「魔法のスプーン」と飛行船で将来の技術者を育てる ――マジカル・スプーン模擬授業
2006年10月22日,日本科学未来館(東京都江東区)にて,高校生を対象とした教育プログラム「Let's GOGO!マジカル・スプーン」の模擬授業が実施された.マジカル・スプーンは,金属のスプーンを利用して,情報処理における符号化/復号化を体験的に学習するプログラムである.今回は,スプーンを打ち合わせることで操作できるラジコンの飛行船を使って,4ビットの命令(符号)を設計したり,設計した命令を飛行船に入力してみるなどの授業を行った.生徒役として,高校生や中学生,高校の教師などが参加し,笑ったり頭をひねったりしながら課題に取り組んだ(写真1).
システムの仕組みはこうだ.飛行船に指令を送るシステム(地上システム)に接続されているペダルを踏み,「入力開始」を告げると同時に,一定の間隔で金属のスプーンを4ビット分(最大4回)打ち合わせる.金属のスプーンを打ち合わせたときに出る音を超音波センサが認識し,命令として解釈する.解釈した命令を,地上システムから飛行船に無線伝送し,求められた動作を行う(写真2,写真3).
飛行船に与える命令は,「上昇」,「下降」,「前進」,「後退」,「右旋回」,「左旋回」,「停留(ひと所にとどまる)」,「停止(すべての動作を止める)」の8種類がある.模擬授業では,「スプーンを鳴らす(ON)」または「スプーンを鳴らさない(OFF)」の2種類を(1ビット分で)区別できること,ビット数を増やせばさらに多くの種類を区別できることを学習させた後,この八つの命令を,「3ビット+偶数パリティ・ビット」の合計4ビットで構成されるコマンド群のどれに割り当てるかを数人ずつのチームで考えさせた(写真4).そして,確実に実行させなければならない命令(ここでは「停止」)には確実に入力できるコマンド(つまり,"OFF OFF OFF OFF")を割り当てるようにすること,また,取り違えてはならない命令同士はなるべくビット・パターンが異なるものにすることなどを指導した.
実際に参加者がスプーンで命令を入力してみたところ,なかなか思うようにコントロールできない場合が多かった.例えば,入力開始ペダルを踏むタイミングやスプーンを打ち合わせるタイミングを計るのが難しかったり,命令入力を開始した時点と命令を実行する時点で飛行船の状態が変わっていたり,わずかな空気の流れや慣性によって飛行船が思わぬ方向に動いたりした(写真5,写真6).
1999年3月に文部科学省が告示した高等学校学習指導要領(いわゆる「新学習指導要領」)により,普通教育と専門教育の両方に対して,2003年度から新しく「情報」という教科が追加された.この教科が設定された背景には,組み込みシステムを含むソフトウェア産業に就業する技術者や,ディジタル・コンテンツ開発者を育成する狙いがあったという.しかし,実際の授業では多くの場合,ワープロ・ソフトウェアや表計算ソフトウェアの使い方を学ぶにとどまっているようだ.
本教育プログラムは,高校や専門学校などの授業で使われることを想定して,飛行船と地上システムを実費程度で提供することを考えている.本プログラムを企画・開発しているのは,教育システム情報学会 情報教育特別委員会 委員の香山瑞恵氏(専修大学 ネットワーク情報学部)と,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)のメンバである二上貴夫氏(東陽テクニカ).