取り組み広がる飛行船ロボット教育 ―― 第4回 MDDロボットチャレンジ,マジカル・スプーン

組み込みネット編集部

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レポート 2007年11月 6日

 2007年10月19日,日本科学未来館(東京都江東区)にて,模型飛行船を自動制御するコンテスト「第4回 MDD(model driven development;モデル駆動開発)ロボットチャレンジ」が開催された(写真1).大学や企業などによる11のチームが,モデル駆動開発手法による自律飛行制御システムの設計を競った.ヘリウム・ガスで宙に浮く模型飛行船は,空気の流れや温度などの影響を受ける.また,慣性が強く働くため,手動で操縦するのも簡単ではない.このような状況の下,参加チームはソフトウェア開発の枠にとどまらない組み込みシステム開発の難しさをかみしめていた.

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[写真1] MDDロボットチャレンジの様子
チーム「電大非行船」(東京電機大学)の航行飛行競技.競技で定められた立ち寄り点(赤い風船)に向かって自律飛行している.

●ソフトウェア開発にとどまらない数々の苦労を体験

 制御対象である飛行船ロボットは,超音波を送受信できるソナーやZigBee無線モジュール,角速度センサなどを備える.飛行船ロボットは超音波を発信し,床面からはね返ってくる超音波を検知して,自らの高度(Z軸)を計測する.また,床面には超音波センサ群が配置されており,それらが取得した超音波をシリアル・インターフェース経由でノート・パソコンに取り込み,飛行船の位置(X軸とY軸)を計算する.こうして取得した位置情報を基に,次の制御をノート・パソコンで計算し,ZigBee経由で飛行船に伝える.

 本コンテストの特徴は,参加チームが挑戦したい領域を選択できることにある.例えば,飛行船ロボット(制御基板を含む)は主催者が用意したものを使用するのか,または自分たちで開発するのかを選択できる.さらに今回は第3の選択肢として,主催者が制御基板のみの貸し出しも行うようにした.このため,自分たちで飛行船を用意して参加するチームが増えた.ただし,このことによってソフトウェア以外の部分で苦労するチームが増え,MDDを推進したい主催者側が苦笑いするような場面もあった.一方,PID制御などを活用して見事に飛行船を制御したチームもあり,会場を沸かせた(写真2)

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[写真2] チーム「WEST(和歌山大学,アーツテックラボ,徳島大学大学院)」の航行飛行競技の様子
飛行開始前に,競技エリア内で飛行船の位置や向きを変えながら,センサから取得する情報を念入りに確認していた.そのかいあってか,着陸地点(ゴール)以外のすべてのミッションを達成し,11チーム中で最高の10点を獲得した.

チーム「新横AirShip2007」の飛行の様子(MOVファイル,4.18Mバイト)
チーム「WEST」の飛行の様子(MOVファイル,4.18Mバイト)

 競技終了後は審査委員によるワークショップが開催された(写真3).「MDD」,「勝つためのモデリング」,「飛行制御と組み込み開発」というテーマごとにグループに分かれ,参加者同士が議論を通じて交流を深めた.

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[写真3] ワークショップの様子
同じ苦労を体験してきた"同志"であるためか,各グループで和やかで活発な議論が交わされていた.

 本コンテストは,情報処理学会 組込みシステム研究会が主催する「組込みシステムシンポジウム2007(ESS2007)」の特別企画として実施された.審査対象となるのは,飛行制御の正確さと,制御ソフトウェアの設計モデル,航行状態を表示するソフトウェアの開発,本プロジェクトの開発中に取得したメトリックなどである.

●札幌,熊本,東京の高校生が飛行船の遠隔制御を体験

 本コンテストで使われた飛行船ロボットは,高校生などの「情報」の授業にも活用されている.2007年10月21日,日本科学未来館の同会場にて,高校生を対象とした公開ワークショップ「Let's GO! GO! マジカル・スプーン ~飛行船制御でコンピュータ・ネットワークと情報処理を学ぼう!~」が開催された(写真4).東京(日本科学未来館),札幌(北海道大学),熊本(熊本大学)の3地点を高速ネットワークで結び,映像を同時中継しながら模型飛行船の遠隔制御を体験しようという大がかりな試みである.

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[写真4] 「Let's GO! GO! マジカル・スプーン」の様子
モニタ画面を4分割して各地の映像をほぼリアルタイムに表示している.左上が札幌,右上が熊本,左下が東京,右下が東京会場内に設置された飛行エリアの模型である.

 使用する飛行船ロボットはMDDロボットチャレンジと同じものだが,飛行制御のシステムは少々異なる.本ワークショップで用いられたのは,「マジカル・スプーン」と呼ばれる教育プログラム用に開発された模型飛行船操縦システムである.金属製のスプーンを打ち合わせて音を出し,その有音/無音状態を'0'または'1'として地上システムに入力する.地上システムは'0','1'の組み合わせを命令として認識し,その命令をZigBeeモジュール経由で飛行船に送信する.飛行船は命令を受けて,プロペラを回すなどの制御を行う.

 本ワークショップは,東京都立大泉高等学校(東京都練馬区)と北海道札幌北陵高等学校(北海道札幌市),熊本県立小川工業高等学校(熊本県宇城市)に在籍する高校生たちがあらかじめ各会場に待機して,1日がかりで行われた.午前中はパケット通信やTCP/IPなどといったインターネット関連の講義が行われた(写真5).午後は,高校生たちが札幌と東京,熊本と東京でチームを組んで飛行船を操縦した.東京の高校生が飛行船に入力する命令を指示し,札幌や熊本の高校生がスプーンを叩いて,その入力データをインターネット経由で伝送し,東京会場にある飛行船を制御するというわけだ.

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[写真5] 午前の講義で使われた小道具
一つ一つの小さい立方体をパケットに見立てている.データ(大きい立方体の側面に表示されている写真)をパケットに分割して送信する.パケットをどのような順番に並べればよいかという情報さえ保持していれば,送信先で元のデータを復元可能であることを体感できる.

 ネットワーク伝送による時間差はわずかなものだったが,人間同士のコミュニケーションにおける"時差"は大きかった.とっさの際の判断ミスや,ネットワーク越しの意思疎通の難しさが原因で指示がうまく伝わらず,飛行船が思うように動かなかった.参加した高校生たちは,飛行船操縦やコミュニケーションの難しさを感じながらも,ワークショップを楽しんでいたようだ(写真6)

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[写真6] グループ討議の様子
東京会場の高校生は大半が大泉高等学校の生徒だったが,札幌北陵高等学校の生徒も2人ほど来ており,楽しそうにグループを組んでいた.

 本ワークショップの主催は組込みシステム研究会,共催は日本科学未来館.


関連リンク

●MDDロボットチャレンジ関連

・写真館:第4回 MDDロボットチャレンジ
・写真館:第3回 MDDロボットチャレンジ
・写真館:第2回 MDDロボットチャレンジ
・写真館:第1回 MDDロボットチャレンジ
・レポート:MDD(モデル駆動開発)で模型飛行船を制御する(組込みソフトウェアシンポジウム2004)

●マジカル・スプーン関連

・レポート:スプーンで動く飛行船が学校にやって来た(東京都立 大泉高等学校 公開授業)
・レポート:「魔法のスプーン」と飛行船で将来の技術者を育てる(マジカル・スプーン模擬授業)

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