測定結果を「コピー・アンド・ペースト」したい! ―― 設計現場の不満から生まれたCleverscope社のディジタル・オシロ

Tech Village編集部

《ECN(Engineering Company Networks)インタビュー》

電子機器の開発では,信号波形を表示するディジタル・オシロスコープがよく使われている.最近ではホスト・パソコンに接続して使用する機種や,多彩な機能を備えた機種が比較的容易に手に入るようになってきた.ここでは,ユニークな高機能ディジタル・オシロスコープを製品化しているニュージーランドCleverscope社の代表で,創業者 兼 技術責任者のBart Schroder氏(写真1)に,同社を設立してディジタル・オシロスコープを開発するに至った経緯と,同社の製品の特徴について聞いた.(Tech Village編集部)

 

写真1 Cleverscope社 代表 創業者 兼 技術責任者のBart Schroder氏

 

 

―― Cleverscope社はどのような企業ですか?

Schroder氏 当社は測定装置の設計・製造会社です.2004年に創業しました.本社はニュージーランドのAucklandにあります.パソコンに接続して使用するディジタル・オシロスコープを製品化しています(写真2).

 

写真2 Cleverscope社のディジタル・オシロスコープ「CS328A

 

 

―― なぜ,測定装置の事業を始めようと考えたのでしょう?

Schroder氏 測定結果を簡単に「コピー・アンド・ペースト」してドキュメント化できるオシロスコープを開発したいと考えて起業しました.当社はこのような問題に対処でき,使いやすく,目的に合った測定装置の開発に注力しています.

 以前,勤めていた会社では光通信装置やワイヤレス通信装置を設計していました.その会社で,品質管理規格のISO 9000に対応するため,すべての実験データをデジカメで撮影し,ドキュメントを作成していました.デジカメのデータをパソコンに取り込んでドキュメントに貼り付けるのに,数分かかります.毎回,撮影するのがたいへんで,「良いデータがとれたのに撮影し忘れた」というようなこともありました.

 このような手間を減らしてくれる測定装置が欲しいと思いました.当時はまだ,パソコンに接続して使うディジタル・オシロスコープがそれほど普及していなかったので,自分の手で開発することにしました(写真3).

 

写真3 Bart Schroder氏の仕事場

 

 当社のディジタル・オシロスコープを使えば,測定結果のコピー・アンド・ペーストはほんの5秒で済みます.測定結果を画像データとしてパソコンに保存したり,ドキュメントをそのままメールで送ったりできます.また,測定結果の生データを保存することも可能なので,いつでも測定したときの状況を再現できます.

 

―― ディジタル・オシロスコープを開発するにあたって,どのような点にこだわりましたか?

Schroder氏 以前の会社では,60人の部下がいました.大手メーカのディジタル・オロスコープを一人1台使っていたのですが,2500サンプルしか記録できないローエンドの機種でした.メモリ深度の深いディジタル・オシロスコープは当時,15,000ドル以上と高かったので,4~5台買うのがやっとでした.

 そこで,安価で,かつメモリ深度が深いディジタル・オシロスコープを開発しようと思いました.最初に開発した機種は4Mサンプルで,現行機種は8Mサンプルです.さらに,1Gサンプルの機種を開発中です.

 

―― Cleverscope社のディジタル・オシロスコープの特徴を教えてください

Schroder氏 技術的な特徴としては,高分解能,深いメモリ深度,信号発生器の機能,スペクトラム解析などのソフトウェア,高度な数値演算機能,MatlabやExcelとのリンク機能などがあります(図1図2).

 

図1 MatlabとCS328Aの連携(http://www.youtube.com/watch?v=V1ZMLaNtBL8

 

 

図2 ExcelとCS328Aの連携(http://www.youtube.com/watch?v=lpS2f3Vv6Xc&feature=youtu.be

 

 

 Tektronix社やAgilent社,LeCroy社,横河電機,Rigol社,Pico Technology社などもディジタル・オシロスコープを出荷していますし,中国にも多くのディジタル・オシロスコープ・メーカが存在します.しかし,当社のものと同じような機能を備えるオシロスコープ製品は見あたりません.

 例えば,当社のディジタル・オシロスコープの分解能が14ビットであるのに対して,他社製品では8ビットのものが多いようです.これにより,波形を見るときに細部の情報を逃さず確認できます.

 

―― ホスト・パソコンとのインターフェースはUSBですか?

Schroder氏 USB接続のほかに,Ethernet接続にも対応しています.教育現場では,例えば30人の学生がいて,先生はそれぞれの実験結果を確認する必要があります.当社のディジタル・オシロスコープは,学生の行っている実験を先生が1カ所でモニタできます.また,自宅で測定結果を確認するというようなことも可能です.

 複数のディジタル・オシロスコープをつないで,1台のディジタル・オシロスコープであるかのように使えるリンク・バス機能も備えています.8チャネルのオシロスコープが買えなくても,2チャネルのものを4台つなげば同等のことができるのです.例えば高電圧のリーク・パルスの測定において,最大34台をつないで68チャネルのディジタル・オシロスコープとして使用した実績があります.

 

―― プロトコル・アナライザの機能も搭載しています.どのようなプロトコルに対応しているのでしょう?

Schroder氏 SPIやUART,I2Cなどのプロトコルに対応しています.ディジタル波形をデコードしながらトリガをかけることができます.

 

――Cleverscope社のWebサイトを拝見しました.フォーラムのコーナでは,あなた自身が「回答者」として,利用者のさまざまな質問に回答していますね.

Schroder氏 当社の顧客は,新機能や測定器の使い方,制御用プログラムの書き方などについて質問してきます.これに対して,私自身が直接返事をしています.これは,当社が顧客のリクエストを聞きながら製品を開発しているためです.私が直接質問に答えることで,顧客が何を必要としているのか,顧客が直面している課題は何なのかを把握できます.これにより,顧客の要求に応えるソリューションや新しいアップグレード機能を確実に提供できるのです.

 当社のディジタル・オシロスコープはFPGAベースの構成をとっており,内部回路を書き換えるROMローダの機能を提供しています.これを使うと,後から本体の機能をアップグレードできます.例えば,ある顧客から平均値フィルタの処理をFPGA内部のハードウェアで実現してほしいという要求があり,この要求に答えました.つまり,当社のディジタル・オシロスコープは,機能が進化していくのです.

 

―― 日本市場にはいつから参入しましたか?

Schroder氏 今年から本格的に参入しました.すでに数社に納入されており,日本市場に対する可能性を感じています.

 

――今後,どのような製品を開発していくのでしょう?

Schroder氏 現在,次期製品(CS400)を開発中です.この製品は,ベース・ボードにA-D変換モジュールや信号発生器モジュール,パソコン接続モジュールをプラグインする方式を採用しています.このようなモジュール化は,ユーザの要求にマッチしていると考えています.例えばA-D変換モジュールは,VITA 57の標準フォーム・ファクタに準拠しています.また,1Gサンプルを超える深いメモリ深度,5Gサンプル/sを超える高速サンプリング,さらに信号発生器の機能,USB 3.0やギガビットEthernetに接続する機能を搭載する予定です.

 

●参考URL
(1)  オールイン・ワンPCスコープ 多機能計測デジタルPCスコープ CS328A,ECN Products,2012年4月号.

 

Tech Village編集部

 

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