実証実験が進むユビキタスID技術,障害物を避ける自律移動ロボットも ―― TRONSHOW 2009

北村 俊之

 T-Engineフォーラムトロン協会は,2008年12月10日~12日,東京ミッドタウン(東京都港区)にて,T-EngineやユビキタスID技術に関する活動を紹介する技術展示会「TRONSHOW 2009」を開催した(写真1).今回で25回目を迎える本展示会には,ユビキタス・コンピューティング(どこでもコンピュータ)環境の構築へのさまざまな提案を中心に,トロン・プロジェクトの成果が多数紹介されていた.現在はユビキタスID技術を用いた実証実験(食品トレーサビリティ,物流センター,医薬品物流,観光ガイド,自律移動支援,衛星利用など)も進み,さまざまな分野への導入が始まりつつあるという.

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[写真1] 会場受付の様子
東京ミッドタウン(東京都港区)にて開催された.なお,東京ミッドタウンの敷地内にはucodeマーカ(アクティブ・タグ)が埋め込まれており,このマーカを利用してアート作品を紹介するツアー「ユビキタス・アートツアー」が実用化されている.

 また,ユビキタス・コンピューティング環境によるハンディキャップ・サポートを考えるシンポジウム「TRONイネーブルウェアシンポジウム(TEPS2009)」が併催された.本シンポジウムでは,東京大学教授 坂村 健氏による基調講演「ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン」や,ユビキタス情報社会におけるユニバーサル・デザインのガイドラインについて議論するパネル・セッションが行われた.

●障害物を自律回避しながら,目的地に到達する移動知能ロボット

 NECソフトは,芝浦工業大学千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)と共同研究を進めている車椅子型の移動知能ロボットを展示した(写真2).本ロボットは,周囲に設置されたucode赤外線マーカ(赤外線でucodeを送信するアクティブ・タグ)を活用して現在の位置情報を取得し,目的地まで移動できる.また,ボディに装着されたセンサによって障害物を自律的に回避する.

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[写真2] ucode赤外線マーカを利用して移動する知能ロボット

 ロボット本体には,ucode受信用のPDA(携帯情報端末)と2基のセンサ(1基で270度をカバーする)などが搭載されている.障害物情報は,存在確率マップとして表現されており,それに基づいてロボットは経路生成を行っている.処理を行うソフトウェアは,ロボット・システム開発用のソフトウェア基盤技術「RTミドルウェア」に準拠したRTコンポーネントとしてモジュール化されているので,RTミドルウェアを採用しているほかのロボットにも適用できるという.現在,T-Kernel対応のRTミドルウェアを開発中であり,2009年3月までに発表する予定.

 本プロジェクトは,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」の一つとして採択されている.

●マルチコアに対応したオンチップ・デバッギング・エミュレータ

 ルネサス テクノロジは,オンチップ・デバッギング・エミュレータ「E10A-USB」のマルチコア対応製品(HS0005KCU04H)を展示した(写真3).本エミュレータは,SH-4Aマルチコア・マイコンとSH-2Aマルチコア・マイコンに対応している.複数のCPUコアに対して同期実行,同期ブレーク,同期ステップが可能.ほかのCPUコアの実行を止めずに,特定のCPUコアに着目したデバッグを行える.また,同社のマルチコア用OS「HI7200/MP」などを認識してデバッグできる.

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[写真3] ルネサス テクノロジのオンチップ・デバッギング・エミュレータ「E10A-USB(HS0005KCU04H)」

 エミュレータは,マイコンに搭載されている専用のデバッグ・インターフェース(H-UDIとAUD)を経由してユーザ・システムに接続するので,完成した製品に近い形態でデバッグを行える.なお,使用するデバイス・グループの選択はソフトウェアのインストール時に行い,選択したデバイス・グループはその後変更することができない.最初に選択したデバイス・グループ以外を使用したい場合は,デバイス・グループ追加用のライセンス・ツールを購入する必要がある.

●x86用のT-Kernel評価パッケージを展示

 パーソナルメディアは,x86プラットホーム用のリアルタイムOS「PMC T-Kernel/x86」の評価用パッケージ「T-Kernel/x86評価キット」を展示した(写真4).本パッケージは,OS本体のほか,T-Kernel用のミドルウェアやデバイス・ドライバ,開発環境(EclipseのT-Kernel対応版である「Eclipse for PMC T-Kernel」)などを含んでいる.

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[写真4] パーソナルメディアの「T-Kernel/x86評価キット」

 本パッケージは,Intel Atomプロセッサなどx86系CPUを搭載したPC/AT互換ボード上で動作する.また,仮想化ソフトウェア「VMware Player 1.0.x/2.0.x」と組み合わせることにより,Windowsパソコン上でT-Kernel用組み込みソフトウェアの開発やデバッグを行える.

●産業用途向け,SH-4Aマイコン搭載の組み込みボード

 日立超LSIシステムズは,SH-4Aマイコン(SH7764)を搭載した組み込みボード「MS7764BR01BWシリーズ」を展示した(写真5).本ボードは,約2Kゲートが使用可能なPLD(Programmable Logic Device)を搭載している.同社は,本ボードをベースとしたボードの設計や,アプリケーション・ソフトウェアの開発などといったカスタム・デザイン・サービスも行っているという.

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[写真5] 日立超LSIシステムズの「MS7764BR01BWシリーズ」

●39万字の漢字表記を収録した文字フォント・セット,2009年に無償公開開始

 東京大学大学院情報学環 坂村・越塚研究室は,日本や中国で用いられるさまざまな漢字表記を網羅的に収録した文字フォント・セット「Tフォント」を展示した(写真6).本フォントはTrueTypeフォントの一種である.多くの異字体や古代文献に登場する字体などを収録しており,それぞれの文字について明朝,ゴシックおよび楷書体の3書体を用意している.フォント・データの総数は39万字に及ぶ.

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[写真6] 東京大学大学院情報学環 坂村・越塚研究室が展示した「Tフォント」

 収録されている文字は,東京大学多国語処理研究会が制定した「GT文字セット」の文字や,住民基本台帳に登録されている変体仮名,『金文通釈』(白川 静著,平凡社)に出てくる金文文字など.人名の表記については,本フォントで正確に表記できない人名がほとんど存在しないレベルに達しているとのことである.異字体もすべて別個の文字として扱うため,アジア諸国で同じ漢字を用いる際に生じる表記の問題(CJK問題)も解消するという.漢字のほかにも,変体仮名と呼ばれる派生かな文字や,マンガなどで用いられる濁点仮名も,1個の文字として扱うことが可能となっている.対応OSは超漢字4,Windowsなど.2009年の早い時期に,第1期 236,025字の一般リリース(Webからの無償ダウンロード)を予定しているという.

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