奇抜な走りで問題提起? ぶっちぎりの走行タイムの理由とは ―― ETロボコン2007 関西地区予選会
2007年6月10日,大阪電気通信大学 四条畷キャンパス(大阪府四条畷市)にて,LEGO MINDSTORMSによる小型自走ロボットの競技会「ETロボコン2007 関西地区予選会」が開催された(写真1).40チームが参戦して,走行タイムとモデリングの良し悪しを競い,12チームが本選進出を決めた.タイム部門で優勝したチーム「うしろむき98%」は奇抜なアイデアと確実な制御で喝さいを浴びたが,本来のライン・トレース競技とかけ離れた走行であることから物議を醸した.
[写真1] 会場となった大阪電気通信大学 四条畷キャンパス コナミホール
本番の2週間前に実施された試走会も同会場で行われた.
●「仕様通りに実装しました」,規約の裏読みと正確な制御に技あり
走行タイムで1位となったのは,チーム「うしろむき98%」(個人参加).イン・コース走行の際に,スタート地点において後ろ向きで位置につき,バック走行でドルフィン・ジャンプ(注1),再びコースに乗り,中間ゲートとZクランクの凱旋門を通過したところでそのまま直進,コースを逆走して再度ドルフィン・ジャンプでスタート地点に戻り,ゴール・ゲートをくぐる,という一連の動きを2回繰り返してみせた.最後の「ゴール後停止(ゴールを過ぎてから50cm以内の場所で3秒以上停止するとボーナス・ポイントが加算される)」まできっちり制御した.
注1;スタート直後に本来のラインをトレースせず,大きく左折していったんコースを逸脱し,経路を大幅にショートカットする形でコースに復帰することを「ドルフィン・ジャンプ」と呼ぶ.ETロボコン(当時はUMLロボコン)の初期のころにとあるチームが編みだした技であり,その後,主催者公認の"裏技"となっている.
[写真2] タイム部門で優勝したチーム「うしろむき98%」のスタート地点の様子
イン・コースがチーム「うしろむき98%」,アウト・コースがチーム「Knowledge Wing」.イン・コースのロボットがあえて後ろ向きに配置されている点に注目.
※走行の様子の動画その1(Zクランクの凱旋門を通過するまで,4.23Mバイト),その2(Zクランクを通過してドルフィン・ジャンプでゴール・ゲートに向かう様子,4.21Mバイト)
[図1] チーム「うしろむき98%」の走行ルート
この奇抜な走りに会場は大いに沸いたが,ゴール・ゲートに逆方向から進入して戻る,という動きは「ゴール・ゲート通過」とみなせない(すなわち,周回とみなせない)のではないかという問題が提起され,運営側では競技規約を引っ張り出して議論が行われた(写真3).その結果,競技規約に記されている要件をすべて満たした走行であることが確認され,完走と認められた.
[写真3] 議論の様子
競技規約の内容を確認しているところ.
●相互投票で選ばれたのはユニークで分かりやすいモデル
地区予選大会におけるモデルの評価は,参加チームによる相互投票の形で行われた.最優秀モデルに選ばれたのは,30チームからの支持を得た「なんだいや(仮)」(リコーソフトウエア プロダクト事業部 鳥取開発センター).速く走るために必要な項目を分かりやすく抽出していた点が評価されたようだ(写真4).
[写真4] 相互投票で最優秀モデルに選ばれた,チーム「なんだいや(仮)」のモデル(一部.クリックすると拡大)
30チームからの支持を集めた.
2位に選ばれたのは,チーム「うしろむき98%」とチーム「猪名寺駅前徒歩1分」.うしろむき98%は,雑誌の表紙を模したユニークなデザインで注目を集めたが,審査委員からは「どう制御するのかという,開発に不可欠の要素が書かれていない」という声も上がっていた(写真5).
[写真5] チーム「うしろむき98%」のモデル(一部)
40チームのモデルの中でも異彩を放っていた.A4用紙を縦に使ったところもユニーク.
本予選会の会場は,外光の影響を受けにくいホール内だった.スポット・ライトの明るさも抑えられ,光の状況は安定していた様子.本選出場をかけた予選会ということで各チームとも着実な走りを見せ,40チーム中16チームが2回とも完走,さらに13チームが1回完走した(完走率は56.25%).
本選は,2007年7月14日~15日に,東京都江東区のディファ有明(14日,競技会)と墨田区の墨田リバーサイドホール(15日,ワークショップ)にて開催される.入場は無料.
[写真6] 走行タイム(ボーナス・ポイントを加味した数値)
左列が,2回の合計タイム.中列が1回目の,右列が2回目の走行タイムである.なお,黄色にマークしてあるのが本選出場チームである.なお,全チームの走行結果はこちらを参照.