燃料電池が巻き起こす社会の変化を予測する ――『マイクロパワー革命――IT革命の次はこれだ!』

大野典宏 

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書評 2001年10月29日

燃料電池が巻き起こす社会の変化を予測する

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柏木孝夫,橋本尚人,金谷年展著
TBSブリタニカ 刊
ISBN:4-484-01206-5
B5判
292ページ
1,600円(税別)
2001年6月



 現在,燃料電池が次世代のジェネレーション(generation:発電)システムとして注目を集めている.そして実際に,自動車産業や住宅産業への応用研究も活発に行われている.

 燃料電池は,「電池」という用語が使われているので誤解を招きやすいが,乾電池やリチウム電池などとは発想が根本的に違う.いわゆる「電池」は,電気の形でエネルギを供給し,化学エネルギとして蓄える.その一方で,燃料電池は水素を「燃料」として供給し,空気中の酸素と化学反応させて電気を作り出す.要するに,燃料電池とは,化学的な原理を採用した「発電装置」にほかならないのである.

 ただし,燃料電池を「発電装置」として見た場合,現状の火力発電や原子力発電よりも電力あたりの単価は高くなってしまう.それにもかかわらず,なぜ燃料電池が注目を集めているのだろうか.その理由としては,以下に示す要因が挙げられる.

 1.エネルギ変換効率が高い
  ――電池と比較して,自動車などへの利用には便利

 2.環境問題への貢献
  ――反応しても水しか発生しないので環境問題が起きない

 3.コジェネレーション(熱電併給)
  ――発電する際に発する熱を積極的に利用できる(暖房,給湯など)

 4.分散型発電の実現
  ――送電の際に生じるエネルギ損失の低減.全体としては大きなメリットになる

 5.生活環境への自然な融合
  ――化学反応であるため,音や振動がなく,都市部や住宅への設営が可能

 さて,本書は,燃料電池,そしてマイクロガスタービンなどに代表される「マイクロパワー技術」の概要と現状,そして分散型発電やコジェネレーションの実現によって経済・環境・社会に与える影響を解説した本である.現在,「エネルギ問題」が早急にして最大の課題として確かに存在している.事の重要性を考えれば,もっと話題になるべきことだと思うが,現実には,あまりにも「騒がれていなさすぎる」という感が強い.だが,確実にエネルギ問題に対する「解答」は準備されつつある.

 近い将来,マイクロパワー技術が実際に稼動し始めれば,社会の在り方や生活環境は確実に変化する.技術者として,そして生活者として,「エネルギ供給」という観点から見た近い未来の社会像を知っておくことは,意味のあることだと考える.


大野典宏
組み込みネット編集部

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