もう「知らない」では済まされない.知っていた方がお得な数学知識 ―― 『アートのための数学』
もう「知らない」では済まされない.知っていた方がお得な数学知識
牟田 淳著
オーム社
ISBN-10: 4274067238
ISBN-13: 978-4274067327
264ページ
1,800円(税別)
2008年12月
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数学というと,アート系やデザイン系の方には無関係かと思われがちです.でも,世の中,そんなに甘くはありません.現在,コンピュータを使って仕事をするのが普通になってしまった以上,「表現のための数学」から逃げることはできません.
グラフィックスを考えてみてください.ドローはベクタ画像,ペイントはラスタ画像だと言われても,「何それ?」では済まされません.まあ,この程度のことであればすぐにわかるので問題はないのですが,複雑なことをしようとすると難易度が急に上がってきてしまいます.
例えば,2次元にしろ3次元にしろ,グラフィックス作成ソフトには「スプライン曲線」とか「ベジエ曲線」といったメニューがあるはずです.使っているうちにどんな効果なのか,分かってくるものですが,その原理を知っていて使いこなした方が効率的だし楽なのは動かしがたい事実でしょう.
むしろ,それを知っていないと,自動的かつきれいに作成できるものなのに,余計な工程を経て結果が悲惨な物に...という可能性もあるわけです.
これは写真加工にしても,アニメーションにしても,同じことが言えます.輝度とコントラストの違いが分からないと,まともな色調補正はできないでしょう.アニメーションも,物理法則を知ったうえで動きを指定しないと,かなり不自然なものになってしまいます.もし,同じ速度で物体が落下していったら,「それはないだろう!」と突っ込まれますよね.
一時が万事,何かをコンピュータで実現しようと思ったら,「コンピュータは計算しかできない」という事実を受け入れるしかないのです.そして,計算には数学が必須なのです.その点に関してはあきらめてください(笑).
とはいえ,そんなに難しく考えることはありません.理解しなくてはならないのは,ごくごく単純なことで,高校で習った数学を思い出せばよいだけのレベルです.「数学だから難しい」というのは誤解です.ちゃんと理解しようと思えば,すぐに習得できます.
実はこれ,アート系の人に限ったことではありません.エンジニアでも同じです.
例えば,ビジネス・ソフトウェアで何らかの効果音を作るという仕事が来たとき,音のしくみが分かっていないと手も足も出ませんよね.
それから,GUIの設計を行う際,配色はどうしましょうか? 色彩デザイナが近くにいればよいのですが,世の中はそうそう上手くできていません.赤のレイヤと緑のレイヤを重ねてみたら黄色になってしまって見にくくて仕方がない...などというイタイ失敗は,できれば避けたいことでしょう.
ですから,アートとエンジニアリング,そして数学は,コンピュータを使ううえでは避けて通ることができない話になっているのです.
確かに知っていなくても実現することは可能です.とはいえ,知ったうえで楽をしたほうが断然便利ですよね.
怖がらずに挑戦してみませんか?
本書は,もともと芸術系の学生さんに向けた講義をまとめた本です.ですから,なぜ数学を使うと楽なのか,なぜ芸術と数学が不可分なのか,それが分かりやすく書かれています.
「人間の感覚は対数的にできている」とそのまま書かれると,それだけで引くかもしれませんが,中身を知れば,「あー,なるほどー」と思うはずです.
これからますますコンピュータを使ったアニメーションや音楽が増えていくことでしょう.それを否定する人はいないはずです.ですから,アート系の人は数学を通して表現方法を学び,エンジニアの人は数学を通すことで余計な苦労をせずに人に美しいと感じてもらえる環境を実現できるようになるのです.
いかがですか?
ここまで説明しても「やっぱり数学はちょっと」でも,「私は関係なくてもいいよー」でも,「修行して覚えていくからいいよ」という意見でも構わないとは思います.しかし,ちょっと頭を働かせて,単純な公式を理解するだけで簡単に実現できるのに,それをしないというのは,もったいないという以前に時間と労力の無駄だと思いませんか.
本書の内容は本当に簡単で,実例を交えながら数学の便利さを解説しています.ここは一つ,だまされたと思って一読してみてはいかがでしょうか.
「美」と「数学」がいかに不可分なものなのか,十分に理解できると思います.これからはもう泥縄では済まなくなるくらい表現が複雑化することでしょう.
取り残される前に,ちょっとした勇気を持ってみてください.
大野 典宏
Project NR
norihiro.oono@gmail.com
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