トヨタ生産方式とXPに学ぶソフトウェア開発の「見える化」 ――ソフトウェア カイゼン交流会

組み込みネット編集部

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レポート 2006年12月15日

 2006年12月7日,日本科学技術連盟(東京都渋谷区)にて,ソフトウェア開発の現場を活性化・改善していくための研究会「ソフトウェア カイゼン交流会」が開催された(写真1).トヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)から生まれた"カイゼン"の手法をソフトウェア開発に適用する試みが注目を集めている.カイゼン活動とは,製造業などにおいて,業務効率や品質,安全性などを向上させるために現場の作業者が中心となって行う活動である.状況を正しく認識するための「見える化」活動は,eXtreme Programming(XP)やアジャイル開発にも通じるものがある.管理職にアピールしやすい「トヨタ生産方式」と,若手のソフトウェア技術者を中心に支持されているXPの出会いが,新しい設計文化を生み出すだろうと期待されている.

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[写真1] ソフトウェア カイゼン交流会
日本科学技術連盟(東京都渋谷区)にて開催された.

●まずはハードウェア工場の"カイゼン"に学ぶ

 デンソー技研センターの近藤徹人氏は,「製造現場での『カイゼン』への取り組み」と題した講演を行った(写真2).工場で実施されている,トヨタ生産方式に基づく"カイゼン"とは,「現場の作業者一人一人が無駄を見つけ,知恵を出して,迅速に無駄を排除していくこと」である.近藤氏は,カイゼン活動の目標が企業体質の改善ではなく,人材育成にあること(一人一人のスキル・レベルの向上とコミュニケーションの円滑化),身近な小さいアイデアも立派なカイゼンであること,などを説明した.

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[写真2] 講演するデンソー技研センターの近藤徹人氏
近藤氏は,かつてデンソー ボデー機器製造部の工場長だった.

●各社の"カイゼン"活動を発表

 NECソフトウェア北陸 第三ソリューション事業部の西川幸延氏は,2005年10月ころから同社で実施している「見える化」活動について講演した.ソフトウェア開発現場では,開発者の毎日の目標が明確になっておらず,管理者も各メンバの作業状況を十分に把握できていないことが多い.進捗報告会議は週に1回実施しているが,これでは問題点を発見するのが遅くなり,結果として作業の手戻りと残業が多くなってしまう.こうした問題点を解消するため,同社では今回の「見える化」活動に取り組んだ.

 まず,毎朝チームで「昨日やったこと」,「今日やること」,「問題点」を手短に報告し合うミーティングを実施し(「朝会(あさかい)」と呼ぶ),作業状況を見える化した.また,プロジェクトにおける作業を記載した付箋紙(タスク・カード)を"To Do","Doing","Done"に分けてホワイト・ボードに貼り付け(「ソフトウェアかんばん」と呼ぶ),プロジェクトの進捗状況を見える化した.また,開発者が毎日退社する際に,そのときの気分に合った色のシールを貼るための一覧表を用意し(図1,「ニコニコ・カレンダ」と呼ぶ),チームの雰囲気を見える化した.さらに,週ごとに「継続して実施すること(Keep)」,「問題点(Problem)」,「新たに取り組むこと(Try)」を確認する機会を設け(「KPT(ケプト)ふりかえり」と呼ぶ),問題点を見える化した.

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[図1] ニコニコ・カレンダの例(略称は「ニコカレ」)
NECソフトウェア北陸の例では,ハッピーな気分なら黄色,アンハッピーな気分なら青色,普通なら赤色のシールを貼ることを基本とし,後はチームごとにアイデアを盛り込んでカスタマイズしたという.

 これらを実施した結果,進捗状況や問題点が把握しやすくなった.また,長時間にわたっていた進捗報告会議が不要になった.さらに,その日の目標が明確になり,仕事にやりがいが出てきたり,チームで協力して作業を進めることが増えるなど,チームとしての一体感が強まったという.これらの取り組みは,当初は西川氏の指示から始まったが,その後はメンバが自発的に参加するようになり,社内へスムーズに展開できたようだ.

 ;なお,「朝会」,「ふりかえり」などは,プロジェクトを活性化するための手法「プロジェクト・ファシリテーション」(1)において提唱されている実践手法(プラクティス)である.詳細については,オブジェクト倶楽部が公開している実践ガイド(参考文献(2),(3))を参照のこと.

 PFU ソフト・アプライアンスグループ ソフト品質保証部の藤田国和氏は,Eliyahu M. Goldratt氏が提唱した手法「クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント(CCPM)」の適用事例を紹介した.また,西川氏と同じように,ソフトウェアかんばんや朝会,ニコニコ・カレンダ,KPTふりかえりなどを実施した.最初は一つのプロジェクトだけで実施していたが,ほかのプロジェクトにも活動が広がり,1年足らずでフロアの壁や窓がこれらのカイゼン活動の掲示物(「貼り物」と呼ぶ)でいっぱいになったという.壁のスペースが残り少なくなってくると,まだ活動に取り組んでいないチームが「このままだと貼る場所がなくなる.うちもとりあえず何かやらなくては」と危機感を抱き,自主的に活動を始めるようになったそうだ.

 藤田氏によると,カイゼン活動を進めるにあたって重要なことは,組織としてのメリット(管理する,状況を把握するなど)を目的とするのではなく,個人としてのありたい姿(早く家に帰れる,楽しく仕事できる,顧客から名指しで頼られる開発者になるなど)を具体的にイメージすることが重要だという.また,他人から強制されて行動するよりも,自発的に行動して変化を感じることがやる気につながるという.

 ;この事例に関する藤田氏の論文「ソフトウェア活動における見える化活動」が,PFUの技術誌(4)に掲載されている.

●日科技連内にカイゼン研究委員会が発足

 本交流会は,日本科学技術連盟のカイゼン研究委員会が主催する初めての研究会である.カイゼン研究委員会とは,富士通グループ全体を対象とした組織横断的なTPSコミュニティを運営している富士通 生産革新本部 SI生産革新統括部 生産革新推進部の和田憲明氏と,NECソフトウェア北陸においてソフトウェア開発業務の改善を推進している西川幸延氏が設立したものである.もちろん,ハードウェアの工場における"カイゼン"をそのままソフトウェア開発に適用できるとは考えていないという.今回のような交流会などの場を設け,同じ志を持つメンバが集まって,どのようにすれば適用できるかを検討していく.

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