FlexRayやLINなど,車載ネット関連のデモが相次ぐ ――第8回 組込みシステム開発技術展(ESEC)

組み込みネット編集部

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レポート 2005年7月28日

 2005年6月29日~7月1日,組み込みシステム開発に関する展示会「第8回 組込みシステム開発技術展(ESEC)」が,東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催された(写真1).FlexRayやLIN(local interconnect network)など,車載ネットワーク関連の評価ボードやLSIなどに関する展示があちらこちらで行われていた.

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[写真1] 第8回 組み込みシステム開発技術展の会場風景
2005年6月29日~7月1日に東京ビッグサイトにて開催された.

●FlexRay通信を検証する評価ボードが入手可能に

 横河ディジタルコンピュータは,FlexRay評価ボード「GT200シリーズ」に関するデモンストレーションを行った(写真2).本評価ボードは,同社とNECエレクトロニクスオーストリアDECOMSYS社によって共同開発された.

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[写真2] GT200シリーズの外観
価格は約367,000円.本評価ボードは欧州でも発売される.DECOMSYS社が販売を行う.

 本評価ボードは,オランダRoyal Philips Electronics社のFlexRayバス・ドライバLSI「TJA080N1C」を搭載している.また,ホスト・マイコンとして,NECエレクトロニクスの32ビット・マイコン「V850E/IA1」を採用した.横河ディジタルコンピュータは,ドイツBosch社とFlexRay通信コントローラIPコアについてライセンス契約を結んでおり,本評価ボードには同IPコアを実装したFPGAが実装されている.なお,同IPコアは2005年5月に公開されたFlexRayの最新仕様(Version 2.1)に,まだ対応していおらず,現在のところ特定ユーザに限定してベータ版の評価ボードを提供しているという.Bosch社のIPコアが最新仕様に対応した段階で,本評価ボードの正式版の提供を開始する予定.その際には,デバイス・ドライバとしてDECOMSYS社の「COMMSTACK」を実装するという.

 デモンストレーションでは,本評価ボード2台と同社のモジュール型計測器「WE7000」をFlexRayクラスタ内のノードと見立てて,データのモニタリングを行った(写真3).静的セグメントにおけるペイロードを時間軸で表示した.

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(a) デモンストレーションの構成

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(b) ペイロードの表示

[写真3] GT200シリーズのデモンストレーション
FlexRayネットワークに三つのノード(二つの評価ボードと1台の計測器)を接続した場合のデータ(ペイロード)を時間軸で表示した.

 また,富士通もFlexRay評価ボード「MB2005-01」を開発し,すでに発売を開始している.本展示会でもデモンストレーションが行われていた(写真4)

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[写真4] MB2005-01の外観
左のボードがCPU制御ボード,右のボードがFPGAボード.CPUにはプロトコル制御用ソフトウェアが実装されている.価格は315,000円.

 MB2005-01は,ホスト・マイコン(同社のMB91F369G)を搭載したCPU制御ボードと,通信コントローラを搭載したFPGAボードからなる.通信コントローラについては,現段階ではBosch社のIPコア(FlexRay version 2.0)をFPGAに搭載しているが,2005年末までに,独自のASSP(application specific standard products)を開発して提供する計画.2006年第1四半期には,ホスト・マイコンと通信コントローラを1チップに集積したLSIをサンプル出荷するという.

●車載応用から家電応用へ広がるLINプロトコル

 NECエレクトロニクスは,ボディ系の車載ネットワークとして採用されつつあるLINのトランシーバ回路と5V電源回路を内蔵した8ビット・マイコン「uPD78F8006HGB」を利用したデモンストレーションを行った.自動車の模型のミラー制御などを本マイコンで行った(写真5)

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(a) 自動車の模型によるデモンストレーション


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(b) ミラー制御を行っている基板


[写真5] uPD78F8006HGBのデモンストレーションのようす
CAN-LINゲートウェイ・ボードやLINスレーブ・ボードが搭載されており,ミラー制御などを行っている.LINトランシーバや電源回路を内蔵した8ビット・マイコンとして,メモリの種類(フラッシュ・メモリ,マスクROM)や内蔵メモリ容量の異なる合計9品種を用意する.

 本マイコンは32Kバイトのフラッシュ・メモリを内蔵している.パッケージは52ピンQFP.LINトランシーバはLIN 2.0に対応している.今回のデモンストレーションではデバイス・ドライバ・ソフトウェアにLIN 1.3対応のものを用いたが,本マイコンのサンプル出荷が開始される2005年10月には,LIN 2.0対応のデバイス・ドライバ・ソフトウェアを用意する予定.量産出荷は2006年夏ごろの予定.

 一方,ルネサス テクノロジはLINプロトコルを家電製品に応用した場合のデモンストレーションを行った.アプリケーション例としてオーブン・レンジを想定し,四つのヒータ(スレーブ)の温度調整や温度表示などの制御をLINを介して行った(写真6).マスタ側には同社の16ビット・マイコン「H8/36049F」を,スレーブ側には16ビット・マイコン「H8/3694」,「H8/38602F],「R8C/11」,「R8C/17」を組み込んだ.バス・ドライバは,一般的なTTL ICを使って構成した.

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[写真6] ルネサス テクノロジのLINのデモンストレーションのようす
手前の四つがスレーブ,右上がマスタの役割を果たしている.

 LINは,もともと低コストの車載ネットワークを実現するために策定された標準プロトコルである.そのため,シンプルなプロトコルであり,かつLIN 2.0からはプラグ・アンド・プレイにも対応している.今回のデモンストレーションに使われたソフトウェア(デバイス・ドライバなど)はLIN 2.0に対応しており,数KバイトのROMに収めることができたという.

 現状,家電製品の中のシリアル通信については,メーカ独自の(場合によっては,製品ごとに異なる)制御プロトコルが用いられるケースが多い.海外の家電メーカの中には,低コスト,少メモリ容量,高信頼性,業界標準といったLINの特徴を家電製品に生かそうという動きがあるという.

 時期は未定だが,開発した「H8/300H Tinyシリーズ」,「H8/300H-Super Low Powerシリーズ」,「R8C/Tinyシリーズ」向けのAPI(ミドルウェア)やLIN 2.0に対応したデバイス・ドライバは,同社のWebサイトからダウンロードして利用できるようにする予定.また,ユーザからの要求に応じて,カスタマイズやアプリケーション・ソフトウェアの設計サポートなども行っていきたいという.

●バッテリの模造品を検知する認証チップと認証ソフトウェアを展示

 NECエレクトロニクスは,バッテリの模造品を検知するLSI「UNI-S認証チップ」と同ソフトウェア「UNI-S認証ソフトウェア」のデモンストレーションを行った(写真7).最近では携帯電話やディジタル・カメラなどに組み込むLiイオン2次電池の模造品が出回っている.中には粗悪なものもあり,爆発事故につながるケースも出てきている.そこで,暗号による認証を利用して,模造バッテリを検知する機能を機器に組み込むことを同社は提案している.

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[写真7] NECエレクトロニクスの認証チップ
左側のバッテリ上の基板に実装されているのがUNI-S認証チップ.外形寸法は2mm角.

 同社が提案する認証機能の実装方法は3種類ある.すなわち,1) 暗号認証機能を持つ認証チップを装置本体とバッテリの両方に組み込む方法,2) バッテリには認証チップを組み込み,装置本体にはメインCPU上で動作する暗号認証ソフトウェア(暗号ライブラリ)を組み込む方法,3) バッテリにCPUを搭載し,装置本体とバッテリの両方に,それぞれのCPU上で動作する暗号認証ソフトウェアを組み込む方法,である.暗号技術として,NECが開発した共通鍵方式の「CIPHERUNICORN-S(サイファーユニコーンエス)」を利用している.

●カスタム命令を追加できるプロセッサを利用してH.264をデモ

 米国Stretch社は,ユーザが手元でカスタム命令を追加できる32ビットRISCプロセッサ「S5500」を展示した(写真8).S5500は,同社がすでに発表している「S5000ファミリ」の1品種である.すでに出荷しているS5610は,PCI-XインターフェースやギガビットEthernetインターフェース,64ビットのSysADバス・インターフェース(SysADバスはMIPSアーキテクチャの標準システム・バス)を搭載している.S5500ではこれらを省いて,チップ・コストを引き下げた.

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[写真8] S5500を搭載した評価ボード「S55DVK00」
S5500のほか,256MバイトのDDR400 SDRAM,4Mバイトのフラッシュ・メモリ,4MビットのSRAM,8KビットのEEPROM,2個の10M/100M Ethernetポート,2個のFIFOメモリ・インターフェース(拡張コネクタに接続),2個のRS-232-Cポートなどを備えている.

 本ファミリには,米国Tensilica社のコンフィギャラブル・プロセッサ・コア「Xtensa」とプログラマブル論理ブロック(一種のPLD)が組み込まれている.ユーザは,C/C++によって追加したいカスタム命令を記述する.ワイヤレス通信やビデオ信号処理,画像処理などの用途で利用できるという.S5500のCPUコアの動作周波数は300MHz.TLB(translation look-aside buffer)付きMMU(memory management unit)や単精度浮動小数点演算ブロックを搭載している.

 今回の展示会では,S5610を利用するH.264ビデオ・コーデックのリファレンス設計(評価ボードとサンプル設計)も展示した(写真9).本リファレンス設計は,米国Vanguard Software Solutions社が開発した.H.264のプロファイルはメイン・プロファイル,解像度はD1(720×480画素)に対応している.ソース・コードをユーザがカスタマイズすることも可能.本リファレンス設計はStretch社の日本支社から入手できる.

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[写真9] H.264ビデオ・コーデックのデモンストレーション
ディジタル・ビデオ・レコーダの映像(奥のディスプレイに表示されている映像)を取り込み,S5610でエンコードし,圧縮されたビット・ストリームをギガビットEthenet経由で手前のディスプレイに転送・表示している.

●ダイナミック・リコンフィギャラブル技術を2次元FFT処理に利用

 アイピーフレックスは,理化学研究所と共同開発した2次元FFTアクセラレータを展示した(写真10).アイピーフレックスが同社のダイナミック・リコンフィギャラブル・プロセッサ「DAPDNA-2」を2個搭載したボード「DAPDNA-EB4」を提供し,理化学研究所がこのボードに2次元FFT処理(HIOアルゴリズム)を実装した.理化学研究所は,電磁波の強度分布データから位相情報を回復する処理に本ボードを利用することを想定して開発した.例えば,生物試料にX線を照射してX線散乱強度データを収集するために利用している.ダイナミック・リコンフィギャラブル・プロセッサを利用したことで,通常のCPUを使った場合の約13倍の速度でFFT処理を実行できたという.

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[写真10] 2次元FFTアクセラレータのデモンストレーション
奥のボードが「DAPDNA-EB4」.ダイナミック・リコンフィギャラブル・プロセッサ「DAPDNA-2」を2個搭載している.

 今回の処理では,10以上のコンフィグレーション(回路構成)を定期的に切り替えており,さらに一部のブロックのみコンフィグレーションを書き換える手法も利用しているという.

 これとは別に,同社はアックス製の組み込みLinux「axLinux」を実装したDAPDNA-2ボードも展示した.

●計測環境構築のLabVIEWをソフトウェア開発ツールとして利用

 日本ナショナルインスツルメンツのブースでは,計測環境の構築ツールとして知られている同社の「LabVIEW」に対応した新しいソフトウェアが紹介された.組み込みシステム設計ツールとしての利用を視野に入れた「LabVIEW DSPモジュール」と「LabVIEW組込システム開発モジュール」である.LabVIEWにこれらのモジュールを追加すると,GUI操作によってDSPやマイクロプロセッサのプログラミングが行える.

 LabVIEW DSPモジュールの場合,ユーザがGUI操作でディジタル信号処理(例えばフィルタリングやスペクトラム解析,浮動小数点演算と固定小数点演算の変換など)の手順を入力する.LabVIEW DSPモジュールは,この手順に基づいたCソース・コードを生成し,さらにコンパイラによってオブジェクト・コードに変換する.現在のところ,米国Texas Instruments社のDSP「TMS320C6711」や「TMS320C67xTM」を搭載した評価ボード,および米国National Instruments社のDSP評価ボード「NI SPEEDY-33(TMS320VC33搭載)」に対応したコードを生成する(写真11).おもに,プロトタイプの作製や教育教材としての利用を見込んでいる.また,実設計にも対応できるように,対応するDSPを増やしていきたいという.

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[写真11] LabVIEW DSPモジュールのデモンストレーション
写真の左側がNational Instruments社のDSP評価ボード「NI SPEEDY-33(TMS320VC33搭載)」.パソコンと評価ボードはUSBケーブルによって接続する.本モジュールはすでに発売を開始している.価格は55万円(教育機関向けは6万円).

 一方,LabVIEW組込システム開発モジュールは,32ビット・マイクロプロセッサ向けのソフトウェア開発環境である.LabVIEWでアプリケーションの処理手順を定義すると,Cソース・コードを生成する.これをコンパイルしてターゲット・デバイスに実装する(写真12).ターゲット・デバイスについては,任意のマイクロプロセッサを扱えるとしている.ただし,本モジュールに登録されていない新規のマイクロプロセッサやソフトウェア開発ツールを扱う場合には,クロスコンパイルを行う必要がある.

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[写真12] LabVIEW組込システム開発モジュールのデモンストレーション
写真は,ESEC開催前に日本ナショナルインスツルメンツ社内で行われたデモンストレーションのようす.米国Freescale Semiconductor社の32ビット・マイコン「MPC566」をターゲットとしたデモンストレーション.光源に応じて太陽電池パネルの角度を調整している.OSとして,米国WindRiver社のVxWorksを用いている.

●UMLモデリング・ツールRhapsodyが日本語対応に

 米国I-Logix社は,同社のUMLモデリング・ツールの最新版「Rhapsody 6.0」のデモンストレーションを行った(写真13).今回のバージョンから,メニューやダイアログ,ユーザ・メッセージを日本語化した.また,UML2.0規格に合わせて,モデリング機能(ダイアグラムの入力/編集機能)を改善した.例えば,アクティビティ図のオブジェクト・ノードにインステート・ラベルを付けられるようにしたり,ツールの中で使用する名称をUML2.0規格に合わせたりした.また,モデルの要素と他の要素を関連付けられるようにした.さらに,サード・パーティ製の要件管理ツールなどと連携するためのインターフェースを用意するなどの改善も行った.

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[写真13] Rhapsody 6.0の画面例
メニューやダイアログ,ユーザ・メッセージが日本語化されている.

 本ツールを利用すると,C言語を使用する組み込みシステム設計者でも,モデル駆動型の開発やオブジェクト指向型の開発が容易に行えるという.

●時間精度付きSystemCモデルを自動生成できる協調検証環境

 インターデザイン・テクノロジーは,ハードウェア・ソフトウェア協調検証ツール「FastVeri」を展示した.ハードウェアをSystemCでモデル化し,これとC言語のソース・コード(ソフトウェア)を組み合わせて実行することにより,ハードウェア・ソフトウェア協調検証を実現する.CPUモデルとして,時間精度付き(timed)のSystemCモデルを利用する.命令セット・シミュレータを使う場合と比べて,処理が約2けた速くなるという.

 本ツールはC言語のソース・コード(時間精度のないアルゴリズム記述)から時間精度付きのSystemCコードを自動生成する機能を備えている.ターゲット・コンパイラによって生成したアセンブラ・コードを実行し,基本ブロックごとに実行時の命令サイクル数を算出する.こうして求めた時間情報を,wait文としてSystemCコードに埋め込んでいる.この技術はSTARC(半導体理工学研究センター)が開発した.このほか,ターゲットCPU上のソフトウェアの実行サイクル数やキャッシュのヒット率などのプロファイル情報を出力するツールも備えている.現在,CPUモデルとしてARM7,ARM9,ARM9Eに対応している.2005年10月から出荷を開始する.

 また,同社はシステム仕様をグラフィカルに入力/編集するためのツール「eMSC」のデモンストレーションも行った.本ツールはシステム仕様表現の文法ミスをチェックする機能や,ビヘイビア合成ツール(米国Y Explorations社の「XE」)の制約を満たしているかどうかをチェックする機能などを搭載している.

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