ハードウェア設計者も「開発プロセス」を意識する時代に ――富士通がUML+SystemCの開発手法をシステムLSIに適用

組み込みネット編集部

tag: 半導体

インタビュー 2002年5月30日

 2002年4月,富士通と富士通研究所は,システム仕様をUMLとSystemCで記述するシステムLSIの開発手法を発表した.この手法を用いると,仕様が明確になり,ハードウェア・ソフトウェア協調設計を行いやすくなる.また,新規設計では,開発期間が従来の1/3になるという.ここでは,米国Open SystemC Initiative理事会Vice-Chairmanであり,富士通半導体部門のCベース設計普及の中心人物でもある同社電子デバイス事業本部 第二システムLSI事業部 ソリューション・プロセサ開発部 プロジェクト課長の長谷川隆氏に,この手法を用いることのメリットなどについて尋ねた.

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[写真1] 富士通電子デバイス事業本部 第二システムLSI事業部 ソリューション・プロセサ開発部 プロジェクト課長の長谷川隆氏

――今回の開発手法を用いると,なぜ開発期間が1/3になるのですか?

長谷川氏 いちばんの要因は設計の手戻りが減ることです.UMLを用いて仕様のモレをなくし,かつ自然言語では不めいりょうだった箇所をクリアにすることで,設計フローにおける手戻りが大きく減少します.加えて,ハードウェアとソフトウェアの設計や検証を平行して進めることにより,設計期間が短縮します.

 例えば,現在仕様をチェックする作業に多くの時間を費やしていますが,UMLの表記法を使って仕様を見やすくすることにより,このチェックにかかる時間を大幅に短縮できると考えています.開発期間1/3という数値は,このようなトータルの改善を考慮してはじき出したものです.

――SystemCもUMLも仕様記述言語ですが,なぜこの二つを併用するのですか?

長谷川氏 SystemCですべてを記述できないわけではありませんが,SystemCはいわゆるプログラミング言語であり,これを用いて仕様を記述しても人間にとってわかりやすいとは言えません.グラフィカルに仕様を表現するUMLであれば,この問題を解決できます.

 一方,アーキテクチャなどをUMLで記述するのは難しく,こちらはC++やSystemCのほうが適しています.また,SystemCの場合,シミュレーション環境が基本的にフリーで手に入るので,導入しやすいというメリットもあります.そこで,SystemCとUMLを併用することにしました(図1)

 今回の開発手法では,UMLとSystemCのそれぞれのメリットを組み合わせて使用することになります.つまり,仕様記述はUMLで,実装や検証はC++/SystemCでと考えています.上流だからこの言語,下流だからこの言語という区別はなく,設計フローをとおしてつねにUMLのデータとC++/SystemCのデータが対になって存在します.

 このほか,日立製作所と共同で開発したCWL(Component Wrapper Language;信号や信号変化に関するインターフェース仕様の記述言語)も採用しています.このCWLは,ハードウェアとソフトウェアの分割後に,ハードウェアどうしのオブジェクトを結ぶインターフェースを規定するところで使用します.

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[図1]UMLとC/C++,SystemCベースの開発手法

――では,複数の仕様記述言語を使うデメリットは?

長谷川氏 それは,もちろん,設計者が複数の言語を覚えなければならないということです.

――そのための社内教育も始めたと聞きますが?

長谷川氏 2週間ほど前から始めました.対象はシステムLSI設計者としています.ここでいうシステム設計者とは,CPUとメモリ以外のディジタルLSIの設計者と組み込みソフトウェア開発者を指しています.

 カリキュラムとしては,2段階に分かれています.第1段階ではC言語やUMLといった言語教育を行います.次の段階では設計手法を学びます.受講者の持つ知識によって差はありますが,約2~3ヵ月でこのカリキュラムは終わります.現在のところ子会社も含めて約1,000人が教育の対象となっています.普及には最低1年はかかるとみています.また,社内だけでなく当社のLSIのユーザにもこの手法を利用してほしいと考えています.

――新しい手法を導入する際に,設計者はどのような考えかたが必要になりますか?

長谷川氏 ソフトウェアの開発現場では「開発プロセス」ということばがよく使われていますが,ハードウェアの世界では開発プロセスよりも各工程内の作業やツールにばかり注目が集まっているのが実情です.システムLSIを設計するうえでは,今後ハードウェア技術者であっても,開発プロセスや設計効率を意識して作業を進めることが重要になってくるでしょう.その手段の一つとしてSystemCやUMLは最適であると考えています.

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