スキル,ついてますか~組み込みソフトウェア開発の人間学~(6) ――ロードマップに思い出を記録

渡辺のぼる

tag: 組み込み

コラム 2006年4月 3日

 7月下旬,海へ家族旅行に行ってきました.つねに渋滞する京葉道路の渋滞ポイントをがまんした後,走り慣れた裏道である広域農道をそう快にドライブ.車にカーナビを搭載している今でも,若かりしころに慣れ親しんだルートを選択してしまうものです.頭の中にあるロードマップには,あのころの思い出がマッピングされていますが,近い将来,カーナビに思い出まで記録される日が来るのかもしれませんね.

 ちなみに最新のカーナビでは,実際に走行する車から道路ごとの情報をリアルタイムに集計し,より精度の高い渋滞情報を提供してくれます.車という組み込みシステムが交通情報システムと連携し,高い利便性を実現しているわけです.

 GPS(global positioning system)から提供される位置情報を地図上にマッピングするだけだった初期のカーナビ開発と現在の先進的なカーナビ開発は,どのくらい違うのでしょうか?

 VICS(Vehicle Information and Communication System),タッチ・スクリーン,CD/DVD-ROM再生,ハード・ディスク装置,音楽録音,インターネット接続,ETC(Electronic Toll Collection),....次々と搭載されていく技術要素は非常に多岐にわたり,これらをあの小さな筐体に組み込んで有機的に機能させるには,非常に高いレベルのスキルが必要です.

 また,これだけ多くの機能を制御しつつ,同時に高速な情報処理も行うため,メモリやバスなどの容量や速度に関する設計も難しいと考えられます.車載ということから信頼性設計も重要でしょう.温度,振動,電源供給環境など,非常にシビアな条件を考慮した設計と検証が必要になります.

 さらには管理技術も重要です.大規模開発であり,海外も含めたアウト・ソースを活用した開発マネージメントや,車載ということから自動車に近い品質管理も求められることでしょう.

 これらすべてをまとめて,カーナビという製品(システム)のドメイン・スキルと表現するべきなのかもしれません.

●カーナビ開発者はどのようにスキルアップしていくのか

 これほど多機能や高品質が求められるカーナビ開発を行うエンジニアは,どのようにしてスキルアップを図っていくのでしょう?

 技術要素に着目すると,パターンは2通り考えられます.まず,位置情報を地図上にマッピングするという基本機能に関するスキルをベースに,付加価値を提供する技術要素のスキルを後から順番に身に付けていく方法です.次に,付加価値を提供する技術要素のスキルをベースに,カーナビ開発に従事しながら,カーナビという製品のドメイン・スキルや別の技術要素のスキルを身に付ける方法です.

 前者のパターンは,カーナビの創成期から活躍するエンジニアや一部の限られた人にしか体験できないかもしれません.後者であれば,多くの人がほかの製品ドメインで得たスキルを生かしながらスキルアップやキャリアアップが図れる可能性が高いと思われます.

 また,前述のように精度の高い渋滞情報や利便性を高める機能の提供などをはじめ,カーナビでは情報処理の比重が高まってきています.このような分野は,IT(information technology)系システムの開発スキルが生かせる分野であるとも言えます.「カーナビ・スペシャリスト」は,組み込み系とIT 系の架け橋となりながら,システム開発を引っ張っていくのかもしれません.

●キャリア定義に苦戦中

 残暑の中,筆者は今年度(2005年度)末のVersion1.0策定を目指す「キャリア基準」の調査・検討を行っており,熱い毎日となっています.このキャリア基準は,組み込み開発における「ITスキル標準」に相当するスキル・キャリアを定義します.そのため,カーナビを代表とするIT開発と組み込み開発の接点を意識しなくてはなりません.このあたりをいかにシームレスに実現できるか,いかに相互乗り入れしやすくできるかが,筆者の腕の見せどころなのかもしれません.

 海からの帰りの京葉道路.いつも渋滞するポイントで,やはり渋滞してしまいました.車内では遊び疲れた家族が寝息をたて,筆者はひとり,若かりしころから走り慣れたルートに,家族との新しい思い出をマッピングしていくのでした.

 注1;あくまでも仮称.現在公開しているキャリア基準のドラフトでは「ドメイン・スペシャリスト」を定義している.これは各種技術に関するスペシャリストであり,この一つのインスタンス例として,このような名称が使えるかもしれない.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2005年10月号に掲載されました)


わたなべ・のぼる
組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)

◆筆者プロフィール◆
渡辺のぼる.電機メーカ系ソフトウェア開発企業のファームウェア開発者.2002年以降,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)において組み込みソフトウェア技術者のスキルを体系的に整理するスキル標準の草案を作成.2004年9月,スキル標準の策定に専念する職場に出向,現在に至る.

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