ESEC2012プレビュー 組み込みフォント モリサワ・インタビュー
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2012年4月18日
組み込み技術者が知っておくべき
フォントの基礎知識
最近では,街中のディジタル・サイネージ,テレビの番組予約,電車内の液晶モニタなど,組み込み機器のなかでさまざまなフォントを目にします.そこで,戦前から写植を手掛け,またディジタル系クリエータから圧倒的人気を誇るフォント・メーカの老舗(株)モリサワに,組み込み技術者が知っておくべきフォントの基礎知識について伺いました.(組み込み出版部 企画グループ)
─近年美しいフォントへの需要が高まっているのはなぜでしょうか
モリサワ(以下M):ディスプレイ解像度やタッチ・パネルの精度が格段に上がったことが大きな要因と考えられます.ゲーム機やオーディオ機器,テレビに出てくるテロップなど,組み込みフォントは以前からも多く使われていました.
そのような中で,フォント・データの軽量化,圧縮技術も進歩してきました.近年のスマートフォンやタブレット端末,ディジタル・サイネージなど多種多様な表示機器の普及により,単に文字を表示するだけの「読める」から,「読みやすい」,「魅せる」ことが求められるようになってきました.
例えば電子書籍では読みやすい書体が,電子広告では魅せる書体が使われます.またカーナビ,ディジタル家電,工業用ロボット,セットトップ・ボックスなど,用途に応じてさまざまなフォントが採用されています.
─美しいフォントの利点をおしえてください
M:人は情報の大部分を視覚から得るといわれています.公共の場所における案内表示や電光掲示板など「誰でもわかりやすく読めること」が重要です.また,子供向けの教科書や知育玩具の場合には,「学参フォント」を用いることで正確な文字の形を覚えさせることにも役立ちます.
昨今のユーザ・インターフェースではユニバーサル・デザイン書体(以下:UD書体)の採用が増えています.UD書体を使うことで,読みやすさ(可読性・可視性),わかりやすさ(判別性),読み間違えにくさを向上させ,その商品力を高めます.
─組み込み機器できれいな文字を表示するには
M:実装する機器の種類や画面の解像度によって,組み込みフォントの種類が決まります.書体デザインにこだわりたいのであればアウトライン・フォントをお薦めします.アウトライン・フォントは,文字を拡大縮小しても品質は劣化せず,印刷物でも広く使われています.また,アウトライン・フォントを表示するためには,ラスタライザと呼ばれるフォント・エンジンが必要です.ただし,2階調の表示デバイスや20ドット未満のサイズでは,アウトライン・フォントよりビットマップ・フォントの方が可読性に優れています.
─フォント・フォーマットの種類は
M:ほとんどの組み込み機器,アプリケーションで使用できる2階調のドットで構成されたビットマップ・フォントや,同じビットマップでも階調表現をもつグレースケール・フォント,スケーラブルな表示ができるTrueTypeに代表されるアウトライン・フォントがあります.
アウトライン・フォントは,フォント・メーカで独自のフォーマットを提供しているケースも多く,各社ともフォントの品質を保ちつつ,ロー・パワーのCPUでも表示できるよう軽量化を図っています.また中国語や韓国語の他に,タイ語やヒンディ語など表示が困難な言語に対応するフォーマットへの取り組みをしているメーカもあります.
─おおまかにどの程度の容量が必要でしょうか
M:フォント・データやラスタライザの容量は,書体や必要な文字数やフォーマットにより変わります.CPU の制限はありませんが,特殊な環境では個別に動作検証が必要な場合もあります.また,液晶の推奨解像度は,用途に応じて使用フォントが変わるので,個別に相談してください.
フォーマット | 書体 | データ容量 | ラスタライザ | 備考 |
TrueType | ゴシック体 | 約3,600KB | 汎用 | - |
明朝体 | 約6,500KB | 汎用 | - | |
KeiType | ゴシック体 | 約800KB | 約80KB | - |
明朝体 | 約2,000KB | 約80KB | - | |
Bitmap | ゴシック体 | 約460KB | - | 18ドット |
明朝体 | 約460KB | - | 18ドット | |
GrayScale Bitmap | ゴシック体 | 約500KB | 約40KB | 18ドット4色 |
明朝体 | 約500KB | 約40KB | 18ドット4色 |
─読みやすさを向上させるためには組版の知識も重要ですね
M:印刷関係者には常識ですが,組み込みの分野においては馴染みがないかもしれません.文字データをただ流し込んで表示するだけでは組版とはいえません.
人は文字を読むとき,一つ一つの文字を見ているのではなく,並べられ,一つのまとまりになった文字のつながりをみています.字と字の間で生まれる「空間」をコントロールし,文字(文章)を読んでいて違和感がないように調整することが組版の目的です.
お客様の機器はそれぞれ表示の大きさや解像度が違いますので,機器に合わせた表示ルールが必要になります.
─デザインによって文字の見え方が違うそうですね
M:先述のとおり,製品が違えばもちろん見え方も変わります.表示デバイスの解像度,画面に対する文字のサイズ,使用する書体によって見え方は大きく違ってきます.
例えば背景色が白,文字が水色や黄色といったのユーザーインターフェースがあったとします.その際に横画の細い書体を使用すると,サイズによっては掠れたり潰れてしまったりすることがあります.コントラストがはっきりしている時は,このような現象は起こらないこともありますので,利用シーンに合わせた書体を選んでいただくのが重要です.
モリサワでは納品前の検証用として一部の文字を実際に組込んでいただけるよう評価版を提供していますので,色とフォントの相性などを色々検証してみるのがいいでしょう.
─フォントの種類を具体的に教えてください
M:明朝体,ゴシック体に加え,楷書体,デザイン書体などがあります.
http://www.morisawa.co.jp/font/about/knowledge/typetop.html
また漢字とかなの組み合わせを変え,独自の書体を用意することもできますのでバリエーションは豊富です.さらに弊社のKeiTypeでは斜体,回転,袋文字,影付きなど変形処理も可能です.
─中国向け製品で注意点はありますか
M:中国向けの製品の場合,中国の国家規格に基づいた中国政府認証フォントを使用しなくてはいけません.弊社では台湾のARPHIC TECHNOLOGY社と業務提携をしていますので,認証済みフォントの提供が可能です.
─フォントのライセンス形態は
M:組み込みフォントは,量販店などで販売しているフォントをそのまま使用することはできません.まずフォントメーカでは,お客様から使用したいフォント形式や,使用機器,使用する文字数,サイズ,機器の出荷台数,売価設定などを伺います.そして,導入時一括支払,ランニング・ロイヤリティ(出来高払い),搭載機種や期間の限定などの条件を考慮して価格が決定します.
最終的には案件ごとに使用許諾契約を交わすのが普通で,特定のお客様のためにだけ製造する特注などの場合を除いて,売り切りという販売形態はありません.
組み込み機器のさまざまな要素の中で,フォントの存在は忘れがちです.いざ使う段になると,思わぬ検討課題が出てくるものですので,早めにご相談ください.
ESEC会場のモリサワ・ブースでも詳しくご紹介しています.お気軽にお声をかけていただければと思います.
─ありがとうございました
株式会社モリサワ
フォント営業部OEM営業課
http://www.morisawa.co.jp/font/products/oem/?utm_source=esec&utm_medium=banner&utm_campaign=esec