボーナス・タイムを差し引いた「リザルト・タイム(競技タイム)」によって競う.
[写真2] 実際のコースと競技の様子
わざわざツイン・ループを通過しなくても競技上は差し支えない.ただし,ツイン・ループ内に設置されたゲートを通過すると,ボーナス・タイムとして5秒が与えられる.各周回につき,最初の1回のみが付与対象となる.なお,ETロボコンでは1回の走りで競技コースを2周するのだが,ループ通過が3回目,4回目となる場合は,5秒ではなく10秒が与えられる.
難所としてのZクランクとツイン・ループを比較すると,ツイン・ループの方が走行アルゴリズムを素直に実現できそうだ(ライン・トレースの延長上で実現できるので).それでも,無限ループに陥ったチームや,片方のループしか通過しないチーム(これは多数あった),同じループを何回か余分に回ってからループを抜けたチームがあることを考えると,完ぺきに成功するチームのものは,やはり制御がよくできているのだろう.
競技部門の結果は,1位がチーム「ADoniS(アドヴィックス)」,2位がチーム「Zeus(アドヴィックス)」,3位がチーム「クラっち!WIN(エフ・シー・シー 技術研究所)」だった(表1).
順位 | チーム名 | 所属 | リザルト・タイム |
1位 | ADoniS | アドヴィックス | 20.8秒 |
2位 | Zeus | アドヴィックス | 22.4秒 |
3位 | クラっち!WIN | エフ・シー・シー 技術研究所 | 31.1秒 |
[表1] 競技部門の結果
なお,入賞はならなかったが,特徴ある走行を見せたチームをいくつか紹介したい.チーム「猪地番(ヤマハ発動機 IMカンパニー)」とチーム「おやじプログラマーず」は,アウト・コースからスタートする際に,「アウトコースですけど,スタート直後にインコースに入ります」と宣言し,見事に成功した.チーム「VFRにゃごや(NECマイクロシステム)」は,ゆらゆらと走る謎の走法で完走,ただし,走行タイムは2分以上かかっていた.チーム「ビバリーSILS(富士通テン AE本部 先行システム開発部)」は首(光センサ)をまったく振らない謎の走行注で注目を集めた(残念ながら完走ならず).
注1;一般的にETロボコンのロボットは,前方に付いた光センサ部を左右に振りながら黒線を検知し,ライン・トレースを実現している.
東海地区大会には,愛知県,静岡県,岐阜県のほか,タイや中国といった海外から参加したチームも4チームあった(チーム「SOM TUM(Toyota Tsusho Electronics)」とチーム「TOM YUM KUN(Toyota Tsusho Electronics)],チーム「JASTインタイム(捷太格特科技中心有限公司)」,チーム「SEED(TMAP-EM SEED)」.これらのチームも,条件の整わない中,とても健闘していた.
●モデル部門も激戦か
東海地区大会はほかの地区に先駆けて開催されたため,設計モデルの提出期限も7月7日と,ほかの地区よりも早く締め切られた.しかし,短い納期だったにもかかわらず,レベルの高いモデルが大量に送られてきた(レベルが高すぎて,審査する側は大変だったのではないだろうか).
モデル部門の結果は,1位(エクセレント・モデル)がチーム「ADoniS(アドヴィックス)」,2位(ゴールド・モデル)がチーム「サヌック(明電システムテクノロジー)」,3位(シルバ・モデル)がチーム「defineWORLD0(オージス総研 トヨタソリューション部)」.
なお,地区大会の上位入賞チームは,11月に組み込み技術の総合展示会「Embedded Technology(ET)」に合わせて開催される「チャンピオンシップ大会」に出場する権利を得る.東海地区からは,競技部門とモデル部門の総合成績に基づいて,上位6チームが出場権を獲得した(表2).
順位 | チーム名 | 所属 | 地域 |
1位 | ADoniS | アドヴィックス | 愛知県刈谷市 |
2位 | 嗚呼!奥町ラジコン部 | (個人) | 岐阜県安八郡輪之内町 |
3位 | mishimaruET | 日本プロセス 三島事業所 | 静岡県三島市 |
4位 | ff | セントラル情報センター 中部支店 | 愛知県名古屋市 |
5位 | サヌック | 明電システムテクノロジー | 静岡県沼津市 |
6位 | Impressions | パルステック工業 | 静岡県浜松市 |
[表2] 競技部門とモデル部門の総合成績
結果的に,愛知県,静岡県,岐阜県の各地域がそれぞれ上位入賞を果たした.
森 孝夫(もり・たかお)
ETロボコン2008 東海地区大会 運営委員長
組み込みネット編集部 東海地域特派員