デバイス古今東西(7) ―― 半導体システム設計から見たハードIP,ソフトIPの使いどころ
●ゼロから始めるシステム設計ならソフトIPモジュール
次に,ソフトIPモジュールとハードIPモジュールが混在しているシステム設計を考えてみます.ソフトIPモジュールは人工物(半導体チップ)の特徴に対応して作られた抽象概念に近いサブシステムです.よって内部構造は必ずしも最適化されているとは言えません.
ソフトIPモジュールを複数集めて一つのサブシステムとして統合するとき,そのサブシステムの機能や性能,コストなどについて最適化が行われます.統合された時点ではサブシステムは階層構造を保っていますが,仮にこのサブシステムを一つのものとして処理しようとすると,階層構造を保つ意味はなくなります.そして,階層構造は解体され,もはや個々のソフトIPモジュールを認識できない一つのサブシステムとして最適化が行われます.
従ってソフトIPモジュールは,複数のモジュールを統合してできあがるサブシステムの最適化を意識したシステム構築に有効です.新商品の開発やリエンジニアリングを想定したゼロから始めるシステム開発では,ソフトIPモジュールの利用効果は高いと言えます.例えばその商品によってブレーク・スルーを引き起こしたい設計案の場合に有効と考えられます.ブレーク・スルーとは,客観的に見て飛躍的進歩が伴った技術であり,一般に,今までにない新たな設計思想,あるいはアーキテクチャなどが含まれます.
ただし,ソフトIPモジュールには,集積の規模が大きくなったとき,システム全体の最適化問題を解くことが困難になるという課題があります.システムの大規模化と最適化は二律背反の関係にあるからです.つまり,ソフトIPモジュールによるシステムの構築規模には限界があります.そのため,ソフトIPモジュールとハードIPモジュールを組み合わせたアプローチが必要になります.図2にソフトIPモジュールとハードIPモジュールが混在しているシステムの構築例を示します.
図2-1の通り,システム全体の機能を下位機能へ展開すると,ソフトIPモジュールとハードIPモジュールにたどり着きます.これはトップ・ダウン手法です.そして,それらハードIPモジュールとは別にソフトIPモジュールだけを集積して,設計対象となるシステム全体の機能を実現します.機能D,G,J,Kという四つのソフトIPモジュールは一つの上位機能として統合され,機能,性能,コストの面で最適化されます.図2-2の通り,最終的に機能A,F,Hと最適化された一つの機能(機能D,G,J,K)が統合されます.これはボトム・アップ手法です.
本稿では,実体概念と抽象概念という対極的な視座を用いてハードIPモジュールとソフトIPモジュールについて述べました.そして,その二つのモジュールがそれぞれ持つシステムの設計開発上の特性の違いを考察しました.ハードIPモジュールは部分修正が必要なシステムの構築に有効で,また大規模なシステムの構築に適しています.一方,ソフトIPモジュールはシステム構築の規模に限界がありますが,システムの機能,性能,コスト面の最適化を考慮したシステム構築に有効です.
◆筆者プロフィール◆
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.