外観検査などに使える組み込みコンピュータ内蔵の小型カメラを展示 ―― NIWeek2007(その2)

福田 昭

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2007年8月10日

 計測・制御システムのアプリケーション開発ツール「LabVIEW」のベンダである米国National Instruments社は,2007年8月5日~9日,米国テキサス州AustinのAustin Convention Centerにて,同社の製品と技術,応用事例をアピールするイベント「NIWeek 2007」を開催した.NIWeekはセミナや技術講演会,展示会などで構成されている.本稿では前回のレポートに引き続き,展示会の様子を紹介する.

●小型カメラにコンピュータを組み込み

 計測・制御システムの重要な応用に,外観検査がある.カメラと画像処理の組み合わせによって良品・不良品を選別したり,合否判定の参考となる情報を取り出したりする.一般に,カメラで撮影した画像をケーブル経由でパソコンやサーバなどのホスト・マシンに取り込み,ホスト・マシンで画像処理を行うことが多い.

 National Instruments社は本イベントで,カメラとホスト・マシンを一つにまとめた小型カメラ「NI Smart Camera」を披露した.解像度がVGA(640×480)で画像の取り込み速度が60フレーム/sのCCDイメージ・センサ,PowerPCプロセッサ,フレーム・バッファ(フレーム・グラバ),Ethernetインターフェースなどを内蔵する.LabVIEW,あるいはNational Instruments社の画像処理ソフトウェア開発ツール「Vision Builder」で作成したアプリケーションを搭載できる.2007年秋には出荷を始める予定である.

 展示会場では,ビール瓶をベルト・コンベアで運び,カメラと画像処理によって外観を検査するラインを組んでいた(写真1).3台のカメラを駆使してラベルの傷を見つけたり,2種類のビール瓶を識別したり,ラベルの位置を整えたりする.ビール瓶が大きな音を立てていたこともあって,来場者の注目を集めていた.

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(a) 「NI Smart Camera」を利用した,ビール瓶の位置を整えるステージ

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(b) 右側はラベルに傷があるかどうかをカメラで検査するステージ,左側は2種類のビール瓶をカメラで認識するステージ

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(c) ベルト・コンベアの全体像

[写真1] ビール瓶をベルトコンベアで運び,カメラと画像処理によってビール瓶を検査するライン(National Instruments社の展示)
(a)では,ラベルがカメラ(円環状の発光ダイオード照明の奥)の正面に来るように,カメラでラベルを認識しつつ,ビール瓶を回転させている.(b)のカメラは,IEEE 1394インターフェースを内蔵する従来品.(c)はベルトコンベアの全体像.右回りにビール瓶が運ばれていく.左上の赤い線は分岐で,茶色のビール瓶は上に,濃紺色のビール瓶は右に運ばれる.なお,ビール瓶の違いは色ではなく,首の形状の違いで認識している.

●LabVIEWのアプリケーションを組み込みプロセッサで動かす

 National Instruments社は従来から,LabVIEWで開発したアプリケーションを動かすさまざまな形態のハードウェアを提供してきた.そのハードウェアは,基本的にパソコン技術を計測・制御用途に調整したものである.パソコンの安価な技術を流用できることから,通常の計測・検査機器よりも低コストでシステムを構築できる.言い換えると,開発成果物のハードウェア(ターゲット)は基本的にパソコンであり,そのままでは組み込みシステム開発には適用しづらい.また,組み込みシステム開発ではC言語のコードをコンパイルしてアセンブリ言語に変換し,マイコンを動かす.C言語に関する知識が要求される.

 しかし最近では,LabVIEWを組み込みシステム開発に直接適用することを狙ったソフトウェア・モジュールが増えてきた.その代表が,組み込みシステムに使われている米国Analog Devices社のディジタル信号処理プロセッサ「Blackfin」をターゲットとするソフトウェア・モジュール「LabVIEW Embedded Module for ADI Blackfin Processors」である.

 この「LabVIEW Embedded Module for ADI Blackfin Processors」を使うと,C言語の詳細を知らなくても,Blackfinの上で動くアプリケーションを開発できる.NIWeek 2007の展示会場では,Analog Devices社がこのモジュールで開発したアプリケーションをBlackfin搭載ボードで動かして見せていた(写真2).指の脈拍を計測するアプリケーションと,非常に簡素なゲームのアプリケーションである.

 また,PDA(携帯情報端末)をターゲットとするソフトウェア・モジュール「LabVIEW PDA Module」も用意されている.米国Juniper Systems社は,計測データ収集用の堅ろう型PDA「Archer Field PC」を展示した(写真3).National Instruments社が提供しているCompactFlashカード型のデータ収集モジュール「CF-6004」を内蔵できる.

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(a) 展示の全体

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(b) Analog Devices社のプロセッサ「Blackfin」を搭載した組み込みボード

[写真2] 組み込みプロセッサでLabVIEWのアプリケーションを動かす(Analog Devices社の展示)
(a)の右側のディスプレイには,「LabVIEW Embedded Module for ADI Blackfin Processors」で記述したプログラムが示されてる.左側は組み込みボード.(b)のボード上の小型ディスプレイで脈拍計測などのアプリケーションを動かしていた.

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(a) 水につけても動作することをアピール

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(b) PDAの上部に取り付ける防水キャップ

[写真3] LabVIEWのアプリケーションが動作する堅ろう型PDA「Archer Field PC」(Juniper Systems社の展示)
PDAの上部に取り付ける防水キャップを外すと,オプションのカードやカメラなどを取り付けられる.

●64個のマイクで旅客機の騒音を計測

 LabVIEWが得意とするテスト用途では,ラジオ受信機用テスト・システムが展示されていた.カナダのMindready Solutions社が開発したシステム「Universal Radio Tester(URT)」である(写真4).AMラジオやFMラジオ,衛星ラジオなどの信号を発生し,受信感度や選択度などをテストする.車載ラジオや衛星ラジオなどを持ち込んで,実際のテスト動作のデモンストレーションを行った.

 音響・振動計測用途では,航空機の騒音を計測するシステムの展示が来場者の注目を集めていた.National Instruments社が展示した(写真5).64個のマイクを2次元マトリックス状(8個×8個)に並べ,音響信号を同時に計測する.音波の位相の違いから音源を探索し,ディスプレイに表示する.米国Boeing社で旅客機の騒音計測に採用されている.展示ブースでは,旅客機の模型を置き,エンジン部分でファンを回して実際に音源を探索してみせた.

 このほか,テレビ・ゲームの画像を解析してゲーム・コンソールを自動的に操作する展示(写真6)や,ルービック・キューブを解く展示(写真7)などが目を引いた.

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(a) 展示ブースのようす

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(b) 左端のケースに車載ラジオ受信機や衛星ラジオ受信機などを並べ,テストを実演してみせていた

[写真4] ラジオ受信機用テスト・システム(Mindready Solutions社の展示)

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(a) 手前にある金属製の柵が,8個×8個のマイクを並べた集音器

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(b) 旅客機の模型

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(c) 音源探索システムの外観

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(d) 音響信号の解析結果

[写真5] 64個のマイクを平面上に並べて音源を探索するシステム(National Instruments社の展示)
(b)の模型はエンジン部分にファンを内蔵しており,ファンを回すと騒音を発する.(c)の音源探索システムはPXIバス準拠の16チャネル,24ビットA-D変換ボードを搭載し,収集した音響信号をディジタル化している.(d)の中の赤色の部分が騒音レベルの高い所.旅客機の模型のファンを回すと,ほぼリアルタイムに解析結果を表示していた.

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[写真6] テレビ・ゲーム「テトリス」の画像を解析(National Instruments社の展示)
「テトリス」では,落下してくる図形をそろえて消すことが要求される.家庭用ゲーム機「Xbox」で「テトリス」を動かし,PXIバス・コンピュータにビデオ信号を取り込む.PXIバス・コンピュータでテトリスの図形を解析して,Xboxのコンソールに操作信号を送っていた.

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[写真7] ルービック・キューブを解く(National Instruments社の展示)
はじめにカメラでルービック・キューブの初期状態(立方体6面の配列)を撮影する.それからキューブを操作し,操作後の状態をカメラで確認して,再びキューブを操作することを繰り返していた.ただし,展示ブースではキューブの状態があまり良くなく,人間の手でキューブをきちんとそろえる必要があった.


ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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