スキル,ついてますか~組み込みソフトウェア開発の人間学~(7) ――組み込みソフトウェア開発にUMLの効能を

渡辺のぼる

tag: 組み込み

コラム 2006年9月 4日

 最近,就学前の娘が描くお絵かきにビックリすることが多くなりました.キャラクタの特徴をとらえた絵やビビッドな色使いなど,将来は絵描きかイラストレータかと考えてしまいます(いわゆる"親バカ").最近のいちばんのヒット作は,わが家族4人の顔が描かれた作品です.4人を四隅に配置し,それを関連の線で結んで相関を表現した,いわゆるモデル図なのです(笑).

●組み込みソフトウェア開発にUMLの波

 現在の組み込みソフトウェア開発では,UMLに関するスキルが求められる傾向にあります.転職求人や受託開発の情報でも,UMLの3文字を見かけることが多くなってきています.制御系や組み込み系技術とIT(information technology)系技術の融合,およびソフトウェア規模の爆発的増加や複雑化が影響していると想像できます.複雑であいまいなものを論理的に考え,整理できることから,UMLをはじめとするモデリングに注目が集まっています.

 先日,SESSAMEのメンバと行ったディスカッションでは,モデリングの効能は開発におけるコミュニケーションの充実や,相互理解を助けることにあるという話をしました.大規模化・複雑化が進み,プロジェクト・メンバが増えた組み込みソフトウェアの開発において,UMLをはじめとするモデル表現は,コミュニケーションと理解という点から開発効率や品質向上に貢献してくれるはずです.設計やレビューの効率が格段に上がり,さらにはソフトウェア実装の自動化などの恩恵も受けられます.

 しかし,組み込みソフトウェア開発に対してUMLがすんなりと浸透し,即座に導入の効果が現れるのでしょうか? SESSAMEではNTCR要件注1と呼んでいますが,このような組み込みシステムの特性をモデルに表現できるか否かが,組み込みエンジニアの腕の見せどころとなります.

 今年(2005年)7月に行われたETロボコンでは,タイム・トライアルの順位とモデルの良さが結びつかない結果となりました.モデル・コンテスト部門の上位チームは,タイム・トライアルでは完走できないという結果になってしまいました.これは,「良い設計を行えば,良い結果が出せる」という理想とは,ほど遠い結果です.しかし,この結果は組み込みソフトウェア開発におけるモデリングの勘どころが如実に示されていると言えます.

 ETロボコンの審査委員会ではこの結果を受け,今後の組み込みソフトウェア開発において,モデルと組み込み技術の融合が必要であるとの見解を示しました.具体的には,モデルの"思考法・整理術"と,組み込み技術の制御などに関する"技"を,バランスよく組み合わせることが必要なのです.

●組み込みソフト教育の難しさと楽しみ

 ETSS(組込みスキル標準)の目的は,組み込みソフトウェアの開発力の強化です.調達や人材配置などもありますが,根幹は人材育成です.ETSSでは共通的で基礎的なスキルの向上を実現するための教育カリキュラムの作成を検討しています.2005年春に公開したETSSでは,ドラフト版として,未経験者向け教育カリキュラムを公開しました.現在は,経験者向けの教育フレームワークや,未経験者向け教育の具体的な普及推進策を検討しています.

 最近,組み込みソフトウェア教育の難しさを実感することが多いのですが,組み込みソフトウェア開発の楽しみや喜びもきちんと教えたいと考えています.ETロボコンの経験から,単にモデルを書くのではなく,失敗と成功の実体験や動く成果物が重要だと考えています.

 ET2005初日(11月16日)には,「ETロボコン・チャンピオンシップ」を行います.7月の失敗と成功の経験を得た参加者が,再びタイム・トライアルに挑戦します.多くの人に会場へ来ていただき,お祭り騒ぎと,走行体の速さと,そしてソフトウェアだけでこれだけの速度差がでることを実感していただきたいと思います注2

 話は娘の描いた家族モデル図に戻りますが,一つ大きな問題がありました.私は右下の隅に寂しく配置され,しかもいちばん小さなサイズで顔が描かれていたのです.唯一,関連の線が家族全員に引かれていたことが救いですが....一家のあるじとして左上にいちばん大きな顔で描かれるにはどうしたらいいのでしょうか? いろいろと心当たりはありますが,親子でETロボコンに出場するのも一つの方策かもしれません.

 注1;N はnature(自然法則),T はtime(リアルタイム制御),C はconstraint(制約条件),R はreliability(信頼性).
 注2http://www.etrobo.jp/ にてビデオを公開中.どれくらいの速さか,ご覧いただきたい.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2005年12月号に掲載されました)


わたなべ・のぼる
組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)

◆筆者プロフィール◆
渡辺のぼる.電機メーカ系ソフトウェア開発企業のファームウェア開発者.2002年以降,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)において組み込みソフトウェア技術者のスキルを体系的に整理するスキル標準の草案を作成.2004年9月,スキル標準の策定に専念する職場に出向,現在に至る.

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