来たれITエンジニア,ヒットと自負で支えるケータイ開発へ ――組み込みおしごと百科(1)

組み込みネット編集部

tag: 組み込み

レポート 2006年7月10日

 経済産業省が実施した「2006年版 組込みソフトウェア産業実態調査」の報告書によると,組み込みシステム開発に携わった経験が1年未満という技術者が前年調査に比べて倍増している(関連記事:OMGが「組込みスキル標準」に基づいたスキル管理標準の策定に意欲を参照).これは,IT(information technology)ソフトウェア産業などから組み込みソフトウェア産業への人の移動(ドメイン・シフト)が進んでいることの表れとみることができる.例えば,開発プロジェクトの規模が大きい携帯電話のソフトウェア開発は,プロジェクト・リーダをはじめとした開発人員を求めている業種である.ここでは,携帯電話開発の現状と,ITソフトウェア技術者が携帯電話のソフトウェア開発に携わる際に新たに身につけてほしいスキルについて,松下電器産業 人材開発カンパニー コーポレート技術研修センター 首都圏チーム チームリーダーの堀内俊文氏に聞いた.

p1.jpg
[写真1] 堀内俊文氏(松下電器産業 人材開発カンパニー コーポレート技術研修センター 首都圏チーム チームリーダー)
堀内氏は2006年3月までパナソニック モバイル コミュニケーションズに所属し,技術研修を担当していた

――携帯電話開発の特徴は何ですか?

堀内氏:多くの機能を小さな筐体に詰め込むことです.今の携帯電話には,手のひらに収まる程度の大きさの筐体に,ほとんどパソコン相当の機能が入っています.そのうえ,機種が新しくなるごとにどんどん新機能が追加されますから,開発する側としては,次はどんな機能を搭載するべきかを模索しながら開発することになります.

――開発者の方々は,何を「やりがい」と感じてしごとに取り組んでいるのでしょう?

堀内氏:なんと言っても,開発した製品が市場に出て評価されたり,大きなシェアを取ったりすることが喜びです.電車の中で携帯電話を使っている人がいると,どこの製品を使っているかをチェックして,自社の製品だと自然にほおがゆるむようなところがあります.また,テレビ・ドラマなどの中で使われているときなどもうれしいですね.

 最先端の機能を搭載しているという誇りもあります.ほかには,当然のことではあるのですが,厳しい日程の中で納期どおりに納品できたり,開発終了後に引き継ぎの作業を行っているときなどに,達成感や安ど感があります.

――逆に,開発していてつらいことは何ですか?

堀内氏:とにかく忙しいことです.毎年複数機種の新製品を出す必要があり,納期どおりに開発できなかったときは,同じプロジェクトで開発する次の製品の開発期間が短くなることもあります.搭載する機能についても,例えば地上デジタル・テレビ機能などといった新しい領域を含めた最先端の機能を,タイムリーに搭載する必要があります.

――タイムリーに,ですか?

堀内氏:はい.出すべき時期に出せないと,他社に先を越されてしまい,結果として市場シェアを取れず,大きな機会損失を被ることになってしまうのです.

 携帯電話開発でQCD(品質,コスト,納期)を考えるとき,品質を最優先しなければなりませんが,あわせて納期やコスト目標も実現しなければならないという,厳しい現実があります.

――その分,ミドルウェアを利用したり,CPUやOSを統一して開発効率を高めたりといった動きがさかんです.

堀内氏:弊社の携帯電話も,従来はμITRONベースで開発していたのですが,現在の900シリーズでは,Linuxを使って製品を開発しています.また,ワンセグ放送対応の携帯電話P901iTVにおいては,松下独自のディジタル家電向け開発プラットホーム「UniPhier(ユニフィエ)」を採用し,松下グループのソフトウェアやハードウェア資産の共用,再利用化を図っています.

――今までITソフトウェアを開発していた人が携帯電話のソフトウェアを開発するにあたり,どのようなスキルが必要になりますか?

堀内氏:制御ソフトウェア開発など,ハードウェアに近いところを取り扱うので,ハードウェアやマイコンの基礎知識があったほうが入りやすいでしょう.一般に携帯電話のソフトウェア開発では,例えば限られたメモリ容量をどのように利用するかなどの最適化設計のスキルが求められます.ただ,現在ソフトウェアが大規模化しているので,設計や実装のスキルだけではなく,大規模ソフトウェア開発におけるプロジェクト管理スキルも持つ人材を増やしていく必要があります.

――技術要素以外で必要なスキルはありますか?

堀内氏:チーム・ワークやコミュニケーション能力も必要です.研修を行っていて感じるのですが,できないことやわからないことを「できません」,「わかりません」と言えない技術者が増えたように思います.わかっていないように見えるのに,聞くと「わからないわけではないんですけど...」と答えが返ってくるのです.弱みを見せたくないからなのでしょうか.

――研修するうえで,どのようなくふうをされていますか?

堀内氏:とにかく現場が忙しいので,研修センターを開発現場の近くに置き,研修時間を短くするなど,研修が受けやすくなるようにしています.また,座学よりも実習中心とし,なるべく実践的な内容になるように企画しています.

 私の所属している「人材開発カンパニー」は社内カンパニーなのですが,社内から受講料をもらって独立採算で研修しているので,研修を実施する側にも受ける側にも良い緊張感が生まれています.

――堀内様ご自身のキャリア・パスについて教えてください.

堀内氏:松下電器に入社し,旧・松下通信(現・パナソニック モバイルコミュニケーションズ)に配属されて,ミニコンのプログラマをふりだしに,長い間システム・エンジニアもしくはプロジェクト・マネージャとして道路交通システムなどの開発に携わってきました.5年前に技術研修所の設立と同時に異動を命じられ,技術社員の人材育成を担当していました.2006年4月から,親会社である松下電器全体の人材育成を担当する人材開発カンパニーに異動し,現在に至っています.


関連リンク:
・レポート:OMGが「組込みスキル標準」に基づいたスキル管理標準の策定に意欲

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日