「魔法のスプーン」と飛行船で将来の技術者を育てる ――マジカル・スプーン模擬授業

組み込みネット編集部

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レポート 2006年11月 1日

 2006年10月22日,日本科学未来館(東京都江東区)にて,高校生を対象とした教育プログラム「Let's GOGO!マジカル・スプーン」の模擬授業が実施された.マジカル・スプーンは,金属のスプーンを利用して,情報処理における符号化/復号化を体験的に学習するプログラムである.今回は,スプーンを打ち合わせることで操作できるラジコンの飛行船を使って,4ビットの命令(符号)を設計したり,設計した命令を飛行船に入力してみるなどの授業を行った.生徒役として,高校生や中学生,高校の教師などが参加し,笑ったり頭をひねったりしながら課題に取り組んだ(写真1)

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[写真1] 「Let's GOGO!マジカル・スプーン」の模擬授業
2006年10月19日に行われた,モデル駆動開発手法を利用して飛行船を自律制御する競技会「MDDロボット・チャレンジ」と同じ会場(日本科学未来館)で開催された.

 システムの仕組みはこうだ.飛行船に指令を送るシステム(地上システム)に接続されているペダルを踏み,「入力開始」を告げると同時に,一定の間隔で金属のスプーンを4ビット分(最大4回)打ち合わせる.金属のスプーンを打ち合わせたときに出る音を超音波センサが認識し,命令として解釈する.解釈した命令を,地上システムから飛行船に無線伝送し,求められた動作を行う(写真2写真3)

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[写真2] 使用した地上システム
左側の基板についている超音波センサに向かって金属のスプーンを打ち合わせると,システムはそれを飛行船に対する命令として解釈し,右側の基板から電波として発信する.左側の基板に組み込むプログラムは,パソコンからダウンロードできる.いずれは,これらの基板を弁当箱大のコンパクトなキットとしてまとめる予定.

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[写真3] 使用した飛行船
MDDロボット・チャレンジで使用した飛行船「Haluna-1」をそのまま利用した.

 飛行船に与える命令は,「上昇」,「下降」,「前進」,「後退」,「右旋回」,「左旋回」,「停留(ひと所にとどまる)」,「停止(すべての動作を止める)」の8種類がある.模擬授業では,「スプーンを鳴らす(ON)」または「スプーンを鳴らさない(OFF)」の2種類を(1ビット分で)区別できること,ビット数を増やせばさらに多くの種類を区別できることを学習させた後,この八つの命令を,「3ビット+偶数パリティ・ビット」の合計4ビットで構成されるコマンド群のどれに割り当てるかを数人ずつのチームで考えさせた(写真4).そして,確実に実行させなければならない命令(ここでは「停止」)には確実に入力できるコマンド(つまり,"OFF OFF OFF OFF")を割り当てるようにすること,また,取り違えてはならない命令同士はなるべくビット・パターンが異なるものにすることなどを指導した.

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[写真4] 各チームが考えた命令コード
どのような方針で命令を決めたのか,チームごとに発表した.偶数パリティ・ビットまで含めてビット・パターンを考慮したチーム,入力しやすさを考慮したチームなど,さまざまだった.

 実際に参加者がスプーンで命令を入力してみたところ,なかなか思うようにコントロールできない場合が多かった.例えば,入力開始ペダルを踏むタイミングやスプーンを打ち合わせるタイミングを計るのが難しかったり,命令入力を開始した時点と命令を実行する時点で飛行船の状態が変わっていたり,わずかな空気の流れや慣性によって飛行船が思わぬ方向に動いたりした(写真5写真6)

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[写真5] スプーンで飛行船を操作しているようす
スプーンを打ち合わせて命令を出し,飛行船の状況を見ながらまた次の命令を考える.

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[写真6] スタート地点から上昇する飛行船
手前のクレータがスタート地点,向こう側のクレータがゴール地点.操作が難しく,ゴールに着陸させることができたチームはなかった.

 1999年3月に文部科学省が告示した高等学校学習指導要領(いわゆる「新学習指導要領」)により,普通教育と専門教育の両方に対して,2003年度から新しく「情報」という教科が追加された.この教科が設定された背景には,組み込みシステムを含むソフトウェア産業に就業する技術者や,ディジタル・コンテンツ開発者を育成する狙いがあったという.しかし,実際の授業では多くの場合,ワープロ・ソフトウェアや表計算ソフトウェアの使い方を学ぶにとどまっているようだ.

 本教育プログラムは,高校や専門学校などの授業で使われることを想定して,飛行船と地上システムを実費程度で提供することを考えている.本プログラムを企画・開発しているのは,教育システム情報学会 情報教育特別委員会 委員の香山瑞恵氏(専修大学 ネットワーク情報学部)と,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)のメンバである二上貴夫氏(東陽テクニカ).

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