自動化し,空いた時間で設計改善 ―― モデリング手法やプロダクト・ライン開発などを社内展開している島 敏博氏に聞く

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2013年1月29日

品質保証部としてではなく,設計部の一員として,ソフトウェア開発の改善活動を進めている人物がいる.セイコーエプソン 商業プリンター事業部 商業プリンター企画設計部の島 敏博氏である(写真1).島氏は,社内の事業所を渡り歩きながら,それぞれの製品開発を改善しているほか,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)などの講師も務めている.同氏に,活動の概要と現在に至る経緯,改善活動に取り組む動機などについて伺った.

写真1 セイコーエプソン 商業プリンター事業部 商業プリンター企画設計部の島 敏博氏

 

  

●チームを渡り歩いて内側から品質改善

―― ふだん,どのような業務を行っていますか.

島氏:組み込み製品向けソフトウェアを開発しています.各事業所や部署を渡り歩いて,設計の改善活動も行っていますが,品質保証部としてではなく,あくまでも設計部の一員として開発しながら改善を進めています.

 改善活動を行っている現場がうまく回りだすと,自分がいなくてもよい状態になり,だんだんつまらなくなってくるので,「ほかに問題を抱えていそうな部署はないか」とソフトウェア統括部のトップに相談して,異動します.だいたい3年おきぐらいで異動していますね.

―― 設計部の中に入って,内側から活動しているところにポイントがありそうですね.

島氏:はい.外からでは「何かあったら相談して」と言うくらいしかできず,結局,何も変えられません.口を出してもうるさがられるだけです.それよりも,チームの一人としてモジュールの一つでも担当し,小さな範囲でよいので新しいやり方を試してみて,「こういうふうに作ればうまくいくよね」と示すのが有効です.

―― 改善の取り組みとは,具体的にどのようなことをやっているのでしょう.

島氏:現場によってさまざまです.設計のモデリングやオブジェクト指向の導入であることもありますし,モデリングよりも,ソース・コードのリファクタリングなどが必要な現場もあります.決まったやり方を押しつけるのではなく,現場に合ったやり方を見つけていきます.

 モデリングの例でいうと,まず,モデリングを体験してみる機会を作り,モデリングによって設計を改善できるのであれば導入すればよいし,そうでないならほかのことを実践してみる.そういう形で改善活動を進めていきます.なお,開発対象に近い構造のものをモデリングするのがポイントです(写真2).りんごやみかんなどを例題としてクラス図を作ってみても,業務に使えるかどうかは分かりませんから.

 

写真2 モデリング・セミナの解答例(2013年1月15日に実施されたSESSAMEのセミナ「仕事に役立つやさしいモデリング ~ベテランにレビューしてもらお~」の講演資料より)
このセミナでは,演習として,信号機(信号の制御)や図書館の蔵書管理,CDラジオなどをモデリングした.

 

 

●まずしごとを楽にして時間を作る

―― 忙しい現場では,改善に時間を使う余裕がないのではないでしょうか?

島氏:なので,私が現場に入ってまず行うのは,しごとを楽にしてあげることです.その現場で行っている作業やプロセスを,PFD(Process Flow Diagram)にまとめて明らかにします.そして,手作業や手入力のうちツールで自動化できる部分は自動化して,設計者の時間を作ります.現場は忙しい人ばかりなので,PFDを現場に書いてもらうのではなく,PFDを書ける人を連れていきます.

 そして設計者に空いている時間ができてから,それを設計改善の取り組みにあてます.取り組みの内容はさまざまですが,例えば,コンパイラが指摘したワーニング(警告)や静的解析ツールの指摘がなくなるようにコードを修正するところから始めてもよいでしょう.

 また,メトリクスを壁に貼ると効果的です.メトリクスは一つか二つで十分です.ツールの指摘数の推移のグラフを壁に貼り出すと,気づく人は自分から気を付けるようになるので,数値が良くなっていきます.数値が良くなったら,経路複雑度や,ソース・コード行数とテスト・コード行数の比率など,貼り出すメトリクスを変えていきます.

 一昨年前から,毎日,昼休みの30分を使って,部署内の勉強会を行っています.テーマは特に定めず,ソフトウェアにまつわることを広く浅く知る機会としています.職場の中でやっていますが,ほかの部署の人が来てもよいことにしていて,毎回7,8名から20名くらいで集まって勉強しています.

 題材は,Web上に転がっているものや,自分が受講したセミナの内容,セミナの講師仲間から融通してもらった発表資料などを使っており,資料作りにかけている時間はゼロです.教訓が得られるバグなども題材にします.この間は,Web上で公開されている「ぷろぐらみんぐおさんぽまっぷ」という資料を題材にしました.題材にできるネタは,いくらでもあります.

―― 近年注目を集めている関数型プログラミング言語,Haskellの勉強会も行っているそうですね.

島氏:はい.それは部署とはまったく別でして,社内でHaskellに興味がある人が2週間に1回集まって,勉強しています.もともと,社外のHaskellの勉強会に参加していて,おもしろいから社内でもやりたいと思っていたら,やはりHaskellに興味のある人がもう1人いたので,「2人いれば輪講(本を交互に読んで発表する講義)ができるね」と言って勉強会を始めました.社内のブログで告知したところ,10名くらいが集まって,勉強しています.

―― 集まった方々は,業務で使うためにHaskellを勉強しているのですか?

島氏:個人的な興味で集まっている人が多いですね.中には,業務に使っている人もいます.私も,業務のツールとして,仕様書からソース・コードを自動生成するrubyのプログラムを使っているのですが,それをHaskellに置き換えられないかと考えて,Haskellを勉強しています.

 

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