生々しいテスト現場の教訓集 ――『ソフトウェアテスト 293の鉄則』
生々しいテスト現場の教訓集
Cem Kaner, James Bach, Bret Pettichord 著
テスト技術者交流会 訳
日経BP社 刊
ISBN:4-8222-8154-X
21×15cm
320ページ
2,400円(税別)
2003年4月
「事件は会議室で起きているんじゃない.現場で起きているんだ」
これはある人気ドラマの,「現場」を知らない上司に対する主人公のせりふです.ソフトウェア開発とソフトウェア・テストを取り巻く状況についても,このせりふがよく当てはまります.
本書は,そんな現場たたき上げの著者たちの教訓の集大成であり,ソフトウェアに携わるすべての人々へのメッセージです.原書は2002年に出版されたもので,扱っている内容もまだ湯気が立つほど熱いものです.翻訳についても,現役でソフトウェア・テストに携わっている技術者がチームを組んで訳出にあたっているためか,現場の生々しさがそのまま伝わってきます.さらに翻訳チームがつけた豊富な脚注も,内容に厚みを持たせています.
ソフトウェア開発と比べて一段低い立場と見られがちな「ソフトウェア・テスト」は,実は,技術力はもちろん,組織内での政治力など,高度な能力も求められるしごとです.本書には,テスト担当者としてテスト・ケースを組み立て,実施し,文書化する技術にはじまり,マネージメントを行ううえで必要な方針の立てかた,チームやプロジェクトの管理,交渉術,はてはキャリア形成,転職テクニックまで,ソフトウェア・テストにまつわるあらゆる教訓がちりばめられています.これらの豊富な話題によって本書は,机上の理論を元にした多くの技術解説書から一線を画したものになっています.
とくに「SWEBOK(ソフトウェア工学知識体系)」,「IEEE 829(ソフトウェア・テスト文書の標準規格)」についての著者らのきたんのない見解は,標準,規格,規則に弱い日本人の一人として,しばらく考えさせられました(これら二つのキーワードがわからない方は,「ソフトウェアを飯の種にしています」と言えないかもしれない.すぐに調べておこう).
巻末にある文献集も本書の魅力の一つなのですが,残念なことに問いだけ投げかけて,「答えは参考文献をあたってほしい」として終わっている「鉄則」がいくつかありました.ここはびしっと回答してほしかったところです.
また本書では,ソフトウェア・テストに携わる者として,「情報収集に専念し,事実をありのままに報告する.判断はその権限のある人に任せる」という突き放した見かたが貫かれています.一見消極的に思えますが,長年の体験に裏打ちされた会社組織の中での有効な生き残り術なのでしょう(役割分担の明確な外資系職場環境では特に...).「早くこの本を読んでいたら手を出さなかったのに」という心当たりが,筆者にはいくつもありました.
日々ソフトウェア・テストを担当している方にとって,本書は今後のキャリアをどのように積んでいくのかについての良き指針となることでしょう.これからソフトウェア・テストを担当する方,マネージメントにかかわる方には,転ばぬ先の杖となることでしょう.ソフトウェア開発を担当されている方々は,自分の書いたプログラムがどのような試練を経て製品にしあげられていくのかを思い浮かべながらお読みください.
最後に,筆者が本書の293件の「鉄則」を読んだときにどのように感じたのか,統計を取ってみました.
- 意味不明 2件
- 異論あり 3件
- 実感が持てない 12件
- 同意する 276件
この統計の真偽のほどは,ぜひご自身でお確かめください.
山崎辰雄
ノキア・ジャパン(株)