機能安全から模型ロケット,コーチングまで,テーマ別に産学で議論 ――第8回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ(SWEST8)
2006年7月13日~14日,遠鉄ホテルエンパイヤ(静岡県浜松市)にて,産学で議論や技術交流を行うワークショップ「第8回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ(SWEST8)」が開催された.決められたテーマに基づいて自由に議論する分科会や,チュートリアル,ポスタ・セッションが開催されたほか,機能安全の考えかたやIEC61508規格の動向に関する講演なども行われた.また,電子機器を搭載した模型ロケットを打ち上げて観測データを得るプロジェクト「Hamana-3」の観測実験が早朝に実施された.数十人の観衆が見守るなか,模型ロケットが次々と打ち上げられた(写真1).
本ワークショップには,組み込みシステム開発に携わる技術者や研究者,学生など,合わせて約150名が参加した.
●機能安全の基本はリスク評価
本ワークショップの冒頭では,日本機能安全の田邊安雄氏が機能安全の考えかたやIEC61508規格の動向について講演した(写真2).機能安全とは,故障(バグ)が発生してもシステムや機器の安全性を確保できるように機能を実装しておくという考えかたである.こうした考えかたは,「絶対的な安全はありえない」ことを出発点としている.ハードウェアは使用を続ければ故障するものであり,ソフトウェアはバグがあってあたりまえと考える.つまり,システムや機器におけるリスクを評価し,発生するリスクを受容できる範囲に抑えることが機能安全の基本になる.
田邊氏によると,リスク評価の重要性や,失敗確率を示す指標「安全度水準(SIL:safety integrity level)」の使いかたを正しく理解してもらえないことが多いという.会場からは,安全性と信頼性の違いや,ソフトウェアにおいて安全関連システムをどこに実装するべきかなどについての質問が相次いだ.
IEC61508は,国際電気標準会議(IEC;International Electrotechnical Commission)が2000年に策定した,機能安全に関する国際規格である.現在も継続審議中であり,2008年に改訂版が策定される予定だという.
●三つの企業チームが模型ロケットを使った計測に挑戦
観測用の電子機器を搭載した模型ロケットを打ち上げ,飛行経路などのデータを得る開発プロジェクト「Hamana-3」の観測実験が本ワークショップ内で実施された.本プロジェクトは,模型ロケットに搭載できる電子機器の大きさや重さ,消費電力などの制約を考慮しながら,観測機器の開発から模型ロケットによる打ち上げ,データの分析までを実施することを通して,組み込みシステムのプロジェクト管理についての知見を得ることを目的としている.
本プロジェクトに参加したチームは三つで,いずれも企業によるチームである.ヴィッツは,昨年に続き2回目の参加となる.同社は新人教育のカリキュラムの一環として,このプロジェクトに参加した.今年の新入社員4名が開発を担当し,ベテラン社員がプロジェクト管理を担当した.YDKテクノロジーズは,若手育成と団結力の向上をねらって参加したという.開発の主力は若手社員2名で,ベテラン社員2名がサポートした.ビート・クラフトは,会社側から指名されたという若手のソフトウェア担当者と基板担当者の合計2名で開発した.
模型ロケットの打ち上げは2006年7月14日の朝7時から実施された.3チームが交互に模型ロケットを打ち上げ,空高く上昇していくロケットに観客から歓声があがっていた(写真3).ロケットは発射後しばらくするとパラシュートを射出し,ゆっくりと地上に降りてくるように設計されている.ただし,風のぐあいによって遠くまで流されてしまう場合もあり,参加チームのメンバが回収に走る場面もあった.
模型ロケットに搭載する電子機器の仕様や観測するデータについては,参加チームが自由に決定できる.ヴィッツは加速度センサとジャイロ・センサの値を取得し,開発した描画ソフトウェアでみごとな3次元の軌道を表示してみせた(写真4).ビート・クラフトは,加速度センサ1個で値を取得したが,この値だけでは傾きながら飛行するロケットの飛行経路を得ることができず,来年への課題を残した.YDKテクノロジーズはGの異なる加速度センサを二つ搭載した.成功すれば飛行経路が得られるはずだったが,観測値そのものを取得できなかった.
ヴィッツでプロジェクト管理を担当した大西秀一氏によると,昨年のHamana-2ではすべてが手探りだったが,今年のHamana-3ではプロジェクト管理の経験が蓄積されていたため,開発担当者を適切に指導でき,スムーズにプロジェクトを進めることができたという.ただし,新人教育という観点で見ると,「もう少し指導を控え,本人たちに考えさせたほうがよかったかもしれない」(大西氏).
また,同社で新人研修を評価する立場にあった森川聡久氏は,「組込みスキル標準(ETSS)」の枠組みを利用して,研修の成果を定量的に分析した.具体的には,ETSSのスキル基準に基づいて評価項目を整理し,研修の前後で新入社員に自己評価させた.その結果,基礎技術やプロジェクト開発技術を習得できたほか,自主的な作業進行や対外交渉の経験なども習得できたことを確認できたという.
打ち上げに使用する模型ロケットは,米国Estes Industries and COX社のC型火薬エンジンを用いた1段ロケットである.開発を始めたのは各チームとも4月中旬~5月上旬ころであり,開発期間は2ヵ月~2ヵ月半程度だった.
●参加型学習の場としてSWESTやSSESTを活用
本ワークショップは,技術者どうしの率直な意見交換の場として企画されている.「何も発言しないで帰った,ということのないように」(本ワークショップのステアリング委員長を務める高田広章氏)という主催者側のことばどおり,分科会などでは活発な議論が交わされた.例えば,「コミュニケーション改善による開発効率や品質の向上」,「子育てとコーチング」,「ソフトウェア・テストとハードウェア検証の比較」,「国内と国外での組み込みシステム開発の違い」などについての分科会が開催された(写真5).Hamana-3の最終調整のようすを公開する分科会では,YDKテクノロジーズのメンバが開発の追い込みにかかっている横で,ヴィッツのメンバが制御ソフトウェアのコード・レビューを実施し,参加したレビューアに設計方針などを問われて新入社員である担当者がたじたじとなりながら回答するといった場面もあった.
また,本ワークショップに先立つ2006年7月10日~12日,同じ会場にて,学生が企画・運営する学生のための学習の場「第2回 組込みシステム技術に関するサマースクール(SSEST2)」が開催された.参加者はソフトウェアで制御するライン・トレース・カーを事前に組み立てておき,サマー・スクールにおいて,ライン・トレース・カーの仕様変更に伴う組み込みソフトウェア開発をチームごとに行った.参加者によると,夜を徹した議論や開発が熱心に行われたという.
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