輪ゴムで的を射る"やぶさめ"ライン・トレーサを製作 ―― 第3回 組込みシステム技術に関するサマースクール(SSEST3)

組み込みネット編集部

tag: 組み込み

レポート 2007年9月 3日

 「実践・実感,組込み開発」をテーマに,2007年8月27日(月)~29日(水)の3日間,遠鉄ホテル エンパイア(静岡県浜松市舘山寺町)において「第3回 組込みシステム技術に関するサマースクール(SSEST3)」が開催された.

 SSESTは,学生や若手エンジニア向けの組み込み技術に関する研修会である.組み込み技術についての研究会であるSWESTと共催で,2005年から開催されている.

 内容は,大きく事前学習と合宿に分かれる.事前学習では,SSESTの当日までに配布された材料を使ってライン・トレーサを作成する.合宿の当日は組み込み技術についての講義を受け,組み込みシステム開発の知識を養う.1日目は兵庫県立大学の中本 幸一氏による「フラット化する組込みシステム」,ヴィッツの杉本 明加氏による「リアルタイムOSプログラミング」という講義が行われた.2日目はNECエレクトロニクスの大山 将城氏による「組込み開発体験談:組込マーになる」という講義が行われた.

 本イベントの参加者は,大学生や大学院生,社会人などである.合わせて約40名が7チームに分かれ,ライン・トレーサを製作して競技を行う(写真1)

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[写真1] 製作したライン・トレーサの外観
SSEST3実行委員会が作成したライン・トレーサの見本.ラインを探知するセンサを左側につけるという工夫がなされている.

●輪ゴムを使ってプラスチック製の容器を倒す

 本イベントは,ライン・トレーサが白いラインで引かれたコースに沿って走行する時間などを競う(写真2).コース内には,回路図で用いられるコイルの記号の形をした近道や抵抗の記号の形をしたジグザグの道などがある.各チームは2回ずつ走行する.各チームは,1台または2台の機体を競技に用いることができる.

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[写真2] コースの外観
左回りに1周する.回路図に用いられる電源の記号からスタートする.

 今回の競技では,輪ゴムを的(プラスチック製の飲料の空き容器)にあてて倒す,「やぶさめ」という種目が追加された(写真3).コース途中の2個所に赤外線の送信機が設置されており(写真4),機体に搭載した受信機(写真5)によって信号を受け取り,輪ゴムを発射する.容器の並べ方は各チームで異なり,参加者は好きなように並べることができる.容器は1個所につき最大10本置くことができる.競技中に誤発砲しないように,機体が送信機の前に行くまでは白い紙で送信機を隠していた.なお,コースアウトやフライングになった場合は失格になるという.

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[写真3] 的となるプラスチック製の容器
競技大会が行われる日までに実行委員や参加者が飲み,空の容器にした.

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[写真4] コース途中の2個所に設置されている赤外線の送信機
2カ所のいずれかで的を倒さないと,走行時間の記録が無効になる.

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[写真5] 機体に搭載した受信機の外観
機体の左側の真ん中に受信機が搭載されている.

 倒れた容器の数や走行時間,ペナルティを総合して順位を決める.ペナルティには,輪ゴムをゴールまで持ち帰ることや,規定の場所以外で輪ゴムを発砲することなどがある.

●7チームに分かれてライン・トレーサを製作

 本イベントでは事前学習として,合宿当日までに配布された部品や基板などで各自ライン・トレーサを1機作ってくることになっている.各チームは,その機体を元に改造した1台または2台の機体を競技に用いる.機体のボディ部分は改造が許されている.例えば,Milkyチームは,移動する際にタイヤの役割を果たすキャスタを二つ取り付けた(写真6).本来は一つだが,二つ装備することにより,道の凹凸に対応して安定走行できるという.発行素子と受光素子が一つになったライン・センサは最大四つまで,受光素子のみの位置確認センサは最大四つまで増やせる.機体は単三電池4本で駆動する.

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[写真6] Milkyチームの機体の裏側
キャスタを二つ取り付けた.

 製作の際には,各チーム内でハードウェアを担当する人,ソフトウェアを担当する人,プロダクト・マネージャを担当する人などに分かれて作業を行った.参加者の得意分野を生かして分業をしたという.

●ドキュメントを元に成果発表会

 競技会の前に,各チームが作成したドキュメントを元に成果報告会が行われた.審査では,特別審査員として,三菱電機マイコン機器ソフトウエアの宿口 雅弘氏,デンソーの佐藤 洋介氏,アイシン・コムクルーズの間瀬 順一氏が参加した(写真7).ここでは,「分かりやすさ」,「網羅性」,「論理的正しさ」,「現実とのかい離」,「審査員の印象」について審査した.

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[写真7] 審査員のようす
左から,アイシン・コムクルーズの間瀬 順一氏,デンソーの佐藤 洋介氏,三菱電機マイコン機器ソフトウエアの宿口 雅弘氏.

●優勝は「株式会社上原重工チーム」

 競技会は3日目の夜に開催された.競技会では,機体がジグザグ・コースにはまってしまったり,やぶさめ用の機構が作動しなかったり,コースアウトしてしまったり,といったハプニングが起こった.やぶさめでは,的の近くに止まって打つチームと走りながら打つチームに分かれた(写真8)

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[写真8] やぶさめで容器を倒しているようす

 競技がすべて終了し,やぶさめで的を倒した本数と走行時間を総合して優勝チームを決定した.また,審査員の評価が高かったチームには審査員特別賞が,提出したドキュメントの評価が高かったチームにはドキュメント賞が贈られた.優勝は「株式会社上原重工チーム」,審査員特別賞は「ヤクルトじゃ足りないチーム」,ドキュメント賞は「Milkyチーム」という結果になった.その後,参加者の一本締めで閉会した(写真9)

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[写真9] 本大会の参加者たち

●本大会の実行委員長にインタビュー

 競技会終了後,本大会の実行委員長である村上靖明氏(写真10)にインタビューした.

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[写真10] 本大会の実行委員長の村上靖明氏

――実行委員長になられた経緯を教えてください.

村上氏 前回から残っている実行委員が私を含めて二人しかいなかったので,私が立候補して委員長になり,もう一人の小田氏は副委員長になりました.小田氏とは競技会まで4回~5回しか会えませんでした.週1回はチャットやSkypeで連絡を取り合っていました.

――今の率直な感想をお聞かせください.

村上氏 やっとおわったぁ,と(笑).安心しました.2006年10月~11月から準備を行っているので,無事に終了して,肩の荷が下りた感じです.

――SSESTの活動はどうやって世の中にアピールしているのですか.

村上氏 情報処理学会でチラシなどを配布したり,学会誌に広告を掲載したりしています.また,mixiなどのSNSにもコミュニティがあります.このほか,前回の参加者の口コミで今回の参加者が増えました.最近は知名度が上がってきていると思います.

――今回の競技会の結果はどのような方法で公開される予定ですか?

村上氏 結果は,集計が終わり次第,SSESTの公式Webサイトに掲載したいと思います.一応,9月中旬の掲載を予定しています.そして,この結果を来年に生かしていきたいと思います.

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