この夏,チャレンジ!中学生でも開発可能なM2Mシステム Part1 ―― 3G通信モジュールとArduinoを使ってなに作る?

高本 孝頼

Tech Villageでは,8月23日(金)応募締め切りの「3Gシールド・アイデア・コンテスト」と9月7日(土)開催の「3Gシールド・カンファレンス」に企画・運営で参加している.そこで,今回のコンテストとカンファレンスの中心となる「Arduino」と「3Gシールド」について3回シリーズで解説する.中学生もわずか1日足らずの実習で3G通信を活用した広域無線機器の開発がスタートできるらしい.この夏,3G通信モジュールとArduinoを使って何か開発してみては・・・(Tech Village編集部)

●電気・電子の知識が無い人でも,短期間で使えるArduino

 

 オープン・ソース・ハードウェアのArduino(写真1)は,今や世界的なブームとなり,試作やホビーなどに利用されるマイコン・ボードとなってきました.電気・電子の専門外の人たちもマイコンの知識がなくても簡単に使えることが,大きな広がりの要因です.しかも価格が安価でありWeb上ですぐに購入できます.

 また,世界中の多くのユーザによって,ユーザ事例や技術情報がWeb上に公開されています.その情報の中には,価値のあるものも数多くあり,この情報を活用すれば,電気・電子の知識が無い人たちでも,短期間で使えるようになります.

 このArduinoを使うことで,センサやアクチュエータ(駆動するモータ類)などが簡単に制御でき,高度なモノづくりの環境が簡単に手に入ることになります.すでに,このArduinoを使って,ロボットや3Dプリンタまで開発・販売している人たちも出てきましたまた,大手企業などの技術者も使いはじめていて,新製品の試作・プロトタイプ開発では,協力会社へ依頼する仕様を作成する前に,自ら簡単に安価に作れるメリットが理解されつつあります.

 

写真1.Arduino UNO R3

●広域無線の製品開発が,誰でも簡単に低価格で実現できる3Gシールド

 

 つぎに,Arduino上の拡張ボードとして3Gシールド(写真2)を紹介しましょう.3Gシールドの「シールド」は,Arduinoの拡張ボードのことを意味します.すでにArduino上で稼働する多くの拡張ボードが販売されていて,3Gシールドはそのうちの一つとなります.

 この3Gシールドは,3G通信機能を持ち合わせたもので,携帯電話の通話エリアと同じ領域で使える広域無線(ワイヤレス)機器となります.しかもインターネットと簡単に接続できるので,これまで通信キャリアや大手企業しか手掛けることができなかった,3G通信機能を活用した広域無線の製品開発が,誰でも簡単に低価格で実現できると期待されています.


 これまでにも3G通信機器は,いくつかメーカで開発・販売されてきています.しかしほとんどが,通信機器メーカ独自の仕様であったり,技術がクローズされていたり,毎月の通信費が膨大だったりして,利用者の選択の自由は無いところでありました.

 

写真2.Arduino+3Gシールド(アンテナおよびSIMカードなしの状態)

 

●通信プロトコルの難しいATコマンドを理解する必要がない

 

 この3Gシールドは,Arduinoと同様にオープン・ソース・ハードウェアの概念を取り入れ,これまでの通信機器よりはるかに技術のハードルを下げたものとなっています.それは従来の多くの通信機器がATコマンドという専用の通信プロトコルでの開発となるため,利用する技術者はこの難しいATコマンドを理解する必要がありました.一方,3Gシールドは,インターネット接続の簡単な関数「httpGET」と「httpPOST」の二つを使うだけで,Webアプリケーションとの連携,メール送信,ツイッタ連携,それにクラウド連携までができるようになっています.このような簡単な関数があるために,中学生でも3Gシールドを使って,わずか1日足らずの実習で,メール送信やクラウドへのデータアップができるようにもなっています.すでに東京都内の中高一貫校の特別授業にて実績があります.

 通信料に関しては,インターネットとの接続用のSIMカードは,自由に安価なものが選択できます.これまで3G通信機器を使う上では,月額通信費が高いイメージがありました.ところが,昨年春ごろから,月々500円以下のSIMカードが販売されるようになり,この3G通信機器の利用価値が見直しされるようになってきました.さらに,Arduino側の資産とインターネット上のアプリケーションとを組み合わせることで,3Gシールドの可能性は,さまざまな分野で広がっていくと考えています.(図1

 

図1.Arduino+3Gシールドの可能性

 

 特に,M2M(Machine to Machine)ビジネスでは,大きな期待が寄せられているところで,環境・エコ分野をはじめとして,エネルギー,農業・漁業,医療・介護,防犯・防災,建設・保全,観光・娯楽など,さまざまな分野での期待が高まっています.

 

●さまざまな分野で広がる3G通信の開発事例

 

 3Gシールドは,昨年2012年10月から販売を開始しました.まだまだ知名度は低いのですが,3Gシールドを使った事例は,少しずつ出てきています.これまでに試作されてきたり,商品化されてきたりした事例を紹介します.ここでの事例は,M2Mビジネスの中のもので,ニッチなマーケットですが,確実に広がるものと各分野での専門家の方々から期待が寄せられています.

1.農業用観測システム


 この3月ごろ,植物工場用の監視システムとして,温度や湿度センサ,それに光センサを使い,しかも赤外線カメラも内蔵し,安定した室内の植物工場で使うための機器として開発されました.それ以来,某植物工場内で2機が稼働していて,常時センサ値やカメラ画像をクラウドにアップし続けています.もちろんスマートフォンやタブレットPCでもその状態が分かるもので,今後はさらにこの機器の増産を計画しています.

 さらに,この植物工場用の監視システムが今度は,某国立大学農学部のビニール・ハウス用の環境モニタリング・システムへとバージョン・アップして開発運用されるようになりました.こちらもこの6月から,数台が稼働しはじめています.野外のビニール・ハウスでの環境ということで,自然な環境の中での利用ということでは,いろいろと実用に向けた改良も行われてきています.当初は照度が光センサの持つ値以上に明るかったり,湿度もすぐに100%になったりと,予想以上の環境であったため,改善を重ねて現在は,試験運用となっています.

 この二つの事例において,3Gシールドが採用された理由は,安価に試作品ができる,改善・改良が容易である,さらに毎月の使用料がクラウド利用も含め安価であることでした.
 
 現在,スマート・アグリなどで農業用のIT化が進められています.しかし,多くの農業を専門とする人たちからすれば,スマート・アグリは高価で,技術的に難しく,一般の農家で使えないとの意見があります.この点も3Gシールドを使ったシステムでは,安価で,簡単に設置できる点は,一般農家でもIT化の導入が計れるとの意見も出てきています.

 

写真3.農業用観測システムの外観


 

 

2.電力見える化(HEMS)システム

 東京大学は,東京電力利用の中でも消費電力が最も大きい顧客の一つです.そこで,現在省エネ対策が多く行われています.そのような中,標準プロトコルIEEE1888を使った電力の見える化システムを試作し,クラウドを通じて集積したデータを広くモニタリングできるようにしています(写真4).以前は,LANやZigBeeなどを使ったシステムの開発を行ってきましたが,新たに3Gシールドを使ったバージョンを追加しました.LANやZigBeeだと,学内LANによってクラウドと接続することで,セキュリティ上の問題があり,実際の利用において認可が下りなかったと聞いています.3Gシールドを使ったものだと,敷設が簡単で,すぐに設定ができ,LANケーブルの配線が不要となり,保守も簡単になるメリットが出てきています.今後もIEEE1888を通じた普及展開をはかる予定です.このように3Gシールドを使った事例は,今後,エコ環境やエネルギー分野での期待も高まっています.

 

写真4.IEEE1888を使った電力の見える化システム


 

 

3.独居高齢者見守りシステム

 次に紹介する事例は,最近増えている一人暮らしの高齢者の見守りシステム(写真5)です.遠隔地から居室内にいる独居高齢者の動きを観測し,クラウド上でその動きをモニタリングができたり,緊急メールなどを送ったりするものです.当初この開発を行っていた企業は,スマートフォンを使って試作を行っていました.しかし,思うように開発が進まず,3Gシールドの開発の容易さが認められ,スマートフォンから切り替えて試作を始めました.最初の切り替えでの技術調査に1か月ほどかかると思われていました.しかし,わずか1日でできたことに開発者が驚きを示していました.

 

写真5.3Gシールドを使った独居高齢者見守りシステム試作品

 

 

 1日でできた要因は,Arduino上での各種センサと,インターネット上のクラウドを,3Gシールドで簡単に連携できることに気付いたことによります.わずか「httpGET」と「httpPOST」のみの関数で,インターネットとの連携ができることに驚かされたようです.つまりATコマンドを使った難しいプロトコルなどが一切無いことが,調査の時間を不要にしたものと思われます.

 現在,3Gシールドがある親機1個と,ローカルエリアの無線機にセンサ類を搭載した子機数台を組み合わせ,住宅内にいる年寄の動きがクラウド上に即座に蓄積され,それを遠隔のPCやスマホ,タブレットなどで見れるものとして開発しています.

 Part2では,Arduinoと3Gシールドに関する技術情報を解説します.

 

たかもと・たかより
NPO法人3Gシールドアライアンス 代表理事
 

●参考URL
(1) 3Gシールドアライアンス;NPO法人3Gシールドアライアンスのwebサイト 
(2) 3Gシールドアライアンス;3Gシールド技術情報および保守のwebサイト 
(3) 3Gシールドアライアンス;Facebookでの最新情報紹介 
(4) 3Gシールドアライアンス;「3Gシールド」アイデア・コンテスト&カンファレンス


 

 

 

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