Cell Broadband Engineを利用したホログラム計算(後編)
コンパイルごとにこういったオプションを入力することや,PPE用,SPE用として複数のプログラムを個々にコンパイルすることは非常に面倒です.そこで,IBM社から提供されているサンプル・プログラムやチュートリアルなどでは,主にMakeツールを利用してプログラミングを行っています.Makeツールとは,コンパイル時のコマンドや環境変数,コンパイル・オプションなどを一括して記述したMakefileというテキスト・ファイルをあらかじめ用意しておき,コンパイル時にmakeコマンドを利用してコンパイルするものです.一般に複数の実行ファイルをコンパイルしたり,依存関係のあるファイル(例えば,複数のヘッダ・ファイルと実行ファイル)のコンパイルを管理したりするときに利用されます.
● 計算機合成ホログラムのプログラムを移植
今回は,シングル・コアのパソコンで動作するプログラムをCBEへ移植します.サンプルは,筆者らの研究室で開発している計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)のプログラムです.
ホログラフィは3次元物体をそのまま記録・再生できる技術で,究極の3次元映像技術であるといわれています.ホログラフィをリアルタイムにディジタル処理できるようになれば,究極の立体テレビを作ることができると期待されています.このような技術は電子ホログラフィと呼ばれ,1990年ごろから研究され始めています(写真1).
電子ホログラフィの再生手順の例を示します.まず,コンピュータ内に3次元座標データを持った物体(3次元グラフィックス・モデル)を用意します.今日では,数値シミュレーションの結果など,さまざまな手法で3次元座標データが得られるようになっています.ここではCG(Computer Graphics)で作成されたポットを示します〔図3(a)〕.これを専用の計算式によってホログラムに変換します〔図3(b)〕.このホログラムを液晶ディスプレイ(LCD)などに表示して,そこに単色光(参照光)を照射すると,空中に元の3次元像が再生されます〔図3(c)〕.
ホログラフィで用いるホログラムは,元来,光学系で作られていたが,現在ではCG(Computer Graphics)などから計算で作成できるようになっている.このような技術は計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)と呼ばれている.この技術を用いると,逐次データを更新していくことで,3次元動画像の再生も可能になる.
計算機合成ホログラムは3次元物体をそのまま記録・再生できる唯一知られた技術であるホログラムの作成を計算機上で行うものです.