ムラタセイサク君がET Westにやって来た ―― ET West 2008レポート(1)

組み込みネット編集部

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レポート 2008年6月11日

 2008年6月5日~6日,インテックス大阪(大阪市住之江区)にて,組み込み技術に関する展示会「Embedded Technology West(ET West;組込み総合技術展 関西)2008」が開催された(写真1).村田製作所で自転車型ロボット「ムラタセイサク君」の開発に関わった吉川 浩一氏による基調講演にはムラタセイサク君の実物が登場し,会場を沸かせた.

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[写真1] ET West 2008のオープニング・セレモニ
ET West 2008はインテックス大阪(大阪市住之江区)にて開催された.

●基調講演に「ムラタセイサク君」が出演

 初日(6日)午前の基調講演では,村田製作所 広報部 企画広報課 係長(旧 生産技術開発部 セイサク君開発スタッフ)の吉川 浩一氏が,「自転車型ロボット『ムラタセイサク君』の開発とその活用」というテーマで講演した(写真2).2005年に展示会のCEATECで発表したムラタセイサク君の開発に至った経緯,および同社の活用方法などを紹介した.ムラタセイサク君は,姿勢・走行制御,不倒停止,障害物検知,バック走行,自動走行,通信,画像撮影・送信などの機能を備える自転車型ロボットである.同社のジャイロ・センサや超音波センサ,信号検知用ショック・センサなどを搭載している.

 村田製作所には,研究開発費の一定比率を技術者のチャレンジングな活動に充当する「フロンティア・テーマ」という制度がある.ムラタセイサク君は,この制度を利用して,同社の生産技術に携わっていた電子技術者,機構系技術者,ソフトウェア技術者が共同開発した.また,CEATECの目玉となる展示物を探していた同社の広報部門も,ムラタセイサク君の開発プロジェクトに加わったという.

 最近では,子どもたちの理系離れの防止を目的に,小中学校へのムラタセイサク君の「出前授業」も実施している.吉川氏は,子どもたちの素朴な反応や要望を紹介し,会場を沸かせた.

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[写真2] ムラタセイサク君のデモンストレーション
ムラタセイサク君はジャイロ・センサなどを利用して,不倒停止を実現している.

●組み込みソフトウェア開発にアジャイルの手法を導入する秘けつ

 2日目に,日本XPユーザグループ関西(XPJUG関西)によるパネル・セッション「組込みアジャイル開発の現場 ~事例から見える効果と課題~」が行われた(写真3).組み込みソフトウェア開発にアジャイル開発を適用して,その労力と効果がどうだったのか,適用の際に発生した問題をどのように解消したのかなどを,各パネリストが披露した.

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[写真3] パネル・セッションの様子
モデレータはXPJUG関西 代表の細谷 泰夫氏.パネリストは,スピナッチパワー 取締役社長の土屋 秀光氏,XPJUG関西 スタッフの西 丈善氏,クリエイトシステム 代表の太田 憲治氏,SRA先端技術研究所 シニア研究員の阪井 誠氏,三菱電機メカトロニクスソフトウェア 技術第一課 課長の岩橋 正実氏.

 XPJUG関西 スタッフの西 丈善氏は,イテレーション型開発の導入検討時に,納品物として必ずドキュメントを作成するよう求められたため,ドキュメント作成までの工程は従来通りの開発プロセスで進め,それ以降の工程をイテレーション型とした.

 スピナッチパワー 取締役社長の土屋 秀光氏は,テスト駆動開発ツールである「CUnit」を,テストのやり方を標準化するためのツールとして利用した.土屋氏によると,エンジニアは,テスト・ケースをコードで書くほうが,文書として書くよりもたくさん記述する傾向があるという.

 三菱電機メカトロニクスソフトウェア 技術第一課 課長の岩橋 正実氏は,開発標準を適用する際に,「これだけは絶対に守ってほしい」という部分を抜き出して見やすくまとめた作業標準を作っている.また,開発の最終段階になってからテストやレビューを実施すると重大な問題があった場合に対応できないため,仕様確定や要求分析の段階から随時抜き取り方式でデザイン・レビューを実施して,大きな問題を残さないように工夫しているという.

 CMMIについては,なぜそれを適用するのか,という自分たちの目的(ゴール)を考えて実践することを勧めていた.CMMIを「ルール」や「守らなければならないもの」と捉えると現場が頭を使わなくなってしまう.常に現場に考えさせることが重要だという.

●ETロボコン専用のソフトウェア開発環境を展示

 ETロボコン2008事務局は,ETロボコンの競技用コース(実物大)を展示した.また,Microsoft社が提唱する開発方法論「Software Factories」に基づいたソフトウェア開発環境「Pathfinder Software Factory」を展示した.Software Factoriesとは,製品分野(ドメイン)に特化した開発プロセスとそれを支援するカスタムの開発環境(これを「Software Factory」と呼ぶ)を作成するための方法論である.ソフトウェア・プロダクト・ラインやモデル駆動型開発,アーキテクチャ・フレームワークなどを取り入れている(写真4)

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[写真4] アーキテクチャ・フレームワーク
ソフトウェア駆動型のシステムにおけるアーキテクチャのフレームワーク(枠組み)を図解したもの.IEEE Std 1471-2000で定義されている.システムの役割やステークホルダ,アーキテクチャ,観点,モデルなどの関連を分かりやすく示している.

 Pathfinder Software Factoryには,モータの駆動制御方式(DriveControl)やパス(経路)識別の厳密性(PathRecognizer),速く走るための戦略(Strategy)などを,それぞれ複数種類ずつ蓄積できる.そして,必要なものを選択することにより,必要な機能を備えたライン・トレース・マシンのソフトウェアが出来上がる(写真5)

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[写真5] Pathfinder Software Factoryの画面
「DriveControl」,「PathRecognizer」,「Strategy」からそれぞれ必要なものを選択し,ソフトウェアを組み上げる.

 Pathfinder Software Factoryは,Visual StudioのSDKやMicrosoft社が提供するツールキットなどを用いて開発された.開発したのは,「EEst(Excellent Embedded Software Technology)」と名付けられたコミュニティである.2007年に開催された「ETロボコン2007」の参加チームのうち十数チームの有志が集まり,担当を分けて並行開発を進めてきた.EEstでは,技術者の同コミュニティへの参加を歓迎しているという.

 2日目の午後には,同ブースにて,ライン・トレース・ロボット競技「ET West杯」が行われた(写真6).7チームが参加し,2チームずつ走行してレースを競った.ブースは,応援する多くの観客で賑わった.

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[写真6] ET West杯の参加者たち

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