Mr.M.P.Iのプロセッサ・レビュー ――中国市場とマイクロプロセッサ

M.P.I

tag: 組み込み 半導体

コラム 2003年3月17日

 半導体業界では,中国の存在感が急速に大きくなってきている.現在の半導体業界において,その生産規模を背景に,TSMCやUMCなどの台湾ファウンドリが大きな力を持っていることはご存じのとおりである.中国本土のファウンドリ数社も離陸を始め,安い労働力などを頼りに,台湾勢に追い付こうとしている.

 そんな中,欧米のプロセッサ・メーカ各社が中国の現地企業や研究所,大学などとの提携やタイアップを発表する例が増えている.例えば,米国Motorola社の組み込みプロセッサDragonBallは中国でも人気があり,さらにM・COREは無償でライセンス供与されているようだ.米国Intel社や米国AMD(Advanced Micro Devices)社も手をこまねいてはいない.コンパイラを共同開発したり,教育用プラットホーム開発に協力したりしている.ただし,中国で主力となりそうなのはパソコンよりも民生機器.まずは組み込み向けプロセッサ市場が主戦場となるだろう.

●中国市場攻略へ乗り出すARM,MIPS

 となると,組み込み向けプロセッサIPコアの2強である英国ARM社と米国MIPS Technologies社の動きが気になる.両社とも申し合わせたように,昨年(2002年)初めに中国をターゲットとするオフィスを開設している.ただし,MIPS社とARM社ではアプローチが異なる.ARM社が中国半導体生産の中心地とも言える上海に直接進出したのに対して,MIPS社はすでに半導体産業が立ち上がっている台湾にオフィスを設立した.

 確かに台湾の半導体関連企業は続々と中国本土へ進出しているし,中国の半導体産業を支えている人材の多くは台湾の半導体業界から移った人々である.すでに高度な半導体設計・製造能力を備えた会社がいくつもある台湾でビジネスを展開しながら,状況を見て中国本土へ進出していこうというMIPS社の方針なのだろうが,これはややう遠な印象を受ける.

 かたやARM社は中国国内の設計会社やツール・ベンダに早々と渡りをつけ,昨年の秋には中国ファウンドリの代表とも言えるSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corp.)のARM7TDMIファウンドリ・プログラムへの参加を発表している.このプログラムにはTSMCやUMCなどの主要台湾ファウンドリも参加している.実際にチップが製造されたかどうかまでは未確認だが,ARM社は早くも中国国内において,設計から製造まで行える体制を整えてしまったと言えそうだ.

●「中国製プロセッサ」普及のシナリオ

 しかし,ARM社が中国の組み込みプロセッサ市場でも覇権を握れるかというと,これはまだよくわからない.欧州,米国,日本,韓国まで「制覇」したARM社をもってしても,なお,「中国市場ではわからない」という状況だ.日本などは,海外の流行に敏感で,ARM社に勢いがあると「みんな右へならえ」ということでいっせいに飛びついてしまう.一方,中国はちょっと米国に似たところがあって,国外の動向を知っていても無とん着なケースが多い.それに知的財産権に対してお金を払いたがらない人もいる.欧米や日本などからの注文をさばくためにARM社のIPコアを調達するかもしれないが,自分たちのためにはどうも別のものを欲しているのではないかと思えるフシがある.すなわち,自分たちで勝手に煮たり焼いたりできる「中国製の」プロセッサである.

 現在のところ,デファクトのプロセッサが登場するような動きは見えてきていない.なにしろ広い国なので,あちらこちらで独自プロセッサの開発に取り組む動きがあるらしい.400MHzクラスのプロセッサを作っているところがあるとか,どこかの大学のWebサイトにARM互換プロセッサの設計データが掲載され,すぐに削除されたとか,いろいろな話が聞こえてくる.HDLによるRTL設計が普及したので,とりあえず動作する程度のものを開発するのであれば,昔ほどの工数はかからない.ただし,先行する日米欧の製品と競争するレベルとなると難度は高い.今はまだ太刀打ちできるようなものは開発されていないと筆者は見ている.

 そんな中,手っ取り早くありそうな路線は,すでに開発された設計資産をなんらかの方法(例えば企業買収など)で手に入れて,その延長線上で新たな製品を開発するという方法である.現在の中国の経済成長自体,外貨をうまく使って達成している.マイクロプロセッサの世界でも,種は外から入れて育てるというのはいかにもありそうだ.なにせ日本と比べるとビジネスのスピードが何倍も速い.速すぎて,ちょっと心配になるくらいである.

 北京や上海などを中心に,数百という半導体設計会社が誕生していると聞く.急速にとうたされるのだろうが,勝ち残って力をつけたグループの中から,その気になる企業も出てきそうだ.可能性が高いのは,大量に出荷される民生機器向けのローエンド・プロセッサだろうが,そのうちどこかから,市場をせっけんするような製品が現れないともかぎらない.それもそう遠くない将来に.

 ARM社に取って代わる次世代の組み込みプロセッサは,中国市場をまず制覇して,それから世界へというシナリオか....

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2003年3月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
M.P.I(ペンネーム).若いころ,米国系の半導体会社で8ビット,16ビットのプロセッサ設計に従事.ベンチャ企業に移って,コードはコンパチ,ハードは独自の32ビット互換プロセッサのアーキテクトに.米国,台湾の手先にもなったが,このごろは日本の半導体会社でRISCプロセッサ担当の中間管理職のオヤジ.

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