Xilinx,PowerPCと3Gbpトランシーバを内蔵したFPGAを発売 ――ネットワーク・プロセッサと通信用ASICの置き換えを目指す

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 半導体

インタビュー 2002年3月 5日

 米国Xilinx社は,最大4個のPowerPCプロセッサと,622Mbps~3.125Gbpsの伝送速度に対応した最大16個のシリアル・トランシーバ回路を1チップに集積したFPGA「Virtex-II Proファミリ」を発売した.設計ルール0.13μm,配線層数9,全層銅配線のCMOSプロセス技術を利用して製造する(表1).ファウンドリは米国IBM社と台湾UMC(United Microelectronics Corp.).Xilinx社は,PowerPCプロセッサ・コアとオンチップ・バス(CoreConnect)の技術をIBM社との提携によって,シリアル・トランシーバ(Rocket I/O)の技術を米国Conexant Systems社との提携によって獲得している.

[表1] Virtex-II Proファミリの概要

型名 XC2VP2 XC2VP4 XC2VP7 XC2VP20 XC2VP50
論理セル数 3,168 6,768 11,088 20,880 50,832
RocketIOブロック数 4 4 8 8 16
PowerPCコア数 0 1 1 2 4
ブロックRAM容量(Kビット) 216 504 792 1,584 3,888
DCMブロック数 4 4 4 8 8
マルチプレクサ数 16 40 60 112 264
DCM:Digital Clock Management


 ここではザイリンクス(Xilinx社の日本法人)マーケティング本部 本部長である荒井雅氏(写真1)に,Virtex-II Proの開発の経緯や市場,顧客サポートに関する同社の方針について話を聞いた.

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[写真1] ザイリンクス マーケティング本部 本部長の荒井雅氏

――CPUコアを内蔵する今回のFPGAの開発は順調に進んだのか?

荒井氏 比較的すんなりいったと理解している.FPGAの土台はVirtex-II,PowerPCプロセッサ・コアはIBM社のASICライブラリ,高速シリアル・トランシーバはConexant社のMindspeed技術というように市場で実績のある回路だけを1チップに詰め込んだ.成功率は高いだろうと予測し,結果的にうまくいった.機能の確認はすでに完了している.いまは特性やスピードのキャラクタライズを行っている段階だ(写真2)

 開発が始まったのは2年前.そのころ,CPUを組み込むという今回のコンセプトと,Virtex-IIのアーキテクチャが決まっていた.2000年7月にIBM社と提携し,CPUコアとしてPowerPCプロセッサを採用するという大きな決断を行った.さらに2000年10月にトランシーバLSIのメーカである米国RocketChips社を買収した.Xilinx社では,これをさかのぼること2年前(1998年)から,ボード上のチップ間通信がシステム性能向上のボトルネックになると認識していた.しかし,当時,弊社の中には高速伝送技術のわかるエンジニアがいなかった.今回の高速シリアル・トランシーバは,Conexant社のIPコアを利用しながら,RocketChips社出身のエンジニアが開発した.

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[写真2] 2VP4と2VP7のウェハ
IBM社の工場で製造した.プロセスは設計ルール0.13μmのCMOS.配線層数は9.全層銅配線.

――Xilinx社のFPGAに,他社の回路(ハード・マクロ)が組み込まれたのは今回が初めてか?

荒井氏 初めてだ.いろいろなメーカで開発された回路が1チップに集積されるのは,一つの流れ.自社ですべての回路を設計するのは現実的ではない.顧客が求めているのは,FPGAのソリューションではなく,システムのソリューションだ.

――なぜ,複数のPowerPCプロセッサとシリアル・トランシーバを組み込むことにしたのか?

荒井氏 テレコム関連の顧客の要求に対応した.Xilinx社の売上げの70%はテレコム関連.また,大規模で高性能なFPGAを要求しているのもこの市場.例えば,弊社のVirtex-IIは,光通信装置などのアプリケーションで多数利用されている.この市場では,I/O速度が問題となっており,高速な信号を直接FPGAで送受信したいという要求があった.そこで3Gbpsの伝送規格に合ったシリアル・トランシーバ回路を組み込むことになった.さらに,この市場にはPowerPCプロセッサのユーザも多い.

 最初のターゲットとなる顧客は,PowerPCプロセッサとVirtex-IIとConexant社のMindspeedをすべて使っているテレコム企業だ.

――テレコム市場をねらったLSIとして,ネットワーク・プロセッサが製品化されている.Virtex-II Proはネットワーク・プロセッサと競合するのか?

荒井氏 ネットワーク・プロセッサは,スピードが足りなかったり,プログラミングが難しいなど,ユーザが十分に満足する製品がまだ出てきていない.技術的に成熟していない.現実に,ハイエンドのFPGAが多数使われているのはこの用途.CPUを組み込むことによってソフトウェアの柔軟性を獲得したVirtex-II Proが参入する余地は,十分にあると見ている.

――CPUを搭載したFPGAを利用する場合,ハードウェアの開発環境とソフトウェアの開発環境が必要になる.Xilinx社はどのような開発環境を提供していくのか?

荒井氏 ハードウェアとソフトウェアの統合開発環境を提供したい.しかし,今はそこまで至っていない.これまでのFPGAの設計環境とこれまでの組み込みソフトウェアの開発環境,それらの橋渡しをするPowerPC用周辺回路のジェネレータを用意している.組み込みソフトウェアの開発環境としては,GNUベースの無償ツールと,米国WindRiver社からOEM調達した有償ツールの2種類を提供する.後者は,設計の規模に制限をかけるなどして,安価に提供していきたい.また,これとは別に2種類の評価用ボードを用意する(写真3).この評価ボードを使って,ソフトウェアを開発できる.

 当社が提供する開発環境のほんとうのゴールは,大きなシステム機能をC言語などで記述し,トレードオフ評価を行いながら,ハードウェアとソフトウェアに分割してくれるような環境だ.これを提供できるようになるまでには,まだ2~3年かかると見ている.

 システムの自動分割はまだ先の話だが,すぐに設計者に喜んでもらえる機能もある.Virtex-II Proを使うと,ハードウェアのバグをソフトウェアでフィックスするだけでなく,ソフトウェアのバグをハードウェアでフィックスすることができる.これはASICでは,逆立ちしてもできない.テレコムのアプリケーションでは,LSIの開発時,あるいは市場に出荷してからであっても,設計の修正や変更がよく発生する.

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[写真3] 評価用ボード (クリックすると拡大します)
ソケットにVirtex-II Proを接続する.672ピンのソケットを備えるボード(2VP2/4/7用)と1152ピンのソケットを備えるボード(2VP20/50用)の2種類を用意する.

――PowerPC用のミドルウェアやデバイス・ドライバをXilinx社が提供する予定はあるのか?

荒井氏 具体的な話はまだない.当社のIPグループのほうで,順次サポートしていくことになると思う.

――FPGAベンダであるXilinx社に,組み込みソフトウェア開発をサポートすることがほんとうにできるのか?

荒井氏 それが当社の課題の一つだ.販売代理店も含めてわれわれ自身が考えかたを変えなければならない.「FPGA」ベンダから「FPGAプラスCPU」ベンダ,あるいは「高速伝送チップ」ベンダにならないといけない.現在,当社の側のインフラ整備を進めているところだ.

――回路規模が大きくなってきて,FPGA開発の難度が高くなっていないか.CPUが搭載されるようになると,さらに新しい設計の知識やノウハウが必要になるのではないか.

荒井氏 FPGA開発の難度が高くなっているという点については,同感だ.シリコンの進化の度合いは大きい.これに対して,人間のスキルや知識,記憶力などが追随していない.そのギャップを設計ツールが埋めるはずなのだが,ギャップはむしろ開いていく一方だ.「プログラマブル・デバイス」の基本は「万人のための使いやすいデバイス」.なにからなにまでユーザが設計しなくてはならないというのはおかしい.ASICやカスタムLSIとは違った使いやすさを,ハードウェア,ソフトウェア含めて,提供していかなければならない.


ザイリンクスのホームページ
http://www.xilinx.co.jp/

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