スキル,ついてますか ~組み込みソフトウェア開発の人間学~(8) ―― ポジティブなテスト

渡辺のぼる

tag: 組み込み

コラム 2007年5月 1日

 スイミング・スクールに通う娘が,「きょうはテストの日!」と楽しそうにしゃべりかけてきました.筆者は,テストと聞くと学生時代のつらい思い出がよみがえり,良い気分にはなりません.娘は水泳の能力向上が認めてもらえる機会として,テストをポジティブに受け止めているようです.テストに合格できなくても,明るく「ダメだった.次回はがんばる!」と元気よく言います.

●テストには専門的なスキルが存在する

  最近,組み込みシステムのテストが注目されています.携帯電話や自動車など,市場における組み込み機器の品質問題の顕在化が原因と考えられます.大規模化・複雑化が進んだ組み込みシステムにおいて,半年~1 年といった短いサイクルで行う設計およびテストは,すでに破たんしかけているのかもしれません.

 高機能化を短期間で実現するため,ミドルウェアや既存部品を使った開発が多くなっています.ブラックボックスを含んだシステム開発には,従来のような小規模ですべてを認識できる(ホワイトボックスの)システム開発とは異なった問題が存在します.

 オープン・ソース・ソフトウェアの普及によって注目を集めたのが,ソフトウェアの品質保証です.だれが品質を保証するのでしょうか? この問題については,利用者側が品質確認を行い,品質保証する必要があります.オープン・ソース・ソフトウェアをビジネスとして提供する企業であれば,有償で保証してくれることでしょう.しかし,システムとして製品に統合して提供する場合,最終製品については自身で品質を確認し,保証する必要があります.

 このように,新規の開発が少ない場合でも,システムの規模が大きければ,テストはかなりの作業量となります.組み込みシステムの高機能化が進めば,ソフトウェア開発量は減っても,テストの作業量が大きく減ることはないでしょう.ソフトウェア部品の信頼性向上やテスト技術の進歩による効率化に期待するしかありません.

 最近では,テスト専門家による第三者テストの導入例が増えています.これはテストに関する専門的なスキルを生かし,客観的に品質を確認することが効果的であると認められた結果でしょう.また,上流工程からテストの専門家を参画させることは,テストだけでなく,設計品質の向上にも寄与します.逆に設計者自身がテストする場合においても,(第三者テストと同じように)きちんと客観的にレビューとテストを行えば,より効率的な開発が実施できるとも言えます.

●テスト関連のコミュニティが活動中

  テストに関する専門的なスキルが求められる昨今,テストに関するコミュニティが存在し,テスト技術に関する研究や普及・啓蒙などが行われています.「ソフトウェアテスト技術者交流会」は,テストに関する書籍の翻訳や「ソフトウェアテストシンポジウム(JaSST)」というイベントを企画・運営しています注1.また,「IT 検証産業協会」は,第三者テストを提供する企業が集まった団体であり,2005 年10 月に発足しました注2.需要が多い組み込みシステムについては重要課題ととらえているようです.

 こうしたコミュニティによるテストに関する人材育成に期待しています.このとき,やはりテストに関するスキルの標準化が求められることになります.

 「組込みスキル標準(ETSS)」では,スキル基準の開発技術において,テストのスキルが定義されることになります.キャリア基準では職種としてテスト・エンジニアを定義し,職務や必要なスキル・セットなどを定義します.これらについても,テスト関連のコミュニティの方々と協調して,人材育成に有効な定義を行いたいと考えています.

 今後の組み込みシステム開発におけるテスト・エンジニアの活躍を期待しています.大規模化・複雑化が進む組み込みシステムの品質問題を担う人材として,設計者と協調して,効率的なシステム開発を実現してくれることでしょう.

 話は戻りますが,娘のテストに対するポジティブな考えかたが,できる限り継続することを願っています.そのためにも,テストで得られる喜びを実感できるようにしてやることが必要だと考え
ます.テスト合格のごほうびだけでなく,次のステージへ進む権利を得て,成長していることを言い聞かせることも必要かもしれません.

 娘のテストについて書いていて思い出したのが,筆者が学生時代に父から言われたことばです.「社会に出れば毎日がテストだ」.ということは,このコラムも筆者のテストの一つなんですよね.合格でしょうか? 成長しているでしょうか?

 注1http://www.swtest.jp/forum.html/http://www.jasst.jp/を参照.
 注2http://www.ivia.gr.jp/を参照.


(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2006年2月号に掲載されました)


わたなべ・のぼる
組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)

◆筆者プロフィール◆
渡辺のぼる.電機メーカ系ソフトウェア開発企業のファームウェア開発者.2002年以降,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)において組み込みソフトウェア技術者のスキルを体系的に整理するスキル標準の草案を作成.2004年9月,スキル標準の策定に専念する職場に出向,現在に至る.

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