電子コンパスや地デジ・チューナなど,モバイルとクルマの将来像をうかがわせる電子部品が集結 ――ALPS SHOW 2006
電子部品の大手メーカであるアルプス電気は,顧客向けの展示会「ALPS SHOW 2006」を2006年5月24~26日に東京の新高輪プリンスホテルで開催した(写真1).アルプス電気は毎年初夏に顧客向けの展示会としてALPS SHOWを開催し,最先端製品を披露している.今年は,携帯電話機やディジタル・カメラなどのモバイル機器と,エレクトロニクス化が進む自動車の将来像をうかがわせる展示が相次いだ.
[写真1] ALPS SHOW 2006の会場風景 (写真をクリックすると拡大できます)
東京の新高輪プリンスホテルで2006年5月24日~26日に開催された
●GPS携帯電話機を手に持って自分の方角を知る
モバイル機器関連でもっとも目を引いたのは,小型電子コンパスの参考展示である.GPS(Grobal Positioning System)内蔵携帯電話機や携帯型ナビゲーション・システムなどへの組み込みを想定して開発した.エンド・ユーザがモバイル機器を持った状態で,方位をディスプレイに地図データとともに表示する(写真2).ブースでは携帯電話機に見立てたプラスチック板に電子コンパスを取り付け,出力を表示させていた.
開発した電子コンパスは,X方向とY方向,Z方向の磁気センサを組み合わせてある.大きさは3.5mm角,高さは1mm.センサの傾斜を補正して出力する機能や周囲磁界を補正して出力する機能,地球上の位置による地磁気の違いを校正する機能を備えた.これらの機能はいずれも,センサ出力のデータ処理によって実現した.
(a)携帯電話機のディスプレイ画面を模し,地図情報とコンパスを重ねて表示してみせた
[写真2] モバイル機器向けの小型電子コンパス
磁気センサにはGMR(giant magnetoresistive)素子を利用している.大きさは3.5mm×3.5mm×1.0mm.10ピンのプラスチックLGA(land grid array)パッケージに封止してある.地球上の位置は,電子コンパスを左右に振る動作によって補正する.傾斜角(0~90度)と周囲磁界(±5ガウスまで)の影響は,磁気センサの出力をもとに,独自のアルゴリズム処理によって自動的に補正する
●地上デジタルのテレビとラジオを携帯端末で受信
地上デジタルテレビの1セグメント放送(ワンセグ)と地上デジタルラジオの3セグメント放送(3セグ)の両方に対応した小型チューナ・モジュール(参考出展)も来場者の注目を集めていた(写真3).ワンセグは2006年4月に本放送サービスが始まっており,3セグはALPS SHOW 2006の時点で試験放送が実施されている.展示ブースでは,富士通研究所の携帯端末「.u Visual」にチューナ・モジュールを組み込み,テレビ放送とラジオ放送を受信してみせていた.このほか5月下旬にサンプル出荷を開始したワンセグ対応の小型チューナ・モジュール「TDPJシリーズ」を展示していた.TDPJシリーズの外形寸法は9.5mm×9.5mm×1.7mm.消費電力は180mW.サンプル価格は2万1000円(税込み).
(b)携帯端末を使って地上デジタル放送を実際に受信してみせたところ
外形寸法は14mm×14mm×1.5mmと小さく,薄い.
●モバイル機器用燃料電池に向けた小型ポンプ
モバイル機器の2次電池には現在,リチウムイオン電池またはニッケル水素電池を使うことが多い.これらの2次電池よりもエネルギー密度が高いため,将来のモバイル用電池として開発が進められているのが燃料電池である.燃料電池にはいくつかの方式があり,モバイル向けにはメタノールを燃料とする燃料電池を開発中の企業が多い.このメタノール燃料電池向けに,今回のALPS SHOWでは小型電磁ポンプと小型電磁バルブを参考展示していた(写真4).小型電磁ポンプは大きさの違うタイプがいくつかあり,外形寸法は直径12.2mm×長さ29.3mm~直径6mm×長さ27.8mm,消費電力は0.6~0.7W.小型電磁バルブの外形寸法は縦8.5mm×横8.5mm×高さ10.3mm,消費電力は最大3W.
(a)開発中のマイクロポンプとマイクロバルブを組み込んだ燃料電池システムの模式図
[写真4] モバイル機器用メタノール燃料電池向けの小型電磁ポンプ(マイクロポンプ)と小型電磁バルブ(マイクロバルブ)
マイクロポンプはダイアフラムや逆流防止弁などで構成されている.
●0.27mmの極薄タクト・スイッチ
モバイル機器の操作用をねらった超小型スイッチも目を引いた.タクト・スイッチでは,外形寸法が縦2.3mm×横1.6mm×高さ0.27mmと極めて薄いスイッチが参考出品されていた(写真5).ブースでは実物をプラスチック板に組み込み,来場者に操作感を試してもらっていた.
カメラ用のダブル・アクション・タクト・スイッチでは,大きさが縦4.2mm×横4.0mm,高さが0.6mmと小さな「SKSDシリーズ」が出品されていた(写真6).アルプス電気の従来品に比べ,大きさが64%小さくなり,高さが33%低くなっているという.動作寿命は10万回以上.2006年5月下旬にサンプル出荷を始めた.サンプル価格は105円(税込み).なお,ダブル・アクション・タクト・スイッチは,接点が2ヵ所あるタクト・スイッチのこと.軽く押し込むと焦点合わせとなり,さらに押し込むとシャッタを切る動作となる.
[写真5] 高さ0.27mmと極めて薄いタクト・スイッチ
大きさは縦2.3mm×横1.6mm.右下のプラスチック板にスイッチを埋め込んであり,来場者が操作できるようになっている
(c)携帯電話機の側面にカメラのシャッタ用スイッチとして取り付けたようす
スイッチの大きさは縦4.2mm×横4.0mm.作動力は1段目が0.59N,2段目が1.57N.動作寿命は10万回以上.従来のダブル・アクション・タクト・スイッチでは,外形寸法が6mm角あった.本タクト・スイッチを利用すると,従来品に比べて携帯電話機の本体を薄くしやすい.
●広角190度のカメラで自動車周囲の死角をゼロに
自動車関連の展示では,撮影時の視野角が190度と極めて広い車載用小型カメラの参考展示が来場者の注目を集めていた(写真7).車両周囲の監視に使う.前面,後面,右側面,左側面の4ヵ所にこの小型カメラを取り付けることで,撮影範囲の死角をゼロにできる.従来の車両周囲監視用カメラは視野角が120度くらいだったため,カメラを固定した状態では死角が生じていた.
開発した監視用小型カメラは,レンズに魚眼レンズを使って視野角を広げた.魚眼レンズだとレンズ周縁部の画像がひずむため,画像処理によってひずみを補正している.イメージ・センサはCCD.解像度がSXGA(1280×1024画素)の130万画素CCDを搭載したカメラと,解像度がVGA(640×480画素)の30万画素CCDを搭載したカメラを展示した.また実車にカメラを搭載して撮影した映像をディスプレイに表示し,実際にどのように見えるのかを示していた.
(b)従来のカメラ(右図)と今回開発したカメラ(左図)による撮影範囲の違い
(c)従来のカメラによる撮影画像(左側のディスプレイ)と今回開発したカメラによる撮影画像(右側のディスプレイ,画像は補正済み)を並べて表示したところ
外形寸法は25mm×25mm×25mm.(d)の左側のディスプレイには撮影時の自動車の動き(この映像では後進している)を,右側のディスプレイには撮影済みの画像を,手前のミニカーにはカメラの位置(後部の赤ランプ)をそれぞれ展示した
ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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