打倒ARMへの布石着々,携帯端末向けオープン・ソース・ソフトの普及推進セミナをインテルが開催 ―― Moblin Software Contest One day seminar / workshop

組み込みネット編集部

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レポート 2008年6月27日

 インテルは,2008年6月19日,インターコンチネンタル東京ベイ(東京都港区)にて,技術セミナ「Moblin Software Contest One day seminar / workshop」を開催した.

 同社は現在,低消費電力のx86プロセッサ「Centrino Atom」の発表を記念して,「利用モデル・アイデア/アプリケーション・コンテスト」を実施している.今回のセミナは,コンテストへのソフトウェア開発者の参加を促す目的で実施された.Centrino Atomの概要について説明したほか,同社がコミュニティ(Moblin.org)による開発を主導するオープン・ソースの携帯型インターネット端末(MID:Mobile Internet Device)向けアプリケーション実行環境「Moblin」について,コミュニティ活動のエバンジェリストやLinuxのディストリビュータなどが解説した(写真1)

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[写真1] Moblinのエバンジェリストが来日
Intel社 SSG Director of Technology EvangelismのMark Budzinski氏

●AtomのWebページ表示性能の高さを誇示

 Centrino Atomは,2008年4月2日に発表された.電力消費の少ない点や,Webページの表示性能の高さが特徴である(写真2).ARM系のプロセッサと比較しながら,Centrino Atomの優位性をアピールした.

 本プロセッサは45nmのHigh-k CMOSプロセスで製造する.TDP(Thermal Design Power;プロセッサの設計上想定される最大放熱量)は0.65mW~2.4mW,平均電力は160mW~220mW,待機時電力は80mW~100mW.組み込み機器や家電機器,携帯型インターネット端末,ノート・パソコンなどに利用できる.

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[写真2] Webページ表示性能の比較
400MHz動作のARM11コアを内蔵するTexas Instruments社のOMAP 2420と比較した.

●評価環境をボードではなく実機に近い形で提供

 ソフィアシステムズ 開発本部 モバイルソリューション開発部 グループリーダーの小池 輝氏は,「MID/携帯情報端末向け開発プラットフォーム『PEARTREE』のご紹介」と題して,同社の携帯端末型の評価環境「PEARTREE」について紹介した(写真3)

 一般に評価用のハードウェアはボードの形態で提供されることが多い.しかし,このような評価ボードには,「持ち運びしにくい」,「通話テストが行いにくい」,「電源モジュールの利用を前提としており,バッテリ駆動について評価しにくい」などの問題がある.こうした問題を回避するため,実機に近い形状で,アプリケーション・ソフトウェアまで実装した携帯端末型の評価環境を開発したという.

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(a) ソフィアシステムズ 開発本部 モバイルソリューション開発部 グループリーダーの小池 輝氏

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(b) PEARTREEの外観

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(c) PEARTREEの機構設計の3次元モデル

[写真3] ソフィアシステムズがハードウェアの評価環境について紹介


 PEARTREEは,Centrino Atomプロセッサ(Z530),Intel System Controller Hubのほか,1GバイトのSODIMM,4GバイトのSSD(Solid State Drive),タッチパネル付きの5インチWSVGA(1024ドット×600ドット)液晶ディスプレイ,LAN/Bluetooth無線モジュール,Mini Cardインターフェース,W-SIM(ウィルコムのPHS無線モジュール),ワンセグ・テレビ・チューナ,カメラ,USBインターフェースなどを備えている.また,拡張ユニットが用意されており,Ethernet(100Base-T/TX)インターフェースやGPSモジュール,40Gバイトのハード・ディスク装置,デバッグ・インターフェース,USBホスト・インターフェース,RGB出力などを備えている.本体重量は約360g,サイズは151mm×94mm×28.5mm.2セルのLiイオン2次電池(7.5V,3000mAh)で駆動する.

 OSとして,Asianux コンソーシアムのAsianux Mobile Midinuxが稼働する.Linuxカーネルのバージョンは2.6.24で,本評価環境専用にカスタマイズされているという.また,Windows Vistaも組み込めるようにする予定.アプリケーション・ソフトウェアとしては,メール・ソフトウェアやWebブラウザ,日本語入力環境,日本語フォント,W-SIM制御ソフトウェアなどを用意する.本評価環境の価格は98万円.

●UMPC,MID向けLinuxの開発に2005年から着手

 ミラクル・リナックス シニアマネージャーの豊島 大朗氏は,「ミラクル・リナックスが提供するインテルCentrino Atomプロセッサ・テクノロジー 標準化OS MidinuxとカスタマイズOS用SDK Midinux SDK」と題して,同社が開発に参加しているAsianux Mobile Midinux(以下,Midinux)とその開発環境について解説した(写真4(a)).同社は2005年に非常にコンパクトな携帯型パソコン(UMPC:Ultra-Mobile PC)や携帯型インターネット端末向けのLinux「Midinux 1.0」の試験開発を開始した.Midinux 1.0は製品化を前提としたものではなく,その開発は2007年6月に完了した.2007年には製品化を前提としたMidinux 2.0の開発を始め,これは2008年6月より提供されている.日本での発売は未定だが,中国では発売が決定しているという(写真4(b),(c)).

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(a) ミラクル・リナックス シニアマネージャーの豊島 大朗氏

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(b) Lenovo社の携帯端末「Ideapad」

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(c) Sumsung Electronics社のUMPC「Q1 Ultra」

[写真4] ミラクル・リナックスがLinuxの軽量版について紹介
(b),(c)は,ミラクル・リナックスがMidinuxのデモンストレーションに使用した携帯端末.


 MidinuxのベースはFedora 7.インストール・サイズは500Mバイト.システム最適化,ドライバ開発のほか,Webブラウザやメール・ソフトウェア,メディア・プレーヤなどのアプリケーションも開発した.さらに,台湾のBenQ社,中国のLenovo社Haier社向けのカスタム版なども開発した.Midinux 2.0はIntel Ultra Mobile Platform 2007をベースとしており,有線LAN,無線LAN,タッチパネルに対応している.

 豊島氏は,Midinux 2.0のいくつかの採用事例についても紹介した.Lenovo社は,北京オリンピック向けにMidinux 2.0のカスタム版を搭載した携帯端末「Lenovo Ideapad U8」を発表しているという.Centrino Atomプロセッサを搭載しており,無線LAN機能やタッチパネルを備えている.さらにGPS機能やメディア・プレーヤ,カメラを搭載する.同氏によると,起動時間は40秒程度,サスペンド/レジューム状態からの起動は10秒程度.オリンピック仕様の機種は,筐体の裏が虹色になっているという.

 Haier社は,Intel社が提唱するNetbookの仕様に対応する小型ノート・パソコン「Haier 81004」を発表しており,この機器の中でMidinux 2.0をベースとするAsianux Mobile Netbook Editionが動作しているという.Haier 81004はAtomプロセッサを搭載する.液晶ディスプレイのサイズは10.4インチ,解像度はWSVGA.3D UI Launcherと呼ぶGUIを備えている.

 ソフィアシステムズのPEARTREEで動作しているのはMidinux 2.5Jで,これはFedoraではなくDebianがベースとなっているという.日本語に対応しており,IPAフォントを利用できる.さらに,日本語版ソフトウェア・キーボードが用意されている.今後はOpenGLの3D効果を利用したユーザ・インターフェースや透過表示機能,半透明のソフトウェア・キーボード(スケルトン・キーボード)の開発,ブート時間の短縮などに取り組んでいくという.

 Midinuxの開発環境であるMidinux SDKは,Moblin Image Creatorがベースとなっている.これはMoblinの開発グループが提供しているオープン・ソースのMID向けLinux SDKである.インストール・イメージをCDのほか,USBメモリなどへも出力できる.

●ターボリナックスがMoblinを評価

 ターボリナックス 事業推進本部 マーケティング部の大塚 健一郎氏は,「Moblin開発環境の構築」というテーマで講演した(写真5)Turbolinux Client 2008上にMoblin環境を構築する手順を実演した.今回はCDからインストーラを起動した.インストールには15分ほど,MoblinおよびMoblinの開発環境の追加に8分ほどかかるという.

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(a) ターボリナックス 事業推進本部 マーケティング部の大塚 健一郎氏

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(b) Moblinのデスクトップ画面

[写真5] ターボリナックスがMoblinの環境構築を実演


 ターボリナックス 取締役 兼CTOの谷口 剛氏は,「Moblinの提供する,WEBベースデスクトップ」というテーマで講演した(写真6).MoblinデスクトップはWebベースのデスクトップ環境で,同氏の印象ではAdobe AIR(Adobe Integrated Runtime)に近いものだという.

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[写真6] ターボリナックス 取締役 兼CTOの谷口 剛氏

 Moblinデスクトップは,Nokia社の携帯端末(Internet Tablet N800など)で使われているHildon Application Frameworkとmobile-baseic-flashパッケージを組み合わせたもの.デスクトップ画面はHTMLとJavaスクリプトの組み合わせで記述されており,ローカルにあるHTMLが呼ばれたあと,Javaスクリプトがネットワークを介してAcrobatやWebブラウザ,計算機などのアプリケーションを呼び出す.

 Centrino Atomはx86互換なので,Linux用に開発されたパソコン向けアプリケーションはだいたいこのプロセッサの上で動作するという.一方,ARMプロセッサを搭載した機器ではそう簡単にはいかない.Linuxアプリケーションの移植作業が必要になる.谷口氏は,こうした点を,ARMを搭載する機器に対するCentrino Atomを搭載する機器の優位点として挙げた.また,WebベースのMoblinについて懸念する点として,セキュリティの問題を指摘した.

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