週100万個の慣性センサを生産するAnalog Devices社のMEMSファブに潜入 ――Analog Devices社 MEMSファブ
米国Analog Devices社は,2004年10月12日~14日,日本の報道関係者を対象とするプレス・ツアーを実施した.今回は,同社の主力となる三つの技術分野,すなわちアナログ,DSP(digital signal processing),MEMS(micro electro mechanical systems)について,製品展開や今後の事業戦略などの説明,および新製品のデモンストレーションを行った.
同社は,加速度センサやジャイロ・センサ(角速度センサ)といった汎用MEMS慣性センサで大きなシェアを獲得している.本プレス・ツアーでは,日本の報道関係者に対して,米国マサチューセッツ州CambridgeにあるMEMSファブ(製造工場)を初めて公開した(写真1).ここでは,同社のMEMS事業の現状と今後の展開,およびMEMSファブのようすをレポートする.
●MEMS部分はより感度を上げ,周辺回路はCMOSで小型化へ
同社のMEMSファブでは,MEMS加速度センサとMEMSジャイロ・センサが製造されている.現在,週におよそ100万個のMEMS慣性センサを製造しているが,加速度センサとジャイロ・センサの割合は9:1であるという.
同社のMEMS慣性センサの特徴は,MEMSセンサ部と信号処理回路部が1チップに集積されている点である(図1).センサは表面マイクロマシーニング技術(Si基板の表面上に積層構造を作る技術)を用いて形成されるが,この部分がCambridgeのMEMSファブで製造されている(写真2).その後,センサを形成した同じウェハに増幅回路やA-D/D-Aコンバータなどの信号処理のための周辺回路を集積する.現在,アイルランドにある同社の半導体工場で,設計ルールが3μmのBiCMOSプロセスを用いて周辺回路部分を製造している.
MEMSセンサと周辺回路を一つのチップに集積する最大の利点は小型化である.現在,同社が出荷しているMEMSデバイスの中でもっとも小さなものは,外形寸法が4mm×4mm×1.45mmの加速度センサ「ADXL320」である.今後は,周辺回路の部分を0.6μmのCMOSプロセスを使うことで,さらなる小型化を図っていくという.また,加速度センサについては,現在4μmのビームの厚みを10μmにすることで,感度を2.5倍にするという.
同社のMEMSファブではClass100のクリーンルームを利用しており,1分間に7回の空気の入れ換えを行っている.また,品質管理の規格であるISO9001/QS9000,環境管理の規格であるISO 14000の認定を受けている.
現在,平均430の製造工程を経て,同社のMEMS慣性センサのセンサ部分が完成する(写真3~写真5).その大まかな内訳は,フォトリソグラフィ(薄膜形成)に200工程(このうちテスト工程が10),エッチングに140工程(テスト10が工程),CVD(化学的気相成長;成膜方法の1種)に50工程,不純物拡散に20工程(テストが8工程),イオン注入に10工程,PVD(physical vapor deposition)に10工程(テストが2工程)となる.
テスト工程では,おもにデバイスの物性(厚み,線の太さ,抵抗値など)を測定する.テスト装置として,米国KLA-Tencor社や米国August Technology社などの製品を採用しているという.
今後,平均430工程を約320工程に減らすことによって,生産能力を向上させるという.おもに削減が見込まれるのは,フォトリソグラフィとエッチングの工程.2005年春ごろには約320工程で製造した最初の製品が出荷される予定.
●自動車から民生機器,そしてRF MEMSへも参入
現在,同社のMEMSデバイスの売り上げでもっとも大きいのは,加速度センサである.その応用分野としてもっとも多く出荷されているのが車載向けであり,例えばエア・バッグの衝突検知などに用いられている.現在,ダイナミック・ビークル制御や横滑り防止機能,オーバロール防止機能などの搭載により,MEMS加速度センサだけでなく高性能なMEMSジャイロ・センサを採用する例も増えている.このように自動車に搭載されるセンサの数が増加していく一方で,今後は,効率良く,かつ高信頼性を維持しつつ自動車内でセンサを使うためのネットワークの構築が大きな課題になってくるという.
自動車に次いで同社が期待を寄せているのは,市場規模が大きい携帯電話やPDAなどの携帯機器へのMEMS加速度センサの搭載である.現在,約5億台出荷されている携帯機器のうち,約20%にMEMSセンサが搭載されているという.今のところ,同社の携帯機器市場でのシェアは低い.
携帯電話については,次世代の高速通信に備えて,高い周波数帯域に対応したスイッチ(リレー)やフィルタといった,いわゆるRF MEMSデバイスの研究・開発が大学や企業で行われている.同社もRF MEMSデバイスの研究・開発を進めている.RFスイッチについてはすでに開発済みだが,どのように携帯機器分野に投入していくかは現在検討中であり,商用化は未定である.また,FBAR(film bulk acoustic resonator)などのRFフィルタについては,いつ,どのような製品によってこの市場に参入するのかを模索中で,現在のところ製品開発は行っていないという.
一方,光MEMSデバイスの開発について同社のVice President,Worldwide SalesのVincent Roche氏(写真6)に尋ねたところ,「実験的に光MEMSデバイスを作ってみたことはある.現在のところまだ市場からの要求があまりないので,製品開発は行っていない」という答えだった.また,同氏によると,基本的に同社のMEMSデバイスの展開は,まず車載向け製品で土台を作り,そこから民生機器などの市場へ拡げていくことを考えているという.
なお,同社の売り上げを技術分野別に見ると,A-D/D-Aコンバータなどのアナログ製品がもっとも多く75%,次いでDSPが20%,MEMSが5%である.MEMSデバイスは同社が開発を始めた11年前から年間約20%の伸びを示しているが,「車載や携帯機器に搭載されることで今後も売り上げが増えていくと考えられるが,アナログ製品の伸び率も年間15~20%であるため,MEMSの売り上げ比率は(今後も)5%にとどまるだろう」(同社Director of Business Development,MPDのBob Sulouff氏).
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