中国の経済発展をバネに成長する台湾ボード・コンピュータ・メーカが勢いを誇示 ―― 2007 Advantech World Partner Conference

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 半導体

レポート 2007年12月20日

 台湾のボード・コンピュータ・メーカであるAdvantech社は,10月25日~27日,中国・上海のLake Malaren Resortにて,同社のプライベート・ショウ「2007 Advantech World Partner Conference」を開催した(写真1(a)).本イベントは隔年で開かれており,今年は35カ国から,同社の顧客やパートナ企業の技術者など400人以上が出席した(写真1(b)).同社は台湾に本社を持つ企業だが,中国にも24カ所の拠点を持ち,また,中国江蘇省の昆山(Kunshan)にはボード製品の製造工場を持っている.中国の経済発展を背景に,成長を続けている.例えばレセプション・パーティでは,英語と中国語の2カ国語でスピーチが行われ,また,ワークショップも英語のセッションと中国語のセッションが設けられていた.

p1a.jpg
(a) 会場となったLake Malaren Resort

p1b.jpg
(b) レセプション・パーティの様子

[写真1] 2007 Advantech World Partner Conferenceの風景
2年に1回,開催されている.前回は台湾で開催された.

 初日(10月25日)は,同社の経営陣が事業方針を説明するExective Keynoteと,少人数に分かれて地域ごと,テーマごとにAdvantech社の担当者と来場者が対話するBusiness Matchmakingが実施された.2日目(10月26日)は,Intel社によるKeynoteや,製品分野別,事業分野別の技術ワークショップが開催された.3日目(10月27日)は,昆山にある同社の工場の見学会が実施された.このほか,会場内には展示エリアが設けられ,Advantech社やパートナ企業の製品,およびサービスについてのデモンストレーションが多数行われた.

● 中国経済の発展がボード・コンピュータ市場をけん引

 Exective Keynoteでは,まずAdvantech社General Manager of Greater ChinaのChaney Ho氏が,中国経済の成長ぶりについてアピールした(写真2).中国は2003年にGDP(国内総生産)で世界第7位だったが,2006年には第4位になっている.来年(2008年)は北京オリンピックが,2010年には上海万博が開催され,これらに備えて北京と上海の間を結ぶ高速鉄道が整備されつつある.

p2.jpg
[写真2] Advantech社General Manager of Greater ChinaのChaney Ho氏
「Fostering Emerging Industrial Opportunities Through Global Collaboration」というテーマで講演した.

 Ho氏は,情報や資本,才能が自由に行き来できるようになり,すべての国や個人に等しく機会が与えられるようになったことを,Thomas L. Friedman氏の著書『The World Is Flat』のタイトルになぞらえて,「The World Has Become Flat(世界はフラットになった)」という言葉で表現した.そして,BRIC(ブラジル,ロシア,インド,中国)やVISTA(ベトナム,インドネシア,南アフリカ,トルコ,アルゼンチン)の経済発展が著しいこと,その一方で,地球温暖化や自然資源の枯渇,飲料水の欠乏,公害,高齢化社会,テロリズムといった難しい課題が存在することを述べた.

 そして,こうした厄介な問題を解決する手段として,風力発電などの自然エネルギや電力消費の管理,水質管理や水位監視・制御,大気汚染管理などに同社のコンピュータ・システムが使われていることをアピールした.また,ライフ・スタイルを楽しいものとするために,医療用コンピュータや高度な輸送システム,ディジタル表示板,家庭内の電子化,ゲーム機,キオスク端末などの市場でも新たな事業機会が出てきていることを述べた.このほか,テロリズムに対抗するための空港のセキュリティ制御やネットワーク・セキュリティ,監視カメラなどの事業も重要になってくると予測した.

● 多国籍企業モデルからGIEモデルへ転換

 続いて,Advantech社 Chief Exective OfficerのKC Liu氏が登壇し,同社の事業方針について語った(写真3).同社はMNC(multinational corporation;多国籍企業)からGIE(Globally Integrated Enterprise)への転換を図っているという.GIEは米国IBM社 Chief Executive OfficerであるSam Palmisano氏の言葉で,「地球規模の生産統合と地球規模の価値の提供というゴールを目指して,その戦略やマネージメント,運営方法を形成していく企業」を指す.例えばMNCモデルでは企業は本社と地域別の支社から構成されていたが,GIEに変わると,顧客密着型の部署とグローバルな事業部門で構成されるようになるという.

p3.jpg
[写真3] 同社 Chief Exective OfficerのKC Liu氏
「Advantech in Transformation」というテーマで講演した.

 Advantech社は1983年に台湾で創設され,1989年に海外進出を果たした.その後,上述のMNCモデルに従って海外展開を図り,今年(2007年)からGIEへの転換を実現するために組織の再編成を行っているという.同社の製品部門は,Industrial Automation(FA機器やエネルギ管理システム,輸送システムなど),Embedded ePlatform(ボード・コンピュータ,組み込みボード,ゲーム機,ネットワーク機器など),eServices & Applied Computiong(セルフ・サービス機器,医療装置,ディジタル表示板など)の三つに分かれている.また,これとは別に設計・製造受託事業も行っている.これらの事業の中では,Embedded ePlatform部門が売り上げ全体の50%を占めている.

● Intel社が組み込み関連市場への期待について講演

 2日目のKeynoteでは,Intel Microelectronics社(米国Intel社のマレーシア法人)Director, EMD Asia, Embedded and Communications GroupのEric WP Chan氏が,組み込み市場についての展望と同社の製品ロードマップについて講演した.同氏によると,家庭や携帯機器をつなぐ「コネクテッド・デバイス」が組み込み用半導体の市場をけん引するという.インターネット上のビデオ・コンテンツが豊富になっていること,インターネットを利用したサービス事業者(AmazonやeBay)のデータ・センタへの投資がここ数年で大きく伸びていることなどを根拠として挙げた.

 Intel社は今年(2007年),45nmプロセスで製造するプロセッサ「Penryn」を発表している.また,2008年には同じプロセスでアーキテクチャを一新した「Nehalem」を,2009年には初の32nmプロセスの「Westmere」を,2010年には同プロセスでアーキテクチャを変えた「Sandy Bridge」をリリースすることも表明している.プロセスが1世代進むに従って,プロセッサの性能は20%向上し,消費電力は30%削減される.そして,今後はマルチコア技術,仮想化技術,LSIのリモート診断/リペア技術が重要になると述べた.

 組み込みシステムの市場については,画像認識技術を利用して人間や自動車などを識別するセキュリティ装置(写真4)やディジタル表示板の市場が成長しているという.また,同社は組み込み市場向けに,IA(x86)プロセッサ・コアとQuickAssistと呼ぶ暗号処理やパケット処理のアクセラレータ回路,I/O群などを1チップに集積したネットワーク用LSI「Tolapai」を開発していることもアピールした.

p4.jpg
[写真4] 画像認識技術を利用して人間や自動車などを識別するデモンストレーション
展示エリアのAdvantech社によるデモンストレーションの一つ.自動車を認識して追跡したり,企業の受付や入り口の様子を監視して不審な人物などを特定する.

● 業務用ゲーム機向けのボード・コンピュータやミドルウェアを展示

 展示エリアのTrusted Gaming Platformsのブースでは,同社のx86ボード・コンピュータ「AIMB-440」を利用したカジノ向けのスロット・マシンが展示されていた(写真5).AIMB-440は,MiniATX規格のメイン・ボードで,Intel社の945GM/ICH7Mチップセットを搭載している.本ボードは,ゲーム機器に使われるJAMMA(日本アミューズメントマシン工業組合)規格のコネクタを備えている.また,二つのディスプレイ機器を制御できる.このほか,内部データを保護するために,乱数発生器やFPGAに実装されたAES(Advanced Encryption Standards)回路を備えている.

p5.jpg
[写真5] カジノ向けスロット・マシンのデモンストレーション機
右側の機械式のスロット・マシンの数字が,左側のスロット・マシンのビデオ画面にも表示されていた.

 ゲーム・アプリケーション向けの周辺機器(チケット・プリンタやコイン投入/排出モジュールなど)やそのドライバ・ソフトウェア,BIOS,ユーザ・インターフェース・ソフトウェアなどは,同社のパートナ企業である英国e2c Technology社が提供している.カジノ用ゲーム機のメーカは,同社のミドルウェアを利用して,ゲーム・アプリケーションを構築する.本ミドルウェアは,LinuxとWindowsに対応している.

● マルチコア・プロセッサを利用したWiMAXゲートウェイを紹介

 Telecom & Network Computiongのブースでは,ネットワーク・プロセッサのベンダである米国Cavium Networks社が,MIPS64のマルチコア・プロセッサ「OCTEON」を搭載したWiMAXゲートウェアのリファレンス・ボードを展示していた(写真6).一つのボードに二つのOCTEONプロセッサが実装されており,合計16個の64ビットCPUコアが稼働している.OCTEONプロセッサ1個当たりの消費電力は約25W.複数のCPUコアにパケットを振り分ける負荷分散回路や,パケットの順序を最適化するパケット・オーダリング回路,共有メモリ,パイプライン・バスなどを搭載する.OSとして,Linux(SMP機能),VxWorks,FreeBSD,INTEGRITY,QNXなどに対応する.

p6.jpg
[写真6] WiMAXゲートウェイのリファレンス・ボード
OCTEONプロセッサが2個実装されている.チャネル数は16.本プロセッサは,16個の異なるQoS(quality of service)レベルを設定する機能を備えている.

 現在,130nmのCMOSプロセスで製造する最大600MHz動作の「CN3000シリーズ」と,90nmのCMOSプロセスで製造する最大1GHz動作の「CN5000シリーズ」を出荷中.2008年~2009年には,65nmプロセスで製造する2GHz動作の「OCTEON2プロセッサ」を製品化する計画.

● ディスコンのリスクを回避するためにx86プロセッサを自社開発

 Advantech社は,低コストの組み込みコンピュータ向けにx86命令互換のマイクロプロセッサを自社開発している.Embedded Software & EVA SoCのブースでは,こうしたプロセッサとその評価ボードが展示されていた(写真7)

p7.jpg
[写真7] Advantech社のx86互換プロセッサと評価ボード
150MHz動作のEVA-X4150と300MHz動作のEVA-X4300,およびEVA-X4300の評価ボードが展示されていた.

 産業用コンピュータでは,長期間にわたるサポートを要求されるケースが多い.ときには20年,30年の供給・保守などが求められる.一方,マイクロプロセッサ・メーカは通常,数年で半導体製品の製造を中止する.これでは産業用コンピュータの顧客の要求には対応できない.こうした問題を回避するため,Advantech社では自社でもx86プロセッサを開発しているという.なお,CPUコアについては,外部からライセンスを受けているもよう.

 今回展示されていた「EVA-X4300」は,300MHzで動作するRISCプロセッサ・コアである.6段パイプライン構成を採用し,16Kバイトの命令キャッシュと16Kバイトのデータ・キャッシュを内蔵している.周辺回路として,SDR/DDR2 SDRAMコントローラ,DMAコントローラ,カウンタ/タイマ,PCIバス・インターフェース,ISAバス・インターフェース,Ethernetコントローラ,IDEコントローラ,USBインターフェースなどを搭載しており,1チップでパソコンのひととおりの機能を実現できるようになっている.入力電圧は,コア部が1.3V~1.4V,I/O部が1.8±5%,3.3V±10%.消費電力は1W以下.パッケージは581ピンBGAである.

 これとは別に,150MHz動作のx86プロセッサ「EVA-X4150」も展示されていた.

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日