スキル,ついてますか~組み込みソフトウェア開発の人間学~(4) ――エンジニアのゴールド免許

渡辺のぼる

tag: 組み込み

コラム 2005年10月20日

 昨年末,知り合いの大学院生が博士課程に進むべきかどうかで悩んでいました.そのころ筆者は,組み込みソフトウェア開発に関連する産学官の有識者の方々と知り合う機会が多くなり,多くの方が工学博士の肩書きを持っていることにびっくりしていたところでした.

 悩める大学院生には「この業界のためにも博士になってくれ!」と勧めました.海外では"Doctor"の肩書きがあると扱いがまったく違うとのことです.これからは組み込み技術も海外で勝負していく時代ですから,日本の勢力として博士の数が多いに越したことはありません.

●免許は必要か?

 現在,組み込みソフトウェアを開発するのに免許や資格は必要ありません.「博士」でなくても,「技術士」や「情報処理技術者」でなくても,最先端の組み込みソフトウェア開発に携われるのです.

 ところで,「免許が必要な職業や行為は,国民の生命や生活に危害を加える可能性があるか否かで考えればわかる」と聞いたことがあります.自動車の運転や医師の業務は,生命に危害を与える可能性があります.調理師や薬剤師,建築士もこれに該当するでしょう.それでは,組み込みシステムや組み込みソフトウェアは,生命や生活に危害を加えるのでしょうか? 答えはYESです.医療機器,自動車,鉄道は生命に危害を加える可能性があります.また,爆発や感電の恐れがある組み込みシステムも同様です.工作機器だってそうです.電気・水道・ガス・通信などのインフラストラクチャが正常に作動しないと,生活に(場合によっては生命にも)大きな影響を与えます.これらを考え合わせると,当然,組み込みソフトウェア開発にも免許が必要であると思えてきます.

 建物を作る1級建築士の資格は,知識試験と図面試験,実績を総合して合否が決定されます.組み込みソフトウェア開発者の資格も,同様に実施してみてはどうでしょうか? まぁ,言うのは簡単ですが,実施するのが簡単かどうかはみなさんもご承知のとおりです....

 せめて,1級建築士と同じように,開発プロジェクト全員でなくても責任者だけは免許を持っているとか,免許を持っていないと開業できないなどの制約があるとよいのかもしれません.さらに言うと,過去5 年間において市場で問題を起こしていなければ「ゴールド免許」となり,各種優遇措置が受けられたりして? そして,「ペーパ・エンジニア」が続出したりして?

●ETSSについて語るための免許も必要?

 筆者は資格取得などにかかわる組織に所属しているという立場上,この種の冗談は危険でもあり,とりあえずこの話題はここまでにしたいと思います(今後,折りを見て,いろいろな応用ドメインや立場の人に話を聞いていきたいと思っている).

 筆者の近況としては,「組込みスキル標準(ETSS)」の公開に向けての作業が4月からの新年度の作業と重なり,パニック状態です(この雑誌が発売されるころには,すでに公開されている).とくに,ETSSを説明する方法や用語の定義で四苦八苦しています.きちんと思いを伝えられていなかったり,自分はわかっている概念だったためまったく説明していない用語があったりなど,ミスを次々と検出する毎日です.実際のシステム開発のときと同じように,開発者の思い込みやドキュメント不足などを多々指摘されて,ちょっと凹んでしまいます....

 さて,「博士」と聞いて,筆者が真っ先に思い浮かべるのは「御茶ノ水博士」です.鉄腕アトムを作ったのは御茶ノ水博士というイメージがありますが,これは大きなまちがいです.アトムを作ったのは,アトムの父親である天馬博士です(御茶ノ水博士はアトムの保守担当者).アトムは小型原子炉を内蔵するロボットですが,開発した天馬博士は原子力を取り扱う免許を持っていたのでしょうか? なんだか心配になってきました.不ぐあいなく安全に開発されていることを願いつつ,おもちゃ箱の奥で眠っていたアトムの人形を久々に取り出し,息子に手渡しました.小さな手がアトムを受け取るとき,組み込みシステムと組み込みエンジニアがもたらす「安全で平和な世の中」を願う筆者でありました

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2005年7月号に掲載されました)


わたなべ・のぼる
組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)

◆筆者プロフィール◆
渡辺のぼる.電機メーカ系ソフトウェア開発企業のファームウェア開発者.2002年以降,組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)において組み込みソフトウェア技術者のスキルを体系的に整理するスキル標準の草案を作成.2004年9月,スキル標準の策定に専念する職場に出向,現在に至る.

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