エンジニアのためのマーケティング講座 ――広報の役割

浮谷光明

tag: 組み込み

コラム 2006年3月 1日

 会社の組織にはさまざまな部署があり,それぞれ担当の業務を遂行しています.エレクトロニクス関連企業では,開発,設計などの技術部門,営業,マーケティング,広報などの顧客や市場と接する部門,そのほか経理,総務などの間接部門,またそれ以外にも多くの部署があるかと思います.製品を開発・製造し,販売するという過程で直接かかわるのは,開発などの技術部門と営業,マーケティング,広報部門などになります.

 広報部門の第1のしごとは,会社や製品の情報を広く市場に提供し,記事などの形でメディアに取り上げてもらい,会社や製品を正しく認知してもらうことです.広報は営業などとは異なり,個々の顧客ではなく,市場全体を相手にしています.つまり,顧客となりうる市場のすべての人々に対して,適切な情報を提供しなければなりません.

 ここでは,製品を拡販する際の開発部門と広報部門の関係,および広報部門のしごとについて述べたいと思います.

●開発サイドと広報サイドの間には情報のギャップがある

 以前,あるソフトウェア・ベンダが「新バージョンの製品を年内に発売」というCMを流しました.しかし,実際にはその製品が年内に発売されることはありませんでした.しかも,開発サイドはCMが流されるまで,そのCMの存在さえ知らなかったというのです.

 開発サイドにしてみれば,「そんなCMの話は聞いてない」という状態だったわけです.一方,広報サイドはというと,こちらはこちらで,「開発が遅れているなんて聞いてないよ」というわけで,お互いに「聞いてない」という状態だったそうです.そんなバカなことがあるのかと思いますが,これは実際にあった話です.いったい何が問題だったのでしょうか.

 それは,それぞれの立場の思い込みです.開発サイドとしては,「開発が遅れていることくらい知ってるでしょ」という思い込み.そして,広報サイドとしては,「何も聞いていないんだから,開発は予定どおり進んでいるんでしょ」という思い込み.このようなそれぞれの思い込みが両者の状況認識のギャップを広げていったのです.その結果,広報と開発の間のコミュニケーションに決定的な不ぐあいが生じ,情報は共有されず,そしてそれぞれが希望的観測に基づく孤立した情報しか持っていないということになったわけです.

 ここまで極端ではないにしても,開発と,広報やマーケティング,そのほかの部門の間で,情報や考えかたにギャップがあることは珍しくありません.

●自分が知っていることを相手も知っているとは限らない

 顧客に製品を購入してもらったり,サービスを利用してもらうためには,まずその製品やサービスを顧客に認知してもらわなければなりません.そのために,広報部門は顧客や市場に対する製品やサービスの情報をまとめ上げ,外部に公開します.広報は社内の開発をはじめとする各関係部署から情報を収集し,これを顧客向け,あるいは市場向けの情報に加工します.そのとき,広報と開発の間のコミュニケーションのよしあしが,公開する情報の量と質に大きな影響を与えます.

 先ほどの例の「聞いてない」とか,「...のはず」といった誤解や思い込みは致命的な結果をもたらします.開発サイドは自分たちで製品開発を行っているわけですから,開発している製品の内容や進捗状況などは当然わかっているわけです.そして,ありがちなことが,「自分が知っていることは相手も知っている」と思い込んでしまうことです.一方,広報サイドはどうかというと,製品について基本的に開発から聞いたことしか知りえません.そこで,広報と開発では,それぞれが持っている情報の量と質に大きな差が生じてしまうのです.

 顧客や市場,別部署など,自分のグループ(開発部門)以外の人たちとコミュニケーションを取るときに重要なのは,「自分が知っていることでも,相手は知らないかもしれない」と考えることです.そして,その何も知らない相手に対して,必要十分な情報を提供する必要があるということです.少なすぎず,多すぎず,簡単すぎず,難しすぎず....

 これは非常に難しいことです.個々人が持っている情報や知識はすべて異なるので,そのすべてに対応するというのはほぼ不可能です.どのような人たち(市場)に対して,どのような情報をどのような方法で提供するのか.これらを決定し,実施していくのが広報の重要なしごとの一つです.そして,そのためには開発と広報の連携が必要不可欠なのです.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2005年11月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
浮谷光明.外資系半導体メーカに20年間にわたって勤務.応用技術部,マーケティング部に在籍.その後,日本の半導体ベンチャ企業のマーケティング職に転職.2004年4月,インサイト・コミュニケーションズ(http://www.insight-com.jp/)を設立,現在に至る.

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