数千万~数億円相当のASIC/SoC検証環境を低予算で導入できる製品に注目集まる ―― Electronic Design and Solution Fair 2011(EDSFair2011)レポート

北村 俊之

tag: 半導体

レポート 2011年2月 9日

 2011年1月27日~28日の2日間,パシフィコ横浜(横浜市西区)にて,半導体や電子システムの設計技術に関する展示会「Electronic Design and Solution Fair 2011(EDS Fair 2011)」が開催された(写真1).本展示会は,前身の「EDA TechnoFair」を含めると,今回で18回目の開催となる.半導体や電子システムの開発に不可欠なEDAツールやIPコア,組み込みソフトウェアなどの製品,および各種設計サービスについての展示が行われた.主催は社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA).

 

写真1 Electronic Design and Solution Fair 2011の会場受付の様子

 

 半導体市場はここ数年,厳しい状況が続いてきたものの,WSTS(世界半導体市場統計)の予測によると,昨年(2010年)から成長軌道に戻り,2011年以降は緩やかな成長を続けるという.ただし,地球環境保全や知的財産権保護の取り組みなど,対処すべき課題は少なくない.産業競争力を強化するためには,それを支える技術者を中心とした人材育成が重要になる.

 こうした状況を踏まえて,本展示会では「設計維新!」をキャッチ・フレーズとして,国内外のベンチャ企業の動向の紹介,現場が注目する設計技術の公開セッション,および産学の技術交流を実現するセミナなどが実施された.また,ビジネス・タイムに外出しにくい開発技術者が来場しやすいように,初日(1月27日)の開場時間を午後8時まで延長した.さらに,2日目(1月28日)の午後6時~7時に「ワインの夕べ」という企画を実施するなど,来場者と出展社がコミュニケーションしやすい場を用意した.

 

●市販のFPGAボードを使用して安価に論理エミュレーション環境を構築

 サイバネットシステムは,市販のFPGAボードを論理エミュレータとして使えるようにする検証システム「Bluespec Virtual Emulator(emVM)」(開発元は米国Bluespec社)を展示した(写真2).論理エミュレータとは,SoC(System on a Chip)などの大規模ディジタルLSIの開発において,論理機能の検証を高速に行うための専用ハードウェアである.論理エミュレータで模擬した回路は,例えば1MHz~数MHzのクロック周波数で動作する.

 

写真2 サイバネットシステムが展示した「Bluespec Virtual Emulator(emVM)」

 

 こうした論理エミュレータは1台の価格が数千万円~数億円と高価で,導入できるユーザは限られる.これに対して,本検証システムでは市販のFPGAボードを利用してディジタルLSIのプロトタイプを実現するため,高速な機能検証の環境を安価に構築できるという.

 本検証システムでは,FPGAボード上に展開するRTL(Register Transfer Level)データに,ホスト・パソコン(Linux環境)と通信するためのEmulation Linkモジュール,および検証対象回路の信号をモニタしたり,テストベンチの信号を制御したりするTransactorモジュールを挿入する.ホスト・パソコンとFPGAボードの間はPCI Expressケーブルで接続する.この間の信号のやりとりは,米国Accelleraが策定した協調エミュレーション・モデリング・インターフェースの標準規格である「SCE-MI」に準拠する.

 ホスト・パソコン上ではEmulation Controlと呼ばれるソフトウェアが稼働し,ユーザはGUIを介して機能検証(論理エミュレーション)に必要な作業を行える.例えばFPGAボードの物理的な構成などを意識する必要はない.

 

●HDLモデルとFPGA回路を切り替えて機能検証を効率化

 米国Aldec社の日本法人であるアルデック・ジャパンもまたFPGAボードを利用して高速に論理機能を検証するシステム「HES」を展示した(写真3).本検証システムは,HDLシミュレーションの高速化,論理エミュレーション,プロトタイピング,ハードウェア・ソフトウェア協調検証,ソフトウェア先行開発,システム・レベル・モデルとの協調シミュレーションなど,さまざまな用途に利用できるという.

 

写真3 アルデック・ジャパンが展示した「HES」

 

 HESは,SCE-MI 2.0規格のTLM(Transaction Level Modeling)の機能に対応しており,Aldec社や米国Dini Group社,米国Synopsys社などのFPGAボードをサポートしている.模擬できる回路規模は最大3,700万ASICゲート.

 さらに,同一機能をHDLシミュレータ上とFPGAボード上に実装し,これらのモデルを切り替えながらデバッグを行う技術「Mirror-Box」のデモンストレーションを行った.Mirror-Boxを利用すると,同一機能のFPGA上のモジュールとHDLシミュレータ上のモジュール(モデル)を簡単に入れ替えることができる.例えばある特定のモジュールに設計修正が発生した場合,該当するモジュールのHDLモデルを修正する.そして,そのモジュールのみHDLシミュレータ上で動作を模擬し,それ以外の部分についてはFPGAボード上に展開した回路によって動作を模擬する.デバッグ中にFPGAボードの再コンフィグレーション(論理合成や配置配線)を行う必要がなく,デバッグに要する時間を短縮できるという.

 

●電源ノイズ解析からESD対策まで,幅広く利用できる電磁界シミュレータを展示

 富士通は,電磁界シミュレータ「Poynting for Microwave」を展示した(写真4).本シミュレータは,FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いたソルバを採用しており,計算精度が高い.汎用性が高く,プリント基板の電源ノイズの解析,送電線鉄塔への落雷による過渡電磁界の解析,携帯電話における静電気放電(ESD)対策の評価,携帯電話から発生する電磁波の人体への影響の計算・評価など,幅広い用途で利用できる.

 

写真4 富士通の「Poynting for Microwave」

 

 本シミュレータは,不均一グリッドに加えて,サブグリッドの設定を行える.部分的に微細なグリッドを設定する際に,この機能を利用する.また,曲面形状に対する境界適合機能を備えており,複雑な形状の物体を解析できる.アクティブ素子を含む回路を解析する場合は,アナログ回路シミュレータと組み合わせる必要がある.

 モデリングの際には,プリント基板CADツールや3次元機械系CADツールのデータをインポートして使用できる.

 

●シンクライアント端末を導入してマルチユーザ環境を安価に構築

 日本オラクルは,サーバ・ホスティング型仮想化デスクトップの表示に適したシンクライアント端末「Sun Ray 3 Plus Client」を展示した(写真5).本シンクライアント端末には可動部分がなく,管理が必要となるローカルのOSを持たない.そのため,クライアントとして複数のパソコンを利用する場合と比ると,安価にマルチユーザ環境を構築できるという.

 

写真5 日本オラクルが展示した「Sun Ray 3 Plus Client」

 

 本シンクライアント端末は,Sun RayソフトウェアまたはOracle Virtual Desktop Infrastructureによって管理する.ユーザ数が増えても,単一のユーザ・インターフェースによって管理できる.サーバ側のOSは,Windows,Solaris,Oracle Enterprise Linuxなどに対応する.ユーザは,これらのサーバOSの上で稼働するアプリケーションやデスクトップ画面にアクセスできる.

 アップグレードを実施する際にシンクライアント端末を個別に操作する必要はない.スマートカード・リーダを内蔵しており,登録されたスマートカードを挿入すると,LANまたはWAN経由で既存のセッションにアクセスできる.

 

きたむら・としゆき

 

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