Javaベースのデータ放送規格,地上波ディジタルで花開く? ――ARIB-AE/MHPセミナー

組み込みネット編集部

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レポート 2003年8月14日

 日本国内では,ディジタル放送のデータ放送規格としてBML(Broadcasting Markup Language)が使われてきており,2003年から一部の地域において開始されるディジタル放送にも同規格が採用されている.しかし海外に目を転じると,欧州の標準化団体DVB(Digital Video Broadcasting)によって策定されたデータ放送規格であるMHP(Multimedia Home Platform)を採用する動きが広がりつつある.

 日本でも2003年6月に,電波産業会(ARIB)がMHPをベースとしたデータ放送規格「デジタル放送におけるアプリケーション実行環境標準規格(ARIB-STD-B23.略称ARIB-AE)」を規格化した.これを受けて2003年7月2日に,同規格に関するセミナ「ARIB-AE/MHPセミナー」が山王パークタワー(東京都千代田区)において開催された.現段階では,同規格に準拠した機器を運用するために必要となる詳細規定(運用規定)までは定められていないが,2006年以降の全国的な地上波ディジタル放送開始をにらみ,その動向に注目が集まっている.

 BMLはXMLベースの構造化言語である.BMLによるデータ放送では,表示用データ(BMLで表記されたテキスト)や画像,音声などのデータをそれぞれ配信し,受信機は内蔵するブラウザによってデータを表示する.一方,MHPはJavaベースのアプリケーション実行環境である.仮想マシン(Java実行環境)を受信機に組み込み,配信側はアプリケーション・プログラムを配信する.

●米国のCATVコンソーシアムがMHPベースの放送規格を採用

 今回のセミナでは,まず,DVBのMHP Umbrella Group議長である米国Sun Microsystems社のBill Foote氏が,DVBとMHPの概要を説明した(写真1)

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[写真1] 米国Sun Microsystems社のBill Foote氏
Bill Foote氏は,DVBのMHP Umbrella Group議長を務める.

 MHP 1.0仕様は,DVBによって2000年1月に策定された(現在の最新バージョンは1.1.1).2002年1月には,Java実行環境を含むミドルウェア仕様を検討していたケーブル・テレビに関する米国の業界団体CableLabsや日本の電波産業会を交えて,データ放送規格を検討するグループMHP Umbrella Groupを立ち上げた.その成果として,2003年1月にMHPの主要な部分を抽出し,国際利用規定GEM(Globally Executable MHP)1.0を策定した.そして2003年6月には,GEMに準拠した規格としてOCAP(Open Cable Application Platform)とARIB-AEを,CableLabと電波産業会がそれぞれ策定した(写真2)

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[写真2] 規格の相関関係
MHPの主要な部分を抽出したものがGEMである.OCAPやARIB-AEは,それぞれGEMに独自追加を施した規格(なお本資料は,Bill Foote氏に続いて講演した出葉義治氏のスライド資料に含まれていたもの).

 そのほか,米国のATSC(Advanced Television Systems Committee;ディジタル・テレビ放送の方式を定める標準化委員会)がデータ放送規格として策定したDASE1.0も,GEMに準拠したDCAP(DTV Common Applications Platform)をベースとしている.また,ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector;国際電気通信連合の電気通信標準化部門)の双方向テレビ・アプリケーションに関する勧告案ITU-T J.202でも,GEMを推奨している.なお,MHP(GEM)をベースとしたデータ放送はすでにドイツや北欧などで開始されており,オーストラリアや中国などでも試験放送が始まっているという.

●国内ではBML方式とMHP方式を併用

 ARIB-AE規格を検討したタスク・グループのリーダであるソニーの出葉義治氏は,同規格の位置づけや内容について説明した(写真3)

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[写真3] ソニーの出葉義治氏
出葉氏は,ARIB-AE規格を検討したタスク・グループのリーダを務める.

 電波産業会は1999年に,BMLに基づいたデータ放送規格「デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式(ARIB-STD-B24.略称B24)」を策定している.今回策定したARIB-AE規格は手続き型(プログラム実行型)のデータ放送のための規格であり,宣言型(コンテンツ表示型)のデータ放送の規格としては今後もB24を利用していく方針.ただし実装形態として,ARIB-AEの仮想マシン上にBMLブラウザを取り込んだ形になるのか(写真4),仮想マシンとBMLブラウザを両立させた構成になるのか(写真5)などは決まっていない.受信器を開発する立場から考えると後者のほうが現実的だが,仮想マシン上のアプリケーション・プログラムとBMLブラウザに連携機能を持たせられないなどのデメリットが多いという.

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[写真4] MHP方式(ARIB-AE)をベースに運用する場合
仮想マシンを核とし,その上にBMLブラウザを取り込んだ形.既存環境からの移行にあたっては大幅な変更が必要になるが,運用形態としてはこちらのほうが自然.

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[写真5] BML方式(B24)をベースに運用する場合
既存のBMLブラウザ環境と仮想マシンを両立させる形.既存環境からの移行は容易だが,仮想マシン上のアプリケーション・プログラムとBMLブラウザに連携機能を持たせられない.

 ARIB-AE規格はGEMとほぼ同じ内容である.日本語環境など,国内での放送に必要となる規定のみを独自拡張定義として追加している.具体的には,日本語フォントの文字セット,音声言語を切り替えるためのAPI(application programming interface),フォントの合成(外字作成)などについて規定した.

 実際にARIB-AE規格に対応する機器を開発するためには,運用規定の策定を待たなければならない.現時点では運用規定の策定時期は未定だが,出葉氏によると「2005年か2007年がめど」になりそうだ.

●AIBOといっしょに番組に参加

 データ放送番組の制作会社であるトマデジの制作・営業部長である舟橋洋介氏は,MHP規格に基づいたアプリケーションの例として,ソニーの犬型ロボット「AIBO」とMHP方式の受信機(セットトップ・ボックスの役割を果たす.ここではパソコンを利用していた)によるディジタル放送を双方向で連携させるデモンストレーションを紹介した(写真6写真7).AIBOと受信機は無線LANで通信し,AIBOの備える角度センサや音声センサ,映像センサなどの情報に応じて番組の展開が変わる.

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[写真6] AIBOを使った双方向放送のデモンストレーション
AIBOユーザである視聴者が,愛犬AIBOとともに冒険番組に参加するという設定.疾走するトロッコに乗りながら障害物をよけるゲームや旗揚げゲーム,宝探しゲームなどを,AIBOを入力装置として楽しめる.

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[写真7] 飼い主に手を振るAIBO
ゲームに失敗して魂を抜かれてしまうAIBOが,飼い主に最後のあいさつをしているところ.

 プログラム実行型のデータ放送規格では,データ形式がより自由になる.今までは放送局で情報を変換もしくは調整してから伝送プロトコルに乗せていたが,MHP方式ではその必要がなくなり,局を経由しないピア・ツー・ピアも含めて実現可能になるという.また,同社は海外への番組販売も視野に入れている.番組そのものだけでなく,投票番組や番組運用のノウハウなども販売できるのではないかと考えている.

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