ARMコアのライセンシ数は5年間で2.3倍に,中国市場への供給も開始 ――ARM Forum 2006

組み込みネット編集部

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レポート 2006年10月26日

 英国ARM社の日本法人であるアームは,2006年10月17日~18日,東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて,ARM社製品関連の技術コンファレンス「ARM Forum 2006 - ARM Connected Community Technical Symposium」を開催した(写真1).午前中は,基調講演や特別講演などが行われた.特別講演では,携帯電話会社のソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)が,番号ポータビリティを意識した携帯電話の新機種や,携帯電話プラットホームの方向性について講演した.午後は3部屋に分かれ,ARMコアやOS,ソフトウェア開発,回路ライブラリなど,技術分野ごとの講演が行われた.

 また,講演会場の外に設けられた展示エリアでは,ARM社,およびソフトウェア開発ツール・ベンダやEDA(electronic design automation)ベンダなどのサード・パーティ企業19社が,製品の展示やデモンストレーションを行った.例えば京都マイクロコンピュータは,WindowsCEが稼働するARM11評価ボードを展示した.

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(a)登録受け付けの様子

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(b)講演会場の外の展示エリアの様子

[写真1] ARM Forum 2006の会場風景
東京コンファレンスセンター・品川 5Fの大ホールで開催された.2日間で,のべ715名が来場した.

●中国でARMプロセッサの開発が始まる

 基調講演に先立って,2006年10月1日にARM社のChairmanに就任したDoug Dunn氏が,同社の事業の方向性について説明した(写真2).同氏は世界人口の動態統計について言及し,人間の寿命が伸び,健康的になっていることから,今後,エレクトロニクスやバイオ,医療に関係する技術が発展すると述べた.また,ARMコアがこうしたアプリケーションの性能や信頼性を支える技術であることを強調した(写真3)

 また,同社のアジア市場に対する取り組みも紹介した.同社はすでに,上海と北京にオフィスを設立している.中国において,2005年にはARMコアのライセンス(設計プロジェクトに対して課金される費用)収入が,2006年からはロイヤリティ(製造チップの個数に比例して課金される費用)収入が得られていることを明らかにした.中国では,携帯電話の台数がすでに欧州を超えており,数年のうちに米国の台数も突破するもよう.

 最後に,同氏はここ5年間のARMコアのライセンス数や研究開発投資について述べた.ライセンスを受けた企業(ライセンシ)の数は,2001年の77社(このうち,33社がLSI製品を出荷)から,2006年には177社(このうち,69社がLSI製品を出荷)に増えている.同社のIP(intellectual property)コア製品による売り上げ(四半期単位)は,2001年の約600万ドルから2006年には約2200万ドルに増加した.一方,同社の研究開発投資(四半期単位)は,2001年の約1000万ドルから2006年には約2500万ドルになっているという.

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[写真2] ARM社 ChairmanのDoug Dunn氏
2006年10月1日にARM社のChairmanに就任した.これまで同氏は,オランダASM Lithography Holding社のPresident and CEO(chief executive officer)や,オランダRoyal Philips Electronics社 Consumer Electronics DivisionのChairman and CEOを務めていた.

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[写真3] ARMプロセッサが搭載されている機器の例
ARMプロセッサは,携帯電話や携帯型ゲーム機のほか,ディジタル・テレビやディジタル・ビデオ,知育玩具などにも利用されている.

●次期主力コアのCortexファミリをアピール

 基調講演では,同社 Director of CPU Product MarketingのKevin McDermott氏が,「Cortexファミリ」の詳細について紹介した(写真4).Cortexファミリは,2005年からライセンス供給を開始した同社の新しいCPUコア製品である.高速なデータ処理やマルチメディア処理を必要とする市場を狙った「Cortex-A(application profile)」,自動車やリアルタイム処理が要求される制御機器を狙った「Cortex-R(real-time profile)」,安価なマイクロコントローラの市場を狙った「Cortex-M(microcontroller profile)」の3種類に分かれている.例えば,すでに発表されているCortex-A8コアの処理性能は最高2000 Drystone MIPS程度に,Cortex-R4は最高600 Drystone MIPS程度になるという.

 Cortex-Aは,組み込みOSを利用することを想定してMMU(memory management unit)を内蔵している.Cortex-Rは,信頼性の向上に配慮して,MPU(memory protection unit)を内蔵している.いずれのコアも32ビット命令のARMコード,およびメモリ容量を抑えるために32ビット命令と16ビット命令の混在を可能にするThumb-2コードを処理できる.また,音声・映像データを高速に処理するための専用のSIMD(single instruction stream-multiple data stream)ブロック(NEON技術)を搭載している.一方,Cortex-MはThumb-2コードのみに対応しており,従来のARMコードは処理できない.また,Cortex-Mは,同じ処理性能の8051よりチップ面積が小さく,製造コストを引き下げることができるという.

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[写真4] ARM社 Director of CPU Product MarketingのKevin McDermott氏
Cortexファミリの特徴や技術の詳細について講演した.

●地上デジタル,3Dグラフィックス,HDビデオにはARM11

 基調講演に続いて行われた特別講演では,ソフトバンクモバイル プロダクト・サービス開発本部 モバイル・ターミナル統括部 部長の上村政明氏が,同社の携帯電話端末やサービスの動向について講演した(写真5).2006年10月24日から実施されている番号ポータビリティ(携帯電話会社を変更した際にも,電話番号を変更しなくて済むサービス)に配慮して,携帯電話会社は新端末を続々と発表した.同社も13機種を発表した.本特別講演においては,厚みが12.3mmと非常に薄い二つ折り型の携帯電話「706SC」や,500万画素のカメラと3倍光学ズーム機構を搭載する携帯電話「910SH」,音楽ファイルを格納するための1Gバイトのフラッシュ・メモリを内蔵し,Bluetoothワイヤレス・ヘッドホンを同梱する携帯電話「910T」などを紹介した.

 本講演では,同社の携帯電話プラットホームの方向性にも言及した.1996年ごろに出荷された携帯電話にはARM7クラスのCPUが搭載されており,おもに音声通話とメール機能を備えていた.2001年ごろに出荷された携帯電話にはARM9クラスのCPUが搭載されており,写真付きメールや動画撮影,テレビ受信,音楽再生,GPSナビゲーション,Javaアプリケーションの実行,Flash表示などの機能を備えている.これに対して,今後登場する携帯電話にはARM11クラスのCPUが搭載され,地上デジタル放送受信,3次元グラフィックス処理,高精細(HD:High Definition)ビデオ再生,セキュリティなどの機能を備えることになると,同社では見ている(写真6).同社の今後のプラットホーム戦略はまだ検討中で,詳細は決まっていないものの,マルチタスク処理やリアルタイム処理,オープンな実行環境,セキュリティ,充実した開発環境,端末メーカなどが抱える既存資産の有効活用などを重視していくことになると,上村氏は述べた.

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[写真5] ソフトバンクモバイル プロダクト・サービス開発本部 モバイル・ターミナル統括部 部長の上村政明氏
携帯電話の新機種を紹介した.また,同社の携帯電話プラットホームの方向性について述べた.

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[写真6] 携帯電話の製品とサービスの進化
地上デジタル放送受信,3次元グラフィックス処理,高精細(HD:High Definition)ビデオ再生,セキュリティなどの処理は,ARM11クラスのCPUで処理することになるという.

●ARM7プロセッサ搭載の2足歩行ロボットを展示

 講演と講演の合間の時間は,ARMコア関連製品のデモンストレーションを行う展示エリアがにぎわっていた.

 例えば,京都マイクロコンピュータはARM11プロセッサを搭載した評価ボード「KZM-ARM11-01」を展示し,その上でWindowsCE 5.0を稼働させるデモンストレーションを行った(写真7).これまで,本ボードにはLinux 2.6が付属していた.今回,初めてWindows CE対応版を公開した.本ボードはARM11プロセッサとして,米国Freescale Semiconductor社のアプリケーション・プロセッサ「i.MX31」を採用している.i.MX31は532MHz動作のARM1136JF-Sコアを搭載している.

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[写真7] WindowsCEが稼働するARM11評価ボード
京都マイクロコンピュータの「KZM-ARM11-01」.i.MX31のほか,128MバイトのMobile DDR DRAM(1.8V動作)や64MバイトのNOR型フラッシュ・メモリなどを搭載している.

 また,ソフィアシステムズは,2足歩行ロボットの実習教材「eMaster GEAR」を展示した(写真8).片足5軸,片腕3軸の全16軸構成.ホストCPUとしてARM7プロセッサ(米国Atmel社製の「AT91SAM7S128」)を採用している.C言語でプログラムを開発する.制御はシリアル通信(RS-232-C),またはZigBeeやBluetoothといった無線通信によって行う.サイズは,身長が32.5cm,全幅が16.5cm.重量は約1.4kg.アクチュエータの最大トルクは16.5kg・cm.例えば,起き上がり,前進,後退,おじぎ,片足バランス,ダンスなどの基本的な動作プログラムが付属する.また,OSとしてTOPPERS/JSPカーネルを利用できる.価格は168,000円.

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[写真8] ARM7プロセッサを搭載した2足歩行ロボットの実習教材
米国Atmel社製の「AT91SAM7S128」を搭載している.内蔵するCPUコアはARM7TDMI.右側は携帯電話のリファレンス・デザイン.

 イーソルは,マルチコア対応OS「T-Kernel Multi-Core Edition」のデモンストレーションを行った.本OSは,T-Engineフォーラムが標準化を進めているマルチプロセッサ対応T-Kernel(MP T-Kernel)の仕様に基づいている.プロセスやタスクの生成時に実行するCPUコアをあらかじめ指定しておく「SPM(Single Processor Mode)」と,OSが動的にCPUコアを選択する「TSM(True SMP Mode)」の二つのモードを備えている.前者はAMP(asymmetrical multiprocessing)型プログラムの処理を,後者はSMP(symmetrical multiprocessor)型プログラムの処理を想定している.4プロセッサ以上のマルチコアでは,これら二つのモードを混在して使用することも可能.また,POSIX APIにも対応している.

 本コンファレンスの主催者であるARM社も,展示エリアでいくつかの製品のデモンストレーションを行った.例えば,オーディオCODEC(coder-decorder)コア「AudioDE」を紹介した(写真9).本CODECコアはデュアル・ハーバード・アーキテクチャを採用したプロセッサ・コアで,同社のVLIWプロセッサ技術「OptimoDE」に基づいている.本プロセッサ・コアは,24ビットALUや24ビット×24ビットMAC(積和演算器)を備えている.ミドルウェアとして,現在,MP3デコード・ソフトウェアとAAC-LCデコード・ソフトウェアを開発済み.2006年中にそれぞれの規格のエンコード・ソフトウェアを用意する.さらに,2007年までにAC3やWindows Media Audio(WMA)のCODECソフトウェアを用意する計画.

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[写真9] オーディオCODECコアのデモンストレーション
米国Xilinx社のFPGA上にMP3やAAC-LCのデコード・ソフトウェアを実装している.

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