15分で理解 EV関連のワイヤレス給電をザックリおさらい

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技術解説 2015年4月14日

● ESEC&IoT/M2M展示会プレビュー企画 巻頭記事

 5月13日~15日までの3日間「組込みシステム開発技術展(ESEC)」が,パシフィコ横浜で開催されます(主催: リード エグジビション ジャパン 株式会社).この期間は,Japan IT WeekとしてIoT/M2M展をはじめ,12もの多彩な展示会が開催されます.
ここでは,展示会に先立ち,これから組み込み分野でも期待されるワイヤレス給電の概要を簡単におさらいいたします.

ワイヤレス給電のひろがり 


ここ数年の間に急速にワイヤレス給電が話題になってきました. 2007年にMIT(マサチューセッツ工科大学)が提唱した方式がきっかけになりました.それは,2つのコイルを共振させ電送効率と電送距離を向上させた磁界共鳴方式でした(図1).


図1 MIT磁界共鳴方式


また環境とエネルギ対応などでEV(電気自動車)への親和性からワイヤレス給電の研究開発が大学や企業により加速され,充電方法と共に実用化に向けて研究発表が相次ぎました.

 

 

ワイヤレス給電の進化

 
ワイヤレス給電の初期を第一世代とすれば,小電力の電動歯ブラシ,電気シェーバ,コードレス電話などの充電器が製品化されました.現在を第2世代として,小電力〜中電力であるスマートホンなど移動体用や,電動工具,ノートPC,掃除ロボットなど家電機器用EV用などの充電器が実用化されています.その背景には,結合部分の回路方式の研究もさることながら,キー・パーツである磁性材料,半導体部品の高周波低損失化,制御方式や2次電池などの技術進歩が無視できません.次世代である第3世代としては,発電所レベルのマイクロ波による大電力のワイヤレス給電方式が研究レベルで発表されています.また洋上風力発電の送電や潮流発電とのハイブリッド発電の送電や宇宙太陽光太陽光発電などが考えられています.図2に第3世代の構想を示します.


図2 洋上風力と太陽光のハイブリットをマイクロ波に変換して送電

 

ワイヤレス給電のひろがり


現在実用化されているワイヤレス給電は,ほとんどが電磁誘導方式です.これはコイルを通過する磁束に変化を与えると起電力が発生するファラデーの法則が原理となっています.図3に示すように,2つのコイルを十分に近づけ,給電側に交流電流を流し,コイルの中に磁束を生じさせ,結合した受電側のコイルに電流を誘導する方式です.


図3 電磁誘導方式の原理モデル


その他の方式として,結合部分(送電側と受電側の間の部分)の距離を大きく取れる磁界共鳴式(共振)方式や,結合部分の軸ズレ,回転,滑りにも対応できる電界共鳴(共振)方式があり,実用試験の段階にあります.図4に電界共鳴の例を示します.電磁誘導に比べシンプルで,原理的にEMC放射ノイズも少ないと言われています.


図4 電界共鳴は結合部分がズレたり回転しても送電できる


各方式別にその仕組みと特徴を表1(a)(b)にまとめました.用途に合わせ選択する時代がくるでしょう.

表1 (a)ワイヤレス給電の方式

方 式 電磁誘導方式(電磁結合) 電波受信方式(マイクロ波) 共鳴方式[磁界共鳴方式,電界共鳴(電界結合)方式]
仕組み コイルの間の磁束の強さの変化によって生じる起電力を利用 電波あるいはマイクロ波に変換し整流回路で直流に変換して利 (イ)磁界のLC共振を利用するタイプ
(ロ)電界を誘電体により利用するタイプ
出力 数W〜数百KW 数mW〜GW 数W〜数KW
電送距離 数mm〜10cm 数m〜 数万キロ 数m〜(周波数に依存)
周波数 数十kHz〜100kHz 2.4GHz・5.8GHz

数MHz

 

利点 安定した電力電送が可能であるが,電送距離が短くコイル間との位置ずれが効率を大きく下げる 一般的に送電効率が低いが、大電力を長距離に伝送することも可能(宇宙太陽光発電)だが,規模が大きい  


表1 (b)共鳴方式の仕組み
(イ)磁界のLC共振を利用するタイプ    (ロ)電界を誘電体により利用するタイプ

 

モバイル機器の標準化の動き

 
ワイヤレス給電の普及に向けて製品規格の標準化がいろいろな標準化団体で検討されています.
まずスマホ(小電力5W以下)を対象に,WPCQi(チー)規格を2008年に策定し先行しました.しかし競合団体としてPMAがPowermat規格を2012年3月に,A4WPがRezence規格を2012年5月に策定されました.そしてその後は,5W以上のモバイル機器が増えてきたため,50W以下を基準にラップトップ,タブレットなどをターゲットに標準化が進められています.モバイル機器の主要なアライアンスを表2に示します.

表2 主要なモバイル機器のアライアンス

名 称 WPC(2008年)
Wireless Power Consortium
PMA(2012年)
Power Matters Alliance
A4WP(2012年)
Alliance for Wireless Power
規格名称 Qi(チー) Powermat Rezence(レゼンス)
方 式 電磁誘導 電磁誘導 磁界共鳴
主 要
メンバ
TI,パナソニック,約200社 P&G,Powermat,約80社 Qualcomm,Samsung,約100社
備 考 携帯電話,スマートフォン,ノートPC,各種携帯機器,デジカメ,照明機器,壁掛TV,掃除機,スピーカ,ヘッドホンなどの家庭内の小中電力機器


また日本ではBWFが,50W以下のモバイル機器と50W以上の電子機器で区分して,さらに数KW の大電力(EV)も含めて,標準化が進められています.
海外でも同様に標準化と制度化への動きが活発になっています.家電機器向けは,米国はCEAのR6.3Wire-
less Power Subcommittee規格にてQi規格はCEA-2042.5aに組み込まれて検討されています.またIECのTC100(Audio,Video and Multimedia systems)規格の中に,ワイヤレス給電の標準規格プロジェクトが設立されました.韓国もTTAのPG709規格にてモバイル端末(5W・30W・120W)への標準化が進められています.
これらは標準化の戦国時代の感がありますが連携関係にもあります.今後の動向に注目です.

 

車のワイヤレス給電には
安全規格との協調も必要

  
電気自動車のワイヤレス給電の標準化は,2010年より米国自動車技術界SAEの中にJ2954(非接触給電標準化タスクフォース)が設立され,電力給電以外の制御通信なども含めて議論されています.電力給電装置(充電スタンド)安全性として,ULはSAEのJ2954規格と連携して,安全規格(UL2750)を策定してインフラ側と車両側の責任を分担しました(図5).


図5 SAEとULの標準化分担


また欧州では,IECのTC69(電気自動車)規格とISOのTC22規格においては,一般要求案件IEC
61980-1に加えIEC61980シリーズとして,安全規格との協調を検討し始めました.このようにワイヤレス給電技術に限らず,関連規格を含めて急速に検討が進められています.

 

将来のワイヤレス給電技術

  
大学,研究機関,メーカから発表される研究成果も注目です.最近では東京大学にてマイクロ波やレーザー方式により数メータの電力伝送に成功し,三菱重工業が実証試験にて10KWの電力をマイクロ波に変換し500メートル先に届けることが実現しました.
他にも自動車が走行中でも,路面から給電できる電界結合方式のカートを豊橋技術科学大学が発表しています(図6).


図6 路面給電カートのしくみ(豊橋技術科学大学

 また車上電源装置(電車の車両に搭載する電源装置)をリニア車両に集電コイルを搭載し地上に設置したコイルとの電磁誘導作用にて電力を供給することも研究されています.
利便性が期待されるワイヤレス給電ですが課題もあり,電送効率の向上,周波数妨害対策,電磁波による人体の安全性などが挙げられます.
より良い人類の環境改善と利便性に向けて,日本の技術力が世界に発揮されることを祈ります.

最後に,電磁誘導,磁界共鳴,電界共鳴の原理をわかりやすく学べる「ワイヤレス電力給電実験キット」がCQ出版社から販売されています.またグリーン・エレクトロニクス誌の最新号(No.17)「1m先を狙え!共鳴式ワイヤレス電力送電の実験」(CQ出版)も参考になると思います.

 

以上


 


関連企画団体
WPC……Wireless Power Consortium
PMA……Power Matters Alliance
BWF……Broadband Wireless Forum
CEA……米国家電協会
IEC……国際電気標準会議
TTA……Tele-communications Technology Association
SAE……Society of Automotive Engineers
UL……Underwriters Laboratories Inc. アメリカ保険業者安全試験所
IEC……国際電気標準化会議
ISO……国際標準化機構

 


電磁誘導,磁界共鳴,電界共鳴の原理と方式の違いが理解できるワイヤレス電力給電実験キット
ケース付 8,845円



グリーン・エレクトロニクス No.17
2,592円


執筆
はやし・しげあき

パワーアシストテクノロジー株式会社
代表取締役 林  重明


 

 

 

 

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