高速な近距離ワイヤレス通信規格UWBのデモンストレーションに注目が集まる ――CEATEC JAPAN 2003
2003年10月7日~10日,幕張メッセ(千葉県千葉市)にて映像・情報・通信に関する展示会「CEATEC JAPAN 2003」が開催された(写真1).ワイヤレス通信関連の展示が多数行われる中,太陽誘電ブースのUWB(Ultra Wideband)の実演などが注目を集めていた.UWBは広い帯域を使用して,高速なデータ通信(10Mbps~1Gbps程度)を実現する近距離ワイヤレス通信規格.IEEEで標準化が進められている.
[写真1] CEATEC JAPAN 2003
今年のテーマは「ユビキタス」.ワイヤレス通信関連,テレマティクス関連の展示やデモンストレーションが多数行われた.
●法務省の許可を受けてUWBのデモンストレーションを実施
太陽誘電は,UWBを用いたワイヤレス通信のデモンストレーションを行った.UWBは,3.1GHz~10.6GHzの周波数帯域を使うワイヤレス通信規格である.通信距離は10m程度.
デモンストレーションでは,二つのパソコンの間でUWBを介してパケットの送受信を行った(写真2).今回使用した周波数帯域は3.1GHz~4.9GHz.データ転送のスループットは約95Mbpsだった.同社は,UWBに対応した積層セラミックス・アンテナ,バンドパス・フィルタ(3.1GHz~4.9GHz),5GHz帯をカットするためのバンドエリミネーション・フィルタを開発し,本デモンストレーション・システムに組み込んだ.本デモンストレーションで使用した送受信用のチップセットは米国XtremeSpectrum社製.
なお,同社は今回のデモンストレーションを行うにあたって法務省からUWB実験局の認可を受けた.
[写真2] デモンストレーションのようす
手前のキーボードの右側の突起した部分がアンテナ(右下に拡大写真).奥のパソコンにはRFボードが取り付けられている.なお,隣でワイヤレスLANのデモンストレーションも行われていたが,干渉などの問題はなかった.
●新しいMEMSデバイスが続々登場
松下電工は,MEMS(micro electro mechanical systems)技術を使った3軸加速度センサとMEMSリレーのデモンストレーションを行った(写真3,写真4).いずれの製品も,2003年末にサンプル出荷を開始する予定.
3軸加速度センサについては,センサ・チップのみのものと,増幅回路のICをいっしょに組み込んだマルチチップ・パッケージの2製品を展示した.本センサの電源電圧は5V,オフセット電圧は2.5±0.2V.測定範囲は±0.2gである.携帯電話に搭載する歩数計やスクロール機能,ゲームパッドなどの応用を想定している.
[写真3] MEMS3軸加速度センサのデモンストレーション
球状のプラスチックの筐体の中に本3軸加速度センサを取り付け,X軸(左右),Y軸(前後),Z軸(上下)の方向にどれだけゆれたかを測定していた.
[写真4] MEMSリレーMEMSリレーを用いてLEDのON/OFFを行った.本MEMSリレーは6GHz~10GHzの周波数に対応している.
また,オムロンもMEMS3軸加速度センサ,および増幅回路などの周辺回路ICをいっしょに組み込んだマルチチップ・パッケージを展示した.パッケージの外形寸法は6mm×6mm×2mm.検出範囲は±3g.感度は0.5mV/g/V以上.応答周波数はDC~200Hz.ピエゾ抵抗を用いて加速度を測定している.出荷時期は未定.
●昨年に続いて,各社がこぞって車載用部品を展示
東芝は,車載LAN用の光伝送用インターフェース・モジュール「TOTU133」,「TORU133」を展示した(写真5).MOST(Media Oriented Systems Transport)やIDB-1394など,情報系の車載LANには高速なデータ転送が求められるため,光伝送が用いられる.両製品のデータ転送速度は20Mbps~125Mbps(符号化方式はNRZ).動作温度は-40~+85℃.電源電圧は3.3±0.3V.
TOTU133は送信側のモジュールであり,InGaP赤色LEDとその駆動回路を内蔵している.中心波長は650nm.受信側のTORU133は,フォトダイオードと波形整形回路を備えている.I/Oインターフェース・レベルは3.3V PECLに対応している.
(a) 「TOTU133」と「TORU133」
(b) IDB-1394対応光トランシーバ
[写真5] IDB-1394対応光トランシーバ
(b)は「TOTU133」と「TORU133」を内蔵した光トランシーバ.オートネットワーク技術研究所が開発した.
一方,三洋電機は,MOST対応のO-E(光-電気)インターフェースIC「LA2340M」,「LV2341M」を展示した(写真6).LA2340M自体はI-V変換器だが,外付けのフォトダイオードと組み合わせることでO-Eコンバータ(光-電気変換器)を構成できる.すなわち,MOSTトランシーバのレシーバとして機能する.一方,LV2341MはLEDドライバであり,外付けのLEDと組み合わせることでE-Oコンバータ(電気-光変換器)となる.MOSTトランシーバではドライバの役割を果たす.
[写真6] MOST対応のO-E(光-電気)インターフェースIC
最大データ転送速度は50Mbps.電源電圧は5V.
また,NECエレクトロニクスは,同社のパワーMOSFETを利用した電動パワー・ステアリング・システムの展示を行った(写真7).展示品にはON抵抗が4.3mΩのMOSFET「NP88N04ZHEW」が搭載されていた.本MOSFETの定格電圧は40V.動作温度範囲は最大175℃.
これとは別に,ON抵抗を抑えたパワーMOSFET「UMOS4」シリーズも展示した(写真8).このシリーズのうち,もっともON抵抗が小さいのは「2SK3811」である.ゲート-ソース間電圧が10Vの場合,本パワーMOSFETのON抵抗は最大1.9mΩ.定格電圧は40V~60V.動作温度範囲は最大150℃.UMOS4については,すでにサンプル出荷を行っている.2004年1月から量産を開始する予定.
[写真7] 電動パワー・ステアリング・システム
ZF Lenksysteme社製.現在の12V系電源の場合,パワーMOSFETの定格電圧は40~60Vでよい.42V系電源になると,定格電圧は75~100Vが必要になる.NP88N04ZHEWのベースとなっているUMOS2シリーズでは,75Vに対応した製品もある.
[写真8] ON抵抗をさらに抑えたパワーMOSFET
欧米の信頼性規格AECQ101では動作温度範囲は175℃と決められている.一方,国内規格では同150℃.本製品は,主に日本市場での需要を見込んでいる.
このほか,東光は,LCD(液晶ディスプレイ)用のバックライト駆動モジュール「TMA1027A」のデモンストレーションを行った(写真9).光源に3色(RGB)のLEDを使用している.RGBのLEDを独立に駆動して白色のバックライトとして使用する.PWM出力などの電源部と制御部からなる.カー・ナビゲーション・システムなどでの需要を見込んでいる.
LCD用バックライト光源としてはCCFL(cold cathode fluorescent lamp)が使用されることも多いが,CCFLでは輝度の調整可能範囲が10~100%程度.これに対して,本モジュールの調光範囲は1~100%と広い.動作温度範囲は-40℃~+105℃.最大出力は25W.
[写真9] LCD用のバックライト駆動モジュールのデモンストレーション
LEDとしては1W品を採用している.
●リモコンのソフトウェアを自動生成するツールの体験コーナ
本展示会では,マイコンやDSPなどに関するデモンストレーションも多数行われた.
NECエレクトロニクスは,小型マイコン用のソフトウェア自動生成ツールのデモンストレーションとして,リモコン用ファームウェアの作成を体験するコーナを設けていた(写真10).リモコンに必要な機能はソフトウェア・ライブラリとして提供される.リモコンのメーカ名などの項目を選択すると,リモコンのファームウェアが生成される.対応するマイコンは同社の8ビット・マイコン「μPD789088」.本ツールは2004年4月に出荷される予定.今後の展開として,電子ポットや扇風機などのソフトウェア・ライブラリを拡充したり,対応マイコンを増やしていく予定.
[写真10] リモコン用ファームウェア自動生成ツールの体験コーナ
GUIを使ってリモコンのファームウェアを作成できる。マイコンの内蔵フラッシュ・メモリにこのファームウェアを書き込むと,リモコンが完成する.完成したリモコンは持ち帰ることができた.
一方,STマイクロエレクトロニクスは,ARMコアと音声処理用アクセラレータ回路,動画処理用アクセラレータ回路を1チップに集積したメディア・プロセッサ(音声や画像を主に扱うディジタル信号処理プロセッサ)「Nomadik STn8800」を展示した.デモンストレーションでは,OSとしてSymbian 7.0Sを搭載し,VGA(640×480ピクセル)サイズのMPEG-4データをデコードしながらLCDに表示してみせた(写真11).
[写真11] Nomadik STn8800でVGAサイズのMPEG-4データをデコードしているようす
Nomadik STn8800は,VGAサイズのMPEG-4動画データを30フレーム/sの速度でデコードする能力を持つという.ただし,今回のデモンストレーションではOSのオーバヘッドがあったため,15フレーム/sまでしか出ていなかった.
Nomadik STn8800はNomadikシリーズの最初の製品.2003年11月にサンプル出荷を開始する.なお,STn8800のデモンストレーションが公開されたのは今回が初めて.
●外径寸法が5.8mm×18mm×20mmと小さいリチウム・イオン電池
日立マクセルは,外径寸法が5.8mm×18mm×20mmのリチウム・イオン電池「ICP051820G」を展示した(写真12).重さは約4.5g.小型化すると大電流の出力が難しくなるが,同電池は最大連続放電電流が300mA.Bluetoothヘッドセットなど,比較的大きな電流が必要な用途における需要を見込んでいる.ただし,携帯電話は700mAh~800mAhが必要で,これには対応できない.
公称電圧は3.7V.定格容量は150mAh.持続時間(試験結果)は,使用時が4~5時間,待ち受け時が150時間.
[写真12] リチウム・イオン電池「ICP051820G」
左側が「ICP051820G」.右端は現在,携帯電話に搭載されているリチウム・イオン電池.ICP051820Gのサンプル出荷は2003年末から,量産出荷は2004年春ごろから開始する予定.
●折りたたみケータイのためのLCDドライバ用シリアル転送方式を提案
NECエレクトロニクスは,LCD用ドライバICのためのシリアル・データ転送方式「Mobile CMADS(Current Mode Advanced Differential Signaling)」に関するデモンストレーションを行った(写真13).例えば折りたたみ型の携帯電話では,LCDモジュールとグラフィックス・チップの間の配線がヒンジをまたぐことになる.LCDのサイズが大きくなり,転送されるデータ量が多くなるにつれて,電磁放射ノイズや消費電力の問題が深刻になってくる.そこで本方式では,従来のパラレル伝送の代わりに,小振幅の差動シリアル伝送を採用している.
[写真13] LCD用ドライバICのためのシリアル・データ転送方式のデモンストレーション
携帯電話や携帯端末などに搭載するLCDモジュールとグラフィックス・チップの間のデータ転送に適用することを想定している.
本方式では,6ビットのRGB信号(18ビット)を1~3ペアの信号線で伝送する.パラレル伝送方式と比べて,電磁放射ノイズを20dB低減できるという.送信回路は,2個のオープン・ドレイン・トランジスタで構成している.
今回のデモンストレーションでは,グラフィックス・チップとして米国nVIDIA社の「GeForce 2150」を利用した.本方式に対応したアモルファス・シリコンTFT LCD向けのドライバIC(μPD161605P)は2003年中に,低温ポリシリコンLCD向けのドライバIC(μPD161832P)は2004年に出荷されるもよう.