現役大学生に聞く「将来×組み込み」 ―― 若手活性化のヒントをつかむ

酒井 郁子

tag: 組み込み Interface

インタビュー 2011年1月 5日

 「ゆとり世代」注1などというレッテルが,その世代すべての若者に当てはまるものではない,と頭では理解していても,自分が職場に配属された後輩を教育する立場になると話は別です.「xxx世代との付き合い方」などのマニュアル本を読んで,どうにかしてうまくコミュニケーションをとろうと考えてしまうものです.なぜ,それほどまで焦ってしまうのでしょう? そこには,戦力としてプロジェクトに参加してもらうために,いち早く技術を習得してもらい,やる気を持って「できる人材」に成長してほしいという思いがあるのではないでしょうか.

注1:「ゆとり世代」とは,一般に,2002年度から導入された学習指導要領に沿った「ゆとり教育」を高校まで受けた世代のことを指す.指導内容の3割削減や,完全週休2日制などが象徴的.この世代の特徴として,すぐにマニュアルに答えを求めたがる,困難にぶつかったときの粘りがない,年長者との積極的なコミュニケーションを好まない,などが挙げられることが多いようだ.

 開発現場に配属された若者が中級・上級に成長するためには,現場の先輩たちもただ待っていればよいわけではありません.これまでに培った技術を後輩たちに教え,彼らの成長に合わせて適切にアドバイスする必要があります.そして,なによりも欠かせないのは,若者自身のモチベーションを刺激し,活性化させることだと思います.

 SESSAME(組込みソフトウェア管理者技術者育成研究会)では,2011年1月14日,「次世代組込みエンジニア活性化計画~これからの10年を考える~」と題して,組込みソフトウェアに関する教育・育成ワークショップを開催します.その中で,次世代のエンジニアを活性化するにはどうしたらよいのかというパネル・ディスカッションを行います.その前に,活性化策を考えるためには,まず現在の若者が組み込みソフトウェア開発についてどう考えているのかを聞いてみる必要がある,との思いから,組み込みソフトウェアを勉強中の学生にインタビューを試みました.具体的には,二つの大学で,次のような質問を投げかけてみました.

  • [Q1] なぜ組み込みを勉強しているのか?
  • [Q2] 将来も組み込みをやってみたいか? その理由は?
  • [Q3] 卒業したら何をしたいか? その理由は?

●「好きなこと」を仕事につなげたい

 一つ目のインタビューの対象は,情報システム学部にてソフトウェア全般を勉強中の学生の中で,組み込みソフトウェアについての授業を履修している方です.

A君:

  • [A1] もともと「ものづくり」が好きだから.
  • [A2] 将来も,組み込みソフトウェアをやってみたい.できれば,夢を作るような仕事,特に宇宙に興味があり,人工衛星,探査機などに携わってみたい.
  • [A3] 仕事としては,業務を改善するようなものより,技術を新しく創造して未来が変わるようなものに惹かれる.

B君:

  • [A1] 組み込みがどんなことをしているのか知りたかったので.また,就職に役立てたいと思った.
  • [A2] 将来,組み込みをやっていくかどうかは,決めかねている.
  • [A3] 就職希望はゲーム業界だが,授業を聞いてみてハードウェア寄りの組み込みソフトウェアも面白いと思った.

Cさん:

  • [A1] 前年のプログラミングの授業で,組み込みに興味がわいた.
  • [A2] 将来,組み込みをやりたくないわけではないが,進路としては決めかねている.自分には難しいと感じている.でも,できることがあればやってみたいとも思う.
  • [A3] 卒業したら,好きな音楽に携われ,大学で学んだことが生かせることがしたい.しかし,まずは就職が先決.

D君:

  • [A1] プログラムの勉強をして,モノを動かすことをやってみたいと思った.
  • [A2] 将来も組み込みをやってみたいが,仕事でなくてもよい.センサなどが一般人にも手に入りやすくなり,実用的なものが自分で作れるようになると楽しいと思う.
  • [A3] 卒業したらSEになり,顧客の問題を解決できるような仕事につきたい.自分のために何かをするよりも,誰かのために問題を解決する方が自分に合っていると思った.

●大学院生は就職先として「組み込み」を強く意識

 二つ目のインタビューの対象は,大学院にて組み込みシステムを研究している学生たちです.彼らは,大学の情報学部でソフトウェアを学んだ後に,あえて組み込みシステムを選択し,ソフトウェアだけでなく,ハードウェアについても学んでいます.

E君:

  • [A1] 組み込みは将来性があり,日本の武器であると思っている.それを身に付けたかった.
  • [A2] 将来も組み込み開発を続けていきたい.組み込みシステムは,出来上がったときの達成感があり,やっていて楽しい.
  • [A3] 現在の液晶テレビ(シャープ・クアトロン)の映像を見てすばらしいと感じた.自分も,人を感動させるようなものづくりにかかわりたいと思っている.

F君:

  • [A1] 組み込みは技術的にすべてを把握できるシステムではないかと思ったので選択した.
  • [A2] 将来も,組み込みシステムの開発を続けたい.見えない部分も知りたい性格なので,組み込みが自分に合っていると思う.
  • [A3] 卒業後は,企業にて研究ではなく,製品開発の仕事につきたい.特にコンシューマ品を開発し,同窓会などで自分が作ったものを誇れるようになりたい.開発したものが世に出回ることに,夢を感じ,達成感もあると思う.

G君(留学生):

  • [A1] 日本の組み込み技術は,世界でもすごい.それを勉強したくて留学した.
  • [A2] 将来としては,クラウド・コンピューティングにかかわることをやりたい.組み込みは第2希望.
  • [A3] 卒業後は,まず日本で就職したい.5~10年日本で仕事し,力を付けた後,中国・アメリカなど世界で仕事をしたい.最も希望するのは,シリコンバレーで仕事をすること.

H君:

  • [A1] ソフトウェアを勉強していて,ハードウェアも知っていた方が力になると思い,組み込みに進んだ.
  • [A2] 将来も組み込みを続けたい.組み込みはシビアさがあるが,難しいことに挑戦していきたい.
  • [A3] 卒業後は,とりあえず就職したい.これまでに学習したことを生かして「これを作りました」といえるものを作りたい.例えば,プリンタが精密に紙面にインクを落とす技術を見てすごいと思うので,そういう開発をやってみたい.

●組み込みソフトウェアは「難しい」にほぼ全員が同意

 一つ目のインタビュー対象の学生たちは,SESSAMEメンバによる半年間の組み込みソフトウェア開発の授業(通称「セサミ組込み講座」)を履修していました.最後に,その感想を聞きました.

―― この授業で,組み込みソフトウェアを勉強していかがでしたか?

a:現場の人の話を聞いてみて,技術者って意外と明るいと思った.
b:常に新しい技術を吸収し続けることは大変.自分には向いていないと思った.
(うなずく人,多数)
c:世の中で簡単にものを動かしているが,その実現手段である組み込みは面白いと思った.しかし,実際には小さな動きを実現するのにもたくさんのプログラムが作られていて,とても難しいと感じた.

―― やってみて,組み込みソフトウェア開発は思ったより難しいと思いましたか?

(一人を除いて,全員が挙手)

―― 組み込みの開発者よりも難しいと思うものはないですか? 例えば,年末に酔客に対応する駅員は難しい仕事だと思いませんか?

d:組み込みソフトウェア開発は難しいが,プログラムは目的があって作るものだと思う.それよりも,何をする(したい)のか分からない人間に対する方が,さらに難しいと思う.仕事にするならば,やはり技術をやりたい.
(ほぼ全員がこれに賛同)

―― 皆さんの希望の中に「夢のあるものをやりたい」という声がありました.夢を持てるものは何かありますか?

c:宇宙とか,自分の体内とか,今まで未知の世界に触れられるもの.
a:今浸透している技術を追求することで,夢があるものが作れるのではないか.例えば,RFIDを使った無人コンビニなどを広めていくと,夢の世界を現実にできるのではないかと思う.
f:漫画・アニメの世界の実現.例えば,スターウォーズの空飛ぶ車の開発など.
d:今,人間ができないことや,普段面倒だと思っていることを,システムで簡単にできるようにすること.

 * * *

 学生たちの生の声を聞いて,どのように感じられたでしょうか.筆者はインタビューを通して,面白いと思うことや,やりがいや達成感を感じることなどは,就職する前の自分も同じだったのではないかと感じました.世代の違いを考える前に,個人として考えていることを共有すると,次世代の若者とも分かり合えることはたくさんありそうです.

 

さかい・ゆうこ
SESSAME(組込みソフトウェア管理者技術者育成研究会)

 

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