LSI設計とソフト設計,「理想は協調,しかし現実は...」 ――SWESTのパネル・ディスカッションから

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 半導体

レポート 2001年7月31日

 2001年7月24日~25日に,静岡県浜松市で組み込みシステム開発に関する研究会であるSWEST(Summer Workshop on Embedded System Technologies)が開催された.今回は,LSI設計自動化に関する研究会であるDA(Design Automation)シンポジウムと合同で,「システムLSI設計と組み込みソフトウェア設計の協調」というテーマのパネル・ディスカッションが行われた.

 最近,LSIを使って構築される組み込みシステムが,ハードウェア的にもソフトウェア的にも大規模化・複雑化している.加えて,開発期間の短縮に対する要求も強い.このため,組み込みシステムの設計・開発効率や品質を向上させるには,LSI設計技術と組み込みソフトウェア設計技術の協調が必要である,という指摘が増えている.

 今回のパネル・ディスカッションでは,「現在の協調設計は過渡的なものなのではないか.ハードウェアとソフトウェアの切り分けが難しくなり,システム全体を見れる人がいないので,コデザインが必要になってきたのだ」という声があがった.全般を通してみると,LSI設計側は「仕様が決まっているものを,いかに協調して作り上げていくか」,組み込みソフトウェア設計側は「仕様が決まっていないものをいかに協調して設計していくか」と捉えているようで,両者の間には大きな溝があることが明確になった.

 パネル・ディスカッションの司会は,デバイスを中心としたシステム・インテグレータである門田浩氏(NECエレクトロンデバイス)が務めた.パネラとして,組み込み機器開発者の石山康介氏(NEC静岡)と基本OSの研究者である福田晃氏(九州大学)が参加した.このほか三好清司氏(富士通),柴下哲氏(メンター・グラフィックス・ジャパン)がLSI設計の立場から議論に参加した.

●協調設計でハードウェアをファームウェアへ効率的に置き換える

 本パネルでは,富士通の三好氏から,すべてをC言語で記述したADSL(Asymmetric Digital SubscriberLine)用トランシーバLSIの実例が示された.たとえば,ADSLの通信レイヤ1のアプリケーションを実現する場合,主信号系をハードウェア,制御系をファームウェア(ソフトウェア)で設計する方法がとられているという.ハードウェア処理の協調設計を考える場合,全体の処理量を把握することが重要になる.小型化/低消費電力化を求めるなら専用ハードウェア化,設計に自由度をもたせるならファームウェア処理化を検討するという.「コデザインは,ハードウェアをファームウェアへ置き換える作業を効率的に行うためのもの」(三好氏)

●システムLSIの設計フロー

 メンター・グラフィックス・ジャパンの柴下氏によると,システムLSIの開発手順はおよそ次のとおりである.

1) 仕様の記述と検証
2) トレードオフ解析(IP,ミドルウェア,リアルタイムOSの選択)
3) 新規設計部分のファンクションの決定
4) C言語とアセンブラによるソフトウェア部品の作成
5) ビヘイビア合成,ハードウェア(RTLコード,ネットリスト)の作成.

 同氏によると,1)~3)がコデザインの対象になる.一方,いわゆるコベリフィケーション(ハードウェア・ソフトウェア協調検証)は3)~5)の工程で実施される.

 なかでも2)のトレードオフ解析の工程が重要で,性能解析モデル,仕様記述(パフォーマンス・モデル,ファンクションとアーキテクチャの分離,パフォーマンス解析),仕様の動作検証(正しく完全か,ハードウェア/ソフトウェアのトレード・オフ,ハードウェア/ソフトウェアの機能割り当ての解析)を通して解析が進められるという.「コデザインの三つの工程では,ハードウェア・エンジニアとソフトウェア・エンジニアがいっしょに作業を行うべきである.ここで,どの部分をハードウェアで実現するか,またはソフトウェアで実現するかを考えないといけない」(柴下氏).

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システムLSIの設計手順とコデザインの対象を示した柴下氏

●協調設計に求められるもの

 現実の制約から,ハードウェアが与えられてからソフトウェアを作るのではなく,ハードウェアを作りながらソフトウェアを作ることが求められている.NEC静岡の石山氏によると,「アイデアを出す段階でコストや人材,納期などの評価が行えるようにしたい」という要求がある.

 LSI設計の世界では,C言語ライクな言語(たとえばSystemCやSpecCなど)を入力として設計しようという気運が盛り上がっている.一方,ソフトウェア設計の世界では,C記述は設計結果であり仕様ではない.実装の主要部分は終了しており,残された選択の余地はささいな部分だけになってしまう.石川氏は,「仕様に基づいた協調検討が求められている.当分,仕様記述はできないと思う」と述べた上で,以下のような事がらが必要になると主張した.

1) ハードウェア側とソフトウェア側の相互理解
2) ハードウェアとソフトウェアの両方を見れるシステム・アーキテクトの育成
3) 協調検討の機会を設ける
4) 研究者間,実務者間,および研究者と実務者間の相互交流

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ソフトウェア/組み込み装置開発者の視点から意見を述べる石山氏

●大学は組み込みシステムに対する意識改革が必要

 大学では,組み込みシステムの研究者が不足しているという.依然として「組み込みシステム分野の研究は,(大学ではなく)メーカがやること」といった意識が根強いようだ.

 組み込みシステム分野の研究課題としては,開発効率と実行速度のトレード・オフ,保護/セキュリティ,デバイスとのインターフェース,省電力といった技術への取り組みが考えられる.「今後のシステムLSIの協調設計では,OSを取り込んだシステム設計技術と方法論を確立しなければならない」(九州大学の福田氏).福田氏は,従来のハードウェア,基本ソフトウェア,アプリケーション・ソフトウェアという水平方向の分担を見直し,垂直方向の分業化で協調設計を実現できるのではないかと述べた.

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垂直方向の分業化で協調設計を実現できないかと語る福田氏


組み込みネット編集部 猪之鼻 博隆

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