お部屋探しとシステムLSI(4) ――夜空の星と詰め込み問題

鮫島 正裕

tag: 半導体

コラム 2002年2月18日

 7~8年ほど前,横須賀のNTT通信研究所に行ったときのことである.昼休みに散歩でもしようと思い,林の中を歩き始めたら,「まむしに注意!」という小さな木の看板が立っていて,すぐに引き返した思い出がある.黄色いブルドーザが隣の山の上で工事を始めたのは,そのころだっただろうか.しばらくすると,そこに新しい道とYRP(横須賀リサーチパーク)ができ上がっていた.

 YRPには移動体通信関係の会社の研究機関が集まっている.しかし,一歩YRPの敷地の外に出ると林が広がっていて,たまにうさぎを見ることもある.まむしはどうしているのだろうか? そもそもなんでまむし? たまに思い出しては不思議に思っていた.地元の人に聞いたところ,戦時中になにかの機密を守るため,人為的にまむしが放されたそうである.そのまむしたちが所帯を持って,子孫が繁栄していたらしい.まむしの話は,最近は聞かなくなってしまった.小さいシマヘビなどはたまに見るそうである.空にはトンビが飛んでいる.トンビにはいろいろ見えているに違いない.

 夜,YRPのバス停でバスを待っていると南側の空に,夏にはさそり座,冬にはオリオン座が良く見える.澄んだ空にオリオン座が高く見えるようになると冬である.さそり座のアンタレス,オリオン座のベテルギウスは,ともに地球から約500光年離れている.500光年ということは500年前に出た光が自分の目にたどり着いているのである.伝播遅延時間500年である.同じことを回路基板上で考えると,送信-受信間に1ns(ナノ秒)の伝播遅延がある場合,受信側の素子は送信側の素子の1ns前の姿を見ているとも言える.基板上の伝播遅延時間の「ns」を「光年」に置き換えてみると,SF的な気分になる.

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 基板上の伝播遅延と伝送路長は同じように考えることが多い.例えば,短縮率が66%のとき,伝送路長の20cmと伝播遅延時間の1nsは頭の中で同じものとして考えている.これは「時間と空間を一体のものとみなす」という相対性理論の基本的な考えかたに通じるのではないかと思う.

 アインシュタインの特殊相対論が発表された後,数学者のヘルマン・ミンコフスキーが,時間と空間を4次元連続体としてとらえる考えかたを提唱した.現在の事象を点として,その点を中心に平面的に空間が広がると考える.さらに4本目の軸で,点の上が未来向き,点の下が過去向きを表している座標系を考える.点が移動すると平面的なイメージの空間内を動き,時間が経過すると上へ移動する.そこで,この点を頂点とした上と下の二つの無限に大きい円すいを考えると,上にある逆さまの円すいが,この点が未来に影響を与えられる範囲で,下にある円すいが,この点に影響を与えられる範囲を表す.いわゆる因果律である.

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 真空中の光の速度c=1/(ε0μ01/2 =299,792,458m/sのcを1とおくと,1s=299,792,458mとなって,時間の単位と長さの単位を同じ物理的な次元で考えることができる.1nsは約30cm,納期3ヵ月は約2兆3千万kmに等しい.このミンコフスキー空間で,時間と空間を幾何学的に扱えるようになった.光速で伝播する空間での円すいの広がり限界角度は45度となる.この円すいにブロックを詰め込むようなイメージを,基板やLSIの合成・配置配線に応用できないだろうか?

 題して「ミンコフスキー配置配線」.

 クロック周期で,n次元空間の円すいの高さが決まり,その円すいの箱の中にいろいろな遅延やインピーダンスを持った部品や配線を表す多角形の積み木を詰めていく詰め込み問題として,配置配線を考える.C言語などをソースとするビヘイビア合成も,計算資源を表すn次元の箱にビヘイビア記述を表す多角形を詰め込んでいくと考えれば,高位から一貫して使える.

 宇宙人がUFOで時空を越えて来る方法が解明されてLSIに応用されたら,円すいの角度が広がって,配置配線は楽になるのだろうか?

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2002年2月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
さめしま・まさひろ.高速ディジタル回路のコンサルティングやEDAツール関係のしごとに従事.

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