プロセッサ最新テクノロジ2015 シリーズ4

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2015年10月22日

最新・最速のCortex-M7をいち早く実現

STM32F7シリーズDiscovery Kit

  STマイクロエレクトロニクス(以下ST)は,ARM Cortex-Mプロセッサ搭載マイクロコントローラ(マイコン)の製品化を積極的に進めてきたメーカとして知られている.2005年にARM社で最初のマイコン用プロセッサとしてCortex-M3が発表されると,STではいち早くCortex-M3を採用したSTM32F1シリーズを発売している.以来,Cortex-M0,Cortex-M4など新しいコアが登場するごとに,STM32ファミリのラインナップを拡充してきた.
 2014年にARM社から発表された最新・最速のCortex-M7についても,他社に先駆けてSTM32F7シリーズを発売した.今回は,STM32F7シリーズとDiscovery Kitについて紹介しよう.



 



 

マネージャー 菅井 賢 氏
STマイクロエレクトロニクス株式会社
マイクロコントローラ製品部
石川 義章 氏
STマイクロエレクトロニクス株式会社
マイクロコントローラ製品部

 

1.ARM Cortex-Mの発展経緯とCortex-M7

  ARM社は,もともと英国のコンピュータ・メーカであるAcorn Computers Limitedが自社のパソコン用に開発したコンパクトなRISCプロセッサだ.32ビット・プロセッサとしてはトランジスタ数がきわめて少なく,低消費 電力だったことから,携帯電話やスマートホン,タブレットなど携帯機器向けプロセッサの業界標準アーキテクチャとなった.2006年にアプリケーションプ ロセッサ向け,リアルタイム処理向けのCortex-R,マイクロコントローラ向けのCortex-Mの3つのシリーズに分かれ,以後はそれぞれに発展を 続けている.
 Cortex-Mについては,高性能マイコンのCortex-M3とCortex-M4,低コスト/低消費電力マイコンの Cortex-M0とCortex-M0+という2つの方向で発展してきたが,2014年に最新の超高性能マイコンとしてCortex-M7が発表され た.
 Cortex-M7とCortex-M3/M4は命令セット上位互換であり,32ビット・コードの高性能と16ビット・コードの小サイズを 両立したThumb-2命令を採用している.Cortex-M4はCortex-M3にDSP機能やFPU機能を拡張したもので,整数演算ベンチマークで は,ともに1.25DMIPS/MHzの性能指標をもつ.Cortex-M7はCPUコア自体が大きく改良され,2.14DMIPS/MHzに高速化され ている
 Cortex-M7では,Cortex-Mシリーズでは初めてスーパースカラを採用し,パイプラインもCortex-M3/M4の3段から6段に拡張された.
  また,Cortex-M3/M4では内蔵フラッシュメモリの読出しアクセスが低速なことがシステム性能のボトルネックとなっていた.Cortex-M7で は,Cortex-Mシリーズでは初めてキャッシュと密結合メモリ(TCM)に対応して,メモリ・アクセスの高速化をはかっている.命令/データを分離し たハーバード・アーキテクチャの採用により,キャッシュ,密結合メモリともに命令用,データ用が別個に搭載されている.
 さらに,メモリ⇔CPU間,メモリ⇔メモリ間,メモリ⇔周辺機能の転送にボトルネックが生じるのを防ぐため,AXI,AHBなど内部インターコネクトも大幅に強化された.

 

2.STM32ファミリの展開とSTM32F7

  STでは,2007年にCortex-M3を搭載したSTM32F1シリーズを発売して以来,Cortex-Mシリーズを搭載したマイコン製品を次々に発売してきた.
 同じCortex-M3コアを使った超低消費電力版のSTM
32L1シリーズ,メインストリーム版のSTM32F1シリーズ,高性能版のSTM32F2シリーズなど,ユーザの必要とするマイコンをきめ細かく選択できるのが特長と言える.一方で,民生用や産業用のように用途でラインナップを細かく分けることはせず,スペックが合ったものを選べば,どんなユーザ,どんな用途にも使いやすいマイコンが得られる.そして,今回最新・最速の超高性能版として登場したのがSTM32F7シリーズ(図1)


図1 STM32F7詳細ブロック図


 STM32F7は,Cortex-M7をいち早く製品化しただけでなく,クロック周波数216MHzの高速動作と,充実した周辺機能,使いやすさ,低消費電力を兼ね備えている.そこには,ST独自の高性能化技術が随所に見られる.特に,メモリ⇔CPU間の転送の高速化に関しては,同社の技術と経験をフルに活用しているという.
 たとえば,フラッシュメモリをゼロ・ウェイトでアクセスするARTアクセラレータの技術がある.これは,256ビット幅のプリフェッチ・バッファ(256ビット×2段),統一キャッシュ(256ビット×64段)から構成されるもので,フラッシュメモリから256ビット(Thumb-2の16ビット命令なら16命令)を一括して読み出し,CPUに直結した密結合メモリバスに効率良く転送する.
 単なるプリフェッチ・バッファを採用しているメーカは多いが,分岐命令や割り込みの際にはプリフェッチが無効になって大きなウェイトが発生する.ARTアクセラレータでは分岐命令や割り込みなどの際にはキャッシュが働いて,ゼロ・ウェイトでフラッシュメモリを高速アクセスできる(図2).消費電力の大きいフラッシュメモリのアクセス頻度を最小にできるので,システムの低消費電力化の効果も大きいという.
 さらに,このARTアクセラレータと密結合メモリによるフラッシュメモリのアクセスの他に,AXIとCPU内蔵キャッシュを経由してフラッシュメモリを高速アクセスすることもできる.特定の使用法のときだけ高性能なのではなく,ユーザがどのような使い方をしても高性能が得られるように考えた結果だという.
 さらに,STM32ファミリのハイエンド・シリーズであるSTM32F7はきわめて豊富な周辺機能を搭載しており,STM32F7のために新開発したペリフェラルも多い.それらは,AHBバス・マトリクスで効率良く接続されている.


図2 ゼロ・ウェイト・フラッシュ アクセスのメカニズム

 

3.STM32F7 Discovery Kitとその他の開発環境


 ARMプロセッサ搭載マイコンを気軽に試せるように,STでは低価格評価用ボードのDiscovery Kitや無償開発ツールなどを積極的に提供してきた.このSTM32F7でもDiscovery Kitを発売しており,好評だという.特に,Discovery Kitとして初めてmbedに対応したことにより,誰でも簡単にSTM32F7の高性能を体感できる.
 さらに,すべてのSTM32ファミリに展開している便利なツールとしてSTM32 Cu
beがある.これは,GUIの画面上で使いたいペリフェラルを選択すれば,必要なコンフィギュレーション用コードを自動生成してくれる.STM32F7のように,新しいペリフェラルを豊富に搭載したマイコンを使うには,特にありがたいツールだろう.
 これまでCortex-M3/M4では性能が不足だがCortex-Aではシステムが大きくなりすぎると悩んでいたユーザや,Cortex-M3/
M4にASIC,ASSPなどのハードウェア・チップを組み合わせてシステム化していたユーザには,このSTM32F7をぜひ試してみて欲しい.

 ------------ 第4話 終了 ------------

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