Mr.M.P.Iのプロセッサ・レビュー ――携帯電話用半導体の開発手法,日本流 vs. 米国流

M.P.I

tag: 組み込み 半導体

コラム 2004年1月 5日

 あるプレゼンテーションを見ていて再確認したのだが,同じ携帯電話市場を論じるにもいろいろな切り口がある.

 米国系の人のプレゼンテーションでは,携帯電話系の機器はパソコンが進化してダウンサイジングした先にあるように描かれていることが多い.これこそ米国的パソコン・ベース戦略の刷り込みだと思うのだが,事務効率向上のためのパソコンがマルチメディアやネットワークを扱えるように進化し,その先にマルチメディア化したモバイル機器やユビキタス機器があるという考えかただ.一方,日系企業の場合,まず携帯電話があって,それがシンプルな通話だけのものから静止画を扱い,動画を扱い,iモード,3D表示と来て,今やインターネットの中心は(非パソコンの)携帯電話という構図になる.欧州系の場合は,日本と同様,携帯電話中心ではあるが,日本的な友だち相手の表現力重視というよりも,スマートフォンとでも呼ぶべきビジネス応用に目がいくようだ.韓国企業は日本に,台湾企業は米国に近く,中国は全部ごちゃまぜという感じである.

 携帯電話とはちょっと違うが,ディジタル・カメラ(デジカメ)からの直接印刷についての考えかたにも差があるようだ.操作上は同じようなユーザ・インターフェースであっても,米国系は「プリンタは周辺機器.パソコンの代わりをデジカメが務め,プリンタをデジカメが制御する」と考えるようだし,日系企業は「デジカメもプリンタも周辺機器だが,プリンタがホストになってデジカメのデータを吸い上げる」と考えるようだ.

●市場のとらえかたが開発手法に影響を与える

 そういった市場のとらえかたは,どれかがまちがっているということはないように思われる.空間的,時間的局所性を考慮すれば,どれもそれぞれに正しいと思える.その結果,半導体の設計もそれぞれの市場感覚が設計者に影響を与え,設計者の属する「コミュニティ」ごとにそれぞれ異なるアプローチができ上がっていく.

 下から上へ積み上げてきた日本の携帯電話の場合は,「携帯電話の待ち受け時間や重さ,容積といったファクタはつねに改善され続けねばならない」というドグマの中で,どれだけの機能を追加するかということを考えてきた.その結果,消費電力を低く,形状を小さくということに努力して,それによって生まれたスペースに小刻みに機能追加を行った.既存路線の延長線上で小さな改良を繰り返してきているので,でき上がったものは過去の製品を踏まえた非常に繊細な設計である.この方法論によって世界市場に先駆けて画面をカラー化し,カメラ付きやらインターネット対応やらをやってしまったのだから,日本のアプローチもまんざら捨てたものではない.

 これに対して,ネットワーク化・マルチメディア化した携帯電話に「後から」参入するにあたって,米国勢はもともとパソコン上で実現済みの機能をいかにダウンサイジングして携帯電話の枠の中に押し込めるか,という方向で切り込んできている.最初は大ざっぱにバッサリと切って押し込んでくるから,基本機能はともかく,細かいところでフィットしない部分がままある.日本人はこういう細かいところの粗雑さが特に気になるたちなので,米国勢のやりかたを評価しない人も少なくない.しかし,米国方式であっても,世代を重ねていけば,徐々に細かいところまで良くなってくる.ただ,基本的に設計ごとにカスタマイズするようなことはしたくないのが米国流だから,そういうことを要求する人には違和感が残る.

 米国方式の良いところは,先に全体プランを提示して,枠組みを明確にしてからしごとを始めるところである.これにより,互換性とか拡張性とか,「広げる」ための要素が最初に確立される.そのぶん,全体プランに合わないような「特定の人のためのこだわり」の仕様はバッサリだ.これに対して日本勢は,どうしても逐次改善の継ぎ足ししごとになる傾向がある.よく言えば個別最適化,悪く言えば泥縄式.一品一品こだわり重視のもの作りとも言える.

●ハートランド戦略を採る米国勢に対抗するには...

 こと業界内の戦略に関しては,米国勢が中心から徐々に外へ広げる「ハートランド戦略」で,日本勢は周囲を巡って出てくる先をたたく「リムランド戦略」と言えるだろう.今のところ,携帯電話のマルチメディア機能強化を巡る戦いでは,空間的な局所性その他のおかげで,両者めでたく共存している.しかし,それが許される時間はそれほど長くはなさそうだ.下から積み上げていっても上からダウンサイジングしていっても,行き着く先は同じだからである.

 この先,欧州勢などを含めた競争がいちだんと激しさを増すことだろう.どうもそうなったとき,まともに激突していてはリムランド戦略を採る日本勢の生き残る道はなさそうだ.すでに固まっている「パソコン」というハートランドを突いても,勝ち目がないように思われるからだ.とすれば,内側では激突を避け,さらに外側に新たな活路を見いだすのが生きる道だ.苦労の多い戦略ではあるが,やりとげないと先はないように思う.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2003年9月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
M.P.I(ペンネーム).若いころ,米国系の半導体会社で8ビット,16ビットのプロセッサ設計に従事.ベンチャ企業に移って,コードはコンパチ,ハードは独自の32ビット互換プロセッサのアーキテクトに.米国,台湾の手先にもなったが,このごろは日本の半導体会社でRISCプロセッサ担当の中間管理職のオヤジ.

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